そもそも
真夏日のこと。偶然、一枚の馬券を拾った。大学生の頃は時々競馬をしていたが、今は節約していることもあって、競馬をやることはなくなった。
馬券の日付を見る。この馬券、すでに終わっている。ということは、結果がわかっている。
恐る恐る、僕はこのレースの結果を調べた。もしかしたら、もしかしたら。
「あ、こんなところに落ちていたのか!」
すぐ近くに髭の生えたおじいちゃんがいた。そしておじいちゃんは「拾ってくれてありがとよ!」と陽気な声で僕に言って、僕の手元から馬券を奪った。
そうだよな。そもそも、この馬券はおじいちゃんの物だ。当たっていたとしても、決して僕が換金してはいけなかった。それなのに、愚かにも魔がさしてしまった。
「良かったです。持ち主が見つかって」
本心から、僕は言うことができた。そう、これは僕の元にあってはならない馬券だ。
「おい兄ちゃん、これあげるよ」
そう言っておじいちゃんがくれたのは、メロンパンだった。
「俺はお腹いっぱいでよ。食ってくれよ」
ありがとうございます、と僕が言う前に、おじいちゃんは背を向けて去ってしまった。
悪いことをしようとした僕に、プレゼント。なんとも、複雑な気分だった。
しかし、貰ったメロンパンはひどくパサパサしていて、僕の口の水分を根こそぎ奪っていった。結局近くの自販機でお茶を買い、喉を潤す羽目になった。
悪いことはするもんじゃない。
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