音楽家と「筋肉」
肉体に問題を抱えた音楽家(プロアマ問わず)に対して
「楽器に筋力は関係ない」
「楽器の演奏に『力』は必要ない」
というようなご意見を耳にすることがあります。
音楽の表現というのは、すべからく肉体で楽器を操作して音を紡ぎ出すことでなされます。つまり、程度の差はあれ、かならず体の動きを伴うわけです。
前述したご意見で、その真意が
「音を出す時に力んではいけない」
ということであれば、それは全くの正解だと思います。
大きい音を出すためにはイメージ的にも強い力で思いっきり引っ叩けばいいような気がしますよね(打楽器やピアノの場合)。でも実際はそうではありません。力んで思いっきり叩いた音はどこか抜けが悪く、音の通りも良くなく、濁ったようにも聞こえるのです。太鼓のカワがやぶれるくらい叩いても、音楽的に良い音にはならない。
私はスポーツをしない人なので自分で実感しているわけではないのですが、ゴルフでも野球でも、力んで打っていたら、ボールはそれほど飛ばないんじゃないかと思うんです。プロのバッティングやスイングを見ていると、力まずに重心の移動を伴ってしなやかに素早く動いているように見える。
音楽においても基本的にはこれと一緒じゃないかと思っています。
抜けが良く、通りの良い、迫力のある音というのは、力んではいけない。
大事なのはスピード。力めばスピードは必ず鈍る。
電子ピアノやシンセサイザーで音の大きさを決めるのが打鍵の速さをあらわす「ベロシティ」というパラメータであることは、その証左の一つではないでしょうか。
ここで問題になってくるのが
力まない=筋力が必要ない
という認識。
私はこれは誤った考えだと思っています。
小さく細い指だろうが、太い腕だろうが、身体を動かすのは筋肉。
それである以上、筋肉が演奏に不可欠であり、その能力の大小が演奏技術の差につながることは必然。
スポーツ選手の場合、そのスピードを高めるためにも筋力トレーニングなどを行います。トレーニングの結果スピードが改善するのだからスピードと筋力に相関関係があるのは明白。
つまり、スピードが大切な音楽においても、筋力が大きな影響を持っていることは明らかなわけです。
もっとも、スポーツの様にジムのマシンでのトレーニングなどはあまり必要ではないでしょう。楽器の練習を通じて関係する筋肉を鍛えていくのが理想です。(ただし私個人としては機械的な筋トレの効果は否定しません。)
しばらくブランクがあった後にピアノを弾くと、音が「ユルい」というか、締りがなくて抜けが悪いことを実感します。その後、しばらく真面目に練習をしていると次第に音がクリアになり、より響く音が出るようになります。これもトレーニングの成果。
だからこそ、(以前に書いた「手」の話題ともつながりますが)音楽家にも筋肉や骨などの肉体についての知識が必要なのです。
より効率の良い練習、怪我・故障の予防のためにも。
私もそこそこw肉体面で苦労をしてますので、少しずつ勉強を進めていきたいと思います。いい本とかいい情報とかあったらこのページでも随時紹介していこうと考えています。