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アオマスの小説

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どんな一面にも些細な物語が存在する。それを上手に掬って、鮮明に描いていく。文士を目指す蒼日向真澄によって紡がれる短編集です。
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#連載小説

緑のおじさん(6)

 その日は、凸凹したアスファルトに水溜まりができるほどの雨が降っていた。僕は緑のジャケッ…

蒼乃真澄
11か月前
14

緑のおじさん(5)

「おはようございます!」  一列に並んで、集団で登校してくる子供たちに、僕も「おはようご…

蒼乃真澄
11か月前
11

緑のおじさん(4)

 それからしばらくして、緑のおじさん夫妻は家を売って遠くに引っ越した。かつて息子と一緒に…

蒼乃真澄
11か月前
9

緑のおじさん(3)

 近くの公園で、僕が買った缶コーヒーを飲みながら、緑のおじさんはゆっくりと話してくれた。…

蒼乃真澄
11か月前
10

緑のおじさん(2)

 あるとき、僕はいつも通り朝の時間に散歩をしていて、緑のおじさんもいつも通り横断歩道の横…

蒼乃真澄
11か月前
9

緑のおじさん(1)

 学校へ登校するために横断歩道を渡る子供達。そんな彼らを、車から守っているのが、緑のおじ…

蒼乃真澄
11か月前
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夜明けまで(6)

 目の前に置かれた黄色い楕円形から、バターの香りがする。それを囲む丸い線は、皿だった。もう一度黄色い物体を見ると、それはオムライスだった。  周りには、私以外に誰もいない。換気扇が回る音だけが鳴り響く部屋。私は真横に立てて置かれたケチャップの蓋を開け、オムライスに向かって文字を書いた。 『孤独』  赤く滲んだ『孤独』は少しずつ形相を崩していく。私はただ、それを眺めている。 「おい」  すると、右の方から男の声がした。振り向くと、そこには正人がいた。 「あれ、正人。

夜明けまで(5)

「沙耶香」  今度は沙耶香の意識に入り込んだらしい。先ほどより驚くことはなかったが、それ…

蒼乃真澄
1年前
12

夜明けまで(4)

「私は愚者だ」  ピアニッシモの明かりは消えた。真っ暗な世界で聞こえるのは、いつも穏やか…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(3)

 深夜に浮かぶ煙は姿を見せない。ただ、忌々しい匂いだけが夜風に吹かれて漂っている。 「孤…

蒼乃真澄
1年前
16

夜明けまで(2)

 私は男である。しかし、女でもある。ただ、トランスジェンダーではない。だから正直なところ…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(1)

 どうしても死にたいときはある。  それは彼女に振られたとき、そして彼に捨てられたとき。…

蒼乃真澄
1年前
19

短編小説 『沙代莉のラジオ』 9

「皆さんこんばんは! 今日も横浜の海風を浴びて元気に生きています、沙代莉です!  このラ…

蒼乃真澄
1年前
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短編小説 『沙代莉のラジオ』 8

 安藤光と小林沙代莉は、高校時代に運命的な出会いをした三ヶ月後に付き合い始めた。僕が知る限り二人の関係は良好で、仲睦まじいカップルとは二人のことをを指すのだと本気で感じ、多少羨望する気持ちさえあった。  しかし、二人の中はジェンガの如く突然、いや、もしかすると僕が知らないどこかで傾き、揺らいでいたかもしれないが、沙代莉が妊娠したことで終わりを告げた。  沙代莉は高校三年の夏に妊娠した。同じ学年の生徒は受験勉強に本腰を入れるタイミングで、青春真っ盛りだった子供から、大人の階