明日 ⑤
彼らとの移動はとても楽しかった。
毎日誰かと話をしてこれまでの生活を語り、
僕と同様に町中をさまよって生活している人もいた。
しかし、活動時間が違うからこれまで遭遇しなかったんだとわかった。
また、初めに会った彼のように前の世界で富裕層でシェルターを買った人や
噂のようなウイルスの話を信じ、事前に準備していた人もいた。
移動の中では、体力に限界を感じ立ち寄った町で別れを告げるものや、
夜中に感染者に襲われて死んでしまったもの。
また、感染してしまい、泣く泣く殺される人もいた。
通常であれば、止めるような出来事もその先の東にある希望に
この集団は飲み込まれて、冷静な判断はもはやできていなかった。
ある日僕とテアを見たことがあるという人に会った。
挨拶しに行こうとしたところで、僕とテアは
非感染者の皆に囲まれた。
全く理解ができなかった。昨日まで一緒に
話し合い、笑いあった人たちだ。
希望を語り合った人たちだ。
なのに今は、冷たい目で睨んでいる。
殺意をもって睨んでいる。
信じられない様子で見つめている。
「どうかしたんですか?」
「なあ、俺はあんたたちを知ってるぜ。
夕方になると犬を殺してるよな。
そして、そこの犬がそれを食ってる。
毎日の習慣だったもんな。」
なるほど。
あの怒号を上げてる男が
僕たちを見たことがある人か。
「隠していたことは申し訳なく思っています。しかし、テアは、いや、感染生物は感染対象と捕食対象を同種のみに限定していることがわかっています。テアは我々人間を襲ったりしません。」
自分の考えを、そして事実を焦らずに伝えたつもりだった。しかし彼らの耳には何も届いていない。それは顔を見れば簡単にわかることだった。
「感染生物は殺すことが決まりだよな。」
群衆の中でポツリとその声が聞こえた。
集団心理。
希望の中に現れた不安。
寄せ集めで互いを深く理解していない人々。
そして新たな希望。ルール。
僕とテアはあっという間に
殺意の渦に飲み込まれてしまった。
テアは容赦なく殺されて、
粉々にされてしまった。
僕は感染生物を連れているおかしなやつと言われ
感染の疑いがあるからと、集団を追放された。
ずっと叫び声が聞こえていた。
テアの鳴き声も聞こえていた。
それらを発しているのが僕だと気づくのに何日もかかった。
テアは僕の希望だった。
生きる意味だった。
しかし、この世にテアはもういない。
身体が宙ぶらりんだった。
どこに力を入れればいいか。
何もわからない。
そのまま何日経ったのだろうか。
空腹も睡眠欲もなく
ただ喪失感だけがあるだけだった。
突然、とてもシンプルな命令が
身体を突き動かす。
殺せ
それからは、半濁した意識の中に心を埋めた。
目に入る生き物は感染者、非感染者関わらず
人もそれ以外の動物も残らず殺した。
その行動は習慣となった。
ある日、自分の脳内が食欲で覆い始めた。
どうやら感染したらしい。
しかしそんな事も、もうどうでもよかった。
殺しが習慣化した唯の殺戮マシーン。
それが僕だ。
ウイルスの名はZ。
もうそこから先は存在しない。
僕の後ろにも生物は存在しない。
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