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自動販売機でコーラを買う『薄命、革命、生命』



 俺は自動販売機でコーラを買う
 百八十円入れてボタンを押せば
 ガタンと音を立ててコーラが出てくる
 しかし、今すぐには飲めない

 俺はコーラを持ちながら散歩をする
 そういえばこの間 とある外国人が
 また別の外国人と争った挙句
 爺さんが一人巻き込まれて死んだらしい

 その爺さんは治安を乱すなと言って
 二人を止めに入ったらしいが
 どっちかの外国人に突き飛ばされて
 頭を強打して搬送されたが遅かったという

 俺は公園のベンチでコーラを飲もうとして
 滑り台にいる二人のこどもが気になる
 彼らはニンテンドースイッチと睨めっこをして
 時々「しね!」と可愛く叫ぶのだった

 スーパーで買い物をするときに
 近所に暮らしている知り合いと出会い
 そういえば最近蕎麦屋の店主が
 突然死したらしいと教えてくれた

 死因はどうやら心不全で
 前日までは結構元気にしていたが
 明くる日冷たくなっていたそうで
 年齢はまだ五十を少し過ぎただけだった

 帰り道、僕は一台の選挙カーと遭遇した
『我々が世界を征服します!』
 まるで子供の発想であるが
 それに食いつくように手を振る婆さんもいた

 家に帰ってスマホで情報収集をすると
 どっかの国の大統領選が来年らしく
 そのためにとっておきの秘密を
 解禁するんだと宣言した一般人がいた

 しかしその人は日本人であり
 在住は静岡県だと言っていた
 彼曰く どっかの国には行ったこともなく
 それでも重大な秘密を知っているという

 俺は夕食にキーマカレーを作り
 ビールと一緒に流し込んだ
 十七歳のインフルエンサーが突然
 SNSで「私が世界を征服する」と宣言した

 シャワーを浴びてからパソコンを開き
 俺は自分の書いている小説を進める
 しかし最近思うことがある
 事実が小説よりもずっと奇妙奇天烈であると

 今日もどこかで暴力が賛美されている
 そのうち どっかの国が消滅するかもしれない
 それでも俺の日常は穏やかなまま
 小説もうだつがあがらない青年の物語を書く

 世の中がダイナミックに崩壊していこうが
 俺が交わることは一生ない
 ましてや秘密を暴露する人間にも
 世界征服を望む人間にもなれない

 俺という人間は ずっと檻の中で
 孤独な物書きとして筆を握りしめ
 激動の世界を傍観しながら
 静かに時間が過ぎるのを待つだけだ

 俺は眠る 一人で眠る
 深く関わる他者は もういない
 それでも微かな呼吸を大切にして
 漂う生命となるだけ

 あれ? そういえば
 買ったコーラどうしたっけ?
 いや、そもそも飲んでないじゃん
 一瞬 もったいねえと思う
 けど まあいいか 
 あの子供たちが飲めばいいさ
 きっとあのコーラは
 俺には飲まれたくなかったんだろうから

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