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父の人生を変えた『一日』その23 ~商魂たくましく~

その23 ~商魂たくましく~
 ㈱トーメン、シアトル支店、大江支店長と4輪駆動の赤のジープで雪山の検品に出かけた。山は3500フィート。真っ白に雪が積もっていた。私の運転も困難を極めた。車がスリップして動かなくなった。2人でスコップ使い雪を掘ってもタイヤが食い込んでいき動けなくなった。何回も何回もトライしたが車はどんどん食い込んでいって動けなくなった。
 ここで大江支店長を遭難させ死なすわけにはいかないライオンは必至に考えた。よし、3メートル積もっている山道を80キロメートル位自力で歩こうと考えた。車のガスメーターが最後のひとメモリーになっていた。「大江さん私が歩きます。車の中で暖まっていてください。必ず助けに来ます。」と言って歩き始めた。間違いなく遭難して凍死する姿が頭をよぎった。山の高い頂きである。来る途中、携帯電話はかからなかった。それでも念のためかけてみた。
「かかった!!」。「いいか絶対に電話切るなよ」とライオンは言い続けた。
「我々は遭難している。車が動かいない道は私がリードするので助けにきてくれ」と言った。
TAT社のマイケルは慌てふためいた。
「大変だ!!」それでも結果的に凍死寸前で救助隊は間に合った。良かった良かったと思った。
やはり「憎まれっ子世に憚る」でライオンは不死身と思った。命からがら総合商社マンは色々な場所で必死になって商売しているのである。世界の隅々まで商魂たくましく活躍しているのである。
 ㈱トーメンの取締役木材本部長になった大江さんは「ライオンに何度も殺されそうになったが九死に一生を得た」とその後、友人に話していると聞こえてきた。将に「命からがらの脱出劇」であった。山の頂だったので偶然、携帯電話がかかったことが私たちの命を助けた。神に感謝であった。


~倅の解釈~
 赤いジープ。㈱トーメンの社用車は良くのせてもらったので覚えている。親父はなんでこんなごっつい車に乗っているのかといつも不思議に思っていたが、この話を聞いて理由がわかった。
 なぜここまでして、親父と大江支店長が山に登っていたのか。ここが肝心。商社マンは売り買いが勝負。為替の変動と日々向き合いアメリカと日本間での情報戦争が毎分毎秒行われている。6大商社がシアトルを中心に戦いあう時代、駐在している営業マンはいかに早く良質な木材を為替レートが最善の時に買うかが勝負。いつもポケベルを肌身離さず持っていた親父。ポケベルが「ビー」と鳴って夜中家を飛び出していく背中を見た記憶がある。一定額の為替変動があると鳴るらしく、買いに走る。
 この雪山もほかの商社マンはさすがにこの冬のシーズン買い付けに誰も行っていないであろうと思いぬくぬくと休んでいたことであろう。商魂で親父は尊敬する大江支店長を連れて山を登った。大変なことになったが、ここでしっかりと商売も決めてきたと聞いている。
 果たして自身にこの『商魂』あるのか。常日頃、自身に問いかけている。人間は弱い生き物。楽な方、楽な方へ無意識に向き、歩んでしまう。ふと立ち止まり、自身を律することが非常に重要である。
 『商魂たくましく、商人道を貫く』

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