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スポーツテック&アナリティクスのグローバルマーケットについて

元データスタジアムの久永さん(@football_analyst)がスポーツアナリティクスのアドベントカレンダーを作りましょう(3年目)という企画で久しぶりにNoteを書いてみました。参加者には以前からの知人であるHUDLの高林さん(@takabayashir)や野球アナリストの第一人者である金沢慧さん(@canopus84)なども参加されているようです。私よりかなりしっかりしたアナリティクス論をお持ちだと思いますので是非、ご覧頂ければと思います。※上記のタイトル絵に特に意味はありません。私が関わっているKitman Labsで実施した英プレミアリーグレスターシティと共同で実施したアナリティクスセミナーの画面キャプチャです(笑)

さて、今回のテーマは「スポーツテック&アナリティクスのグローバルマーケット」についてです。と言ってもかなりサッカーに特化した感じの情報提供と提言になります。個人的に偏った想いが満載なのでツッコミどころも多いかと思いますがご笑覧ください。

まずは大前提になる認識の共有です。

残念ながら、海外スポーツテック&アナリティクスに比べて、日本は3-5年は遅れています! 

実際に関係者からは10年という声も耳にします。正直言ってすぐに追いつくのは難しいですし、その間にさらに差が拡がっていくので追い付けなくなるのではないかとあまりポジティブではない状況です。

では具体的に何が遅れているのか、そんな部分にも触れながら以下のサブテーマに従って進めたいと思います。

1.信念 日本オリジナルの追求

2.世界の潮流 スポーツテック企業の吸収合併

3.未来 では日本はどうするべきなのか?

1.信念 日本オリジナルの追求と追究

これは以前の記事(https://note.com/master_d/n/n551e04618e6a)にも被るのですが、そもそも日本代表がW杯でさらに上のステージに行くために必要なこと、Jリーグが世界5大リーグに比肩するために必要なこと、Jクラブが世界のクラブチームに勝つために必要なこと。極論に聞こえるかと思いますが日本オリジナルの追求=オリジナルのテックおよびアナリティクス(アルゴリズム設計)が必須だと考えています。さらにはその結果から導き出された戦術が必要です。

この身勝手な案(笑)のベースとなる論理は非常に簡単で、現在青いチームを含めて、ほとんどのクラブが利用しているアナリティクスまで実施可能なテック・ソリューションは海外プロダクトです。その事実を前提として、以下2点の課題があると感じています。

①言語:海外ソリューションは英語が当たり前、100%日本語のニュアンスが反映されたサービスは少ない。そして英語を100%理解したアナリストも少ないため100%の機能活用ができていない

②アルゴリズム:基礎となるアルゴリズムが日本人をベースに設計されていないソリューションを使用していることで100%のポテンシャルを引き出せていない。

結果として、①②がフィットしていて100%活用できる、引き出せる、さらにはフットボール自体の経験も技術も上位にある他国代表やクラブと、そうではない国との差は埋められないことになります。

もちろん、スポーツテック・アナリティクスがチームの結果にもたらす影響は様々な要素が関わるうちの一部でしかないとも言えますが、極端なことを言えば、ゴール設定(W杯優勝?)に対して最初から競争力で劣っている中で戦い挑んでいるとも言えると思います。一方で活用しきれていなくていままで結果を出せたのであれば、まだまだ強くなるための可能性があるということなのかなと思います。

もちろん、選手個々は常にオリジナルですし、言語に関係なく、分析結果としてオリジナルを導き出すことができるソリューションも多くありますのである特定の条件下において100点に近い答えを得ることができる仕組みを否定することはありません。しかしながら120%を引き出せるポテンシャルがあって初めて競争力に寄与しているのではないか、その筋道として日本のオリジナルが必要なのではないかと考えています。

そして①②の本質的な課題は結局、「人材」と「日本的な思考」に帰結するのではないでしょうか。この話題はサブテーマ3でまた触れたいと思います。

2.世界の潮流 スポーツテック企業の吸収合併

スポーツテック・ソリューション領域に興味がある多くの方はご存じかと思いますが、近年世界の同市場では吸収・合併が発生しており、さらに加速する状況を迎えています。代表的な例は企業名と共に後述しますが、多くの企業は単一領域のソリューション(例えばGPS、コンディション、ビデオ分析など)から成長して、個々の分野ではかなり成熟してきました。しかしながら、トップレベルの代表やクラブの目標を達成し、課題を解決するためには、個々ソリューションで完結する分析では実現不可能になりました。関連する全てのデータを統合的に管理する環境が必須になり、初めて本当の答えを導き出すことができる本質的なアナリティクスが出来るようになりました。そういった背景の中で、資本力が強い企業はデータを統合的に管理するための基盤および連携するサービスそのものを自社で提供するために、開発するよりすでに実績のある企業を吸収・合併することでスピード感を持って課題を解決する方法を選択した結果、数少ない企業に統合されるようになってきました。この辺りの合理的な感じも差がでる要因かもしれないですね。

それでは、今後スポーツテック界を席巻すると予想される代表的な企業を挙げます。

・Catapult (https://www.catapultsports.com/ja/)

言わずと知れたGPSサービスの会社ですが、2016年に現在廉価版サービスとして売り出しているPlayerTekや、デジタルコーチングサービスのXOSなどを買収。そして驚きなのは今年SBG Sports Softwareを買収したこと。SBGはまだ日本では知名度は高くないですが、F1レースの分析がもともとの本業でしたが、現在では英プレミアリーグのトップクラブのほとんどが利用しているフットボール分析システムMatch Trackerを開発している会社です。私の知る限り、世界最高のフットボールアナリティクスソリューションのひとつです。世界でも最新のロンドンの白いチームのスタジアムには本ソリューションのための分析部屋が設置されています。SportCodeより高度な映像分析ツールFocusも提供しています。(https://sbgsportssoftware.com/)

・Genius Sports(https://geniussports.com/)

日本ではまだ知名度が高くないかもしれないですが、メディアやベッティングサービス向けにデータを提供すると同時に世界でも一番多くの機能を持つスポーツ組織専用のマネジメントプラットフォームを提供する会社です。そしてこちらも今年、英プレミアリーグのオフィシャルトラッキングデータプロバイダーであるSecond Spectrumを約200億円で買収しました。トラッキング技術そのものはFIFA基準をまだクリアしていないようですが、付随するデータを活用するサービス、中でもシミュレーション機能は選手のポジションを少し移動した場合のゴール期待値、パス成功率の変化なども即時にAIが算出して表示してくれるかなり優れたソリューションです。こちらも私の知見の中でも世界最高のフットボールアナリティクスソリューションのひとつだと認識しています。NBAのオフィシャルデータプロバイダーでもあり、近くBリーグにも導入されるのではないかという噂です。

・HUDL https://jp.hudl.com/ja)  

ご存じの通りスポーツテック界ジャイアント企業の一つ。日本では映像分析ソリューションであるSports Codeが非常に有名で、現在国内のスポーツチームにおいて一番使用されているサービスと認識しています。2011年以降、競合であるスポーツ映像系の分析ソリューションの買収・吸収合併複数回繰り返しており、そして2019年にはビデオ映像分析では世界トップレベルのサービスプロバイダーひとつであるWyscoutも買収しました。さらには、映像データを収集するための特殊なビデオカメラや、実はアマチュア向けの廉価サービスなども展開しており非常にレパートリーに富んだサービスを提供しています。

・STATS Perform (https://www.statsperform.com/japan/)

こちらもメディア、ベッティング会社にデータを提供すると同時に、複数競技の分析にも強みを持つ企業です。日本で有名なのは世界トップのスポーツデータ会社であるOpta(英プレミアリーグのオフィシャルマッチデータプロバイダー)を傘下に持ちます。実はDAZNを含むPerformグループだったこともあり、分裂後にSTATSに吸収合併。そしてSTATSも同様にデータプロバイダーとして有名でしたが、AI活用に強みがあったため、Optaが持つ莫大なデータと合わせてAIxデータの大きな進化を遂げています。特にEdge Analysisなどはある特定のエリア間のパスの軌跡を抽出したり、ピッチをどのようなサイズにでも切り取って分析をすることが可能です。3x3とか5x5とか言ってる時代ではなく、105×68のメッシュまで細分化した分析を実現しています。

上記以外にも、有名なスポーツテック関連企業として世界最大のデータプロバイダーのSportradar (https://www.sportradar.com/)、映像分析のInStat (https://instatsport.com/) 、クラブマネジメント基盤のOrtec Sports (https://ortecsports.com/)なども存在しており、今後の動向も気になりますが前述した企業に対抗できるのはSportradorぐらいなのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、関連する全てのデータを統合的に管理することができて、初めてデータが持つ価値を最大化して活用する環境が整い、アナリティクスによる本当の要因特定が可能という流れの中では、より多くのソリューションの吸収合併(買収)は今後も加速する流れになるかと思います。この中で、日本のスポーツテック・ソリューション企業はどのように立ち回り、生き残り、成長するかが非常に気になるところです。

3.未来 では日本はどうするべきなのか?

未来については全てが不確定であるということを踏まえて記述します。

重要なのは、サブテーマ1で挙げた通り、「人材」「日本的な考え方」だと提言します。

平たく言えば、もっとデータサイエンティストを増やして、データに向き合って新しい方程式を生み出すことでOK!となりますが、もう少し条件を追加したいと思います。

1.グローバル視点の学びによる人材育成

現在はまだ海外に学ぶ時期だと捉えています。ただし、ただサービスを知ったことで満足するのではなく、ユーザーとして関わるだけでもなく、実際にその企業に勤めてみるところまで踏み込むことが必要だと思います。こうしたチャレンジをする若者が増えて新しい人材が還流されることに期待しています。ここ数年あらゆる場面でお伝えしている自論ですが、テックやアナリティクスに限らず、日本のスポーツ界は大学生インターンの活用を拡大したほうがよいと思います。もちろんクラブ側は本当に将来性がある有望な学生だけを選定してよいと思います。ただ、消費するだけではなく最低限のバイト代などを払うことや、学びの機会を提供することが重要です。

2.日本的な考え方 方程式と答えに縛られるのをやめよう

日本スポーツ界の多くの方は、方程式と答えが大好きです。ビッグクラブが取り組んでいるトレーニング内容を気にします。そして「なぜ」やっているのかを深く考えずに模倣する傾向があります。もちろん一定の成果を得ることができる手っ取り早い方法であることは事実です。しかしながら、それは本来の達成したい目的、解決したい課題を設定した上で必要だったことでしょうか?自由な発想を奪っていないでしょうか?一定の成果で満足していないでしょうか?確かに多くのチームにおいて抱える課題は似通っているかもしれません、しかしながら、クラブの目的、目指す方向性、選手、コーチ、スタッフ、環境、予算、全てが違います。同じであることの安心を捨てましょう。模倣ではなく違い・強みを探すために学びましょう。日本人の持つ探求心は世界でもトップクラスだと信じています。

3.ニーズ側の創造力がソリューションを育てる

2.で記載したことを踏まえてになりますが、日本のスポーツテック・ソリューション企業は非常に丁寧で顧客、そして現場主義に立つことが多いため、ユーザー視点、理解力、実用に合わせたサービスを開発します。実はこれが日本のスポーツテック・ソリューションが成長しない大きな要因だったりします。顧客課題の解決は一般的なビジネスにおいて最重要ではありますし、エコノミークラスを求めている顧客にファーストクラスを売ろうとしてもニーズに合致しないですし、利益化も難しいですよね。でも、代表は当然W杯優勝を目標にしていますし、ほとんどのクラブが「世界」というキーワードを掲げて、目標としています。本当に目標達成するための視座でニーズが設定されているでしょうか。もしくはその目標、本当に達成できると信じているでしょうか。まだまだ伸びしろがあると思います。

とりとめもない内容になってしまいましたが、では本当に上記を達成することで日本の市場がグローバルレベルに追い付くことができるのか?こうして記述しながら正直わかりません。むしろもう普通では追い付けないサイクルに入ってしまったのではないかとの不安のほうが先行します。

そこで!上記以外に可能性を秘めている分野から日本が台頭し、還流していく可能性。一発逆転、日本が追い付くチャンスになるかもしれないヒントに触れて終わりたいと思います。

それはベッティング&メタバースです。

近年中にも日本でスポーツベッティングが開放される可能性があります。そもそも欧州においてスポーツアナリティクス、データ活用が拡大した大きな背景にはスポーツベッティングの普及があります。スポーツベッティングには正しいデータに基づいたアルゴリズムにより倍率の算出が必須になりますし、もちろん付随する管理プラットフォーム、サービス提供UXは当然必要になります。急速なマーケット拡大と共にデータの活用、アナリティクスが進化することは間違いないです。ここにどれだけ政府と連携して日本企業が加わることができるのか、非常に大きな意味があると思います。

そして、さらにはスポーツに限らないですがメタバース(インターネット上の仮想空間サービス)を活用した観戦体験、ファンエンゲージメントなどが多くのサービスと連動して新しい世界を生み出すと予想しています。こちらも同様の技術を用いてスポーツデータを集めるための環境が進化する機会になります。それを実現できるだけの素晴らしいテクノロジーを持つベンダーが日本には存在します。(最近のマンチェスターシティとSonyの例など)こちらも同様にどれだけ日本のスポーツクラブ、スポーツテック・ソリューション企業が関わることができるのか、大きな期待があります。

長くなりましたのでこの辺りで終わりたいと思います。内容が気になる方はDMなど頂ければディスカッションなどしましょう!乱筆乱文失礼いたしました!




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