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The Process of Violin Making Ⅳ

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さて、ヴァイオリンの横板(Rib)が接着出来たら、今度はライニング(Linings)といわれる板をRibの内側に取り付けてゆきます。これは何かというと表板と裏板との接着面積を増やす役割を負っていて、横板は厚さが1mm前後しかないので、それだけでは表板と裏板との接着面が足りないため取り付けられている事情があります。ライニングを付けずに横板を厚くすれば問題ないのですが、それでは楽器は重くなってしまい自由にのびのびと振動してくれません。つまり、取り付けるライニングの質量も重要になってきますし、横板とライニングがバランスよく、しかも必要十分であり過ぎないことも大切になってくるのです。
この辺が量産型ヴァイオリンと手工品のヴァイオリンの違いでもあるわけですね。工場で(製作ではなく)生産されるということは、言ってみれば規格品ともいえます。材の厚みやフォルムなどはひとつひとつ同じ機械工程を通ってくるので統一されてしまいます。でも、木材は年輪の幅も違えばその密度や年齢も違います。これを同じ基準で生産して、果たして最上の音が出るか?と言われれば答えは否でしょう。これが職人が製作したヴァイオリンとそうでないものの価格と音の違いです。

さて、ライニングの取り付けですが、やはりここでも職人それぞれのこだわりや哲学が見られるので知ると楽しいポイントです。ブロック材同様に、完成してしまうと表からは見えないパーツですが、オールド楽器などの鑑定では、このライニングの形や幅、大きさ、切り出し方などもチェックして真贋を見極めたりするのです。前回も書きましたが、こういう部分を長い時間と経験をかけて習得・蓄積してきた鑑定家を差し置いて、素人の私がお客さんの楽器の真贋を語るのはやっぱり失礼なんですよね。だから私は、「こいつ俺より楽器のこと分かってないんだな。」と思われようが、お客さんから鑑定までいかないにしても聞かれることがある「この楽器本物かな?」という問いに関しては、分かりませんと答えるようにしています。

ライニングはライニング材として加工されたものが販売されていますが、こだわりのある職人さんは、表板を切り出した際の端材を使って、なるべく同じ1本の木からヴァイオリンを作るようにする方もいます。他の別の材を貼り付けるよりは、同じ木材からの方が何となくいい感じしますよね。もちろんそれが音にどんな影響を及ぼすかは分かりませんし、ストラディヴァリ(Stradivarius)も違う木材を使用して製作しているものもあるので、正解はありません。ただ、同じ1本の木から製作するほうが、明らかに手間はかかるのです。この辺の見えない部分に価値や心意気を見出せる人は、安易に値引きやサービスを要求しないなぁと応対していて感じますね。


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厚み出しが終わって幅を出す前のライニング材ですが、年輪の幅が違うというの、この写真からも一目瞭然ですよね。最終的な幅に切り出すとこんな感じ。

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ここからはまた同じように、アイロンで曲げて横板のカーヴに合わせて成形し、膠で接着してゆきます。ブロック材と接する部分は溝を彫ってライニングがぴったり納まるように成形します。この溝の部分がどんな形状をしているのか、どれくらい深さや奥行きがあるのかとか、そういう部分が鑑定家さんの腕の見せ所なんだそうです。細かいところまでチェックするんですねぇ。

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横板とライニングが合わさると、大体3mmくらいの接着面が得られます。この幅も均一に作られていると、うっとりするくらい綺麗なヴァイオリンの胴部分が出来上がってくるんです。

さて、ちょっと想像して見て欲しいのですが、横板は一般的に左右に3パーツづつの6ピースをブロック材に接着して出来上がっています。何のこっちゃという人はマガジン”The Process...”のとかを見てみてください。内枠にくっ付いた6つの木材がブロック材で、そのブロック材をつなぐように6ピースの横板が取り付けられていきます。横板は左右に6枚分の工程(切り出し→曲げ・成形→接着→仕上げ)をすれば完了しますが、ライニングは表と裏板の両方なので、12枚分の同じような工程が待っています。う~ん、楽しそうでしょ?笑

こんな地味な部分にも丁寧な仕事をしていくのがヴァイオリン職人なんです。ヴァイオリンってなんでそんなに高いの?に対する少しばかりの答えが感じてもらえたら幸いです。

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