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マッサンのブロール構築記 Season2 ㊲オリークの首領、エクスタス

1.はじめに

「共に夜明けを見届けましょう」

いやまあ何とも頼もしい、熱意に溢れたセリフである。まさしく、未開の荒野に旗を立てんとする、不退転の意志を感じられる。そういった言葉である。本来ならば。

…皆様は、「メイドインアビス」という作品をご存じだろうか。主人公たちが街に空いてある巨大な穴「アビス」を下って探索していく、そういう冒険ファンタジー漫画である。下にリンクを貼っておくので気が向いたら読んでほしい。

つくしあきひと先生が描く可愛らしいイラストを見ると、ほんわかしたストーリーを連想するだろう。だが、その実態はベルセルクやダークソウルもかくやといわんばかりの超絶シビアな世界を切り開いていく、ものすごいハードなサバイバルの話なのである。

主人公の腕が折れる、冒険家に寄生虫が沸く、あまりにも生生しい麻酔抜きの手術シーンなど、この漫画を語る上で様々な要素があるのだが、その中の重要なファクターを担う登場人物として、この方を挙げないわけにはいないだろう。

そう、我らが黎明卿、ボンドルドである。

細かいことは上の解説記事に任せるが、ざっくり説明すると、世間の常識が通用しないアビスの探索方法を確立した偉大な冒険家であり、そういう意味では評価されるべき人である。のだが、その過程で子供を実験材料にして使いつぶす、子供(自分の娘含む)の手足をもいで生命維持装置に改造する、挙句は自分自身も実験材料にしてしまう、というとんでもない野郎なのだ。

これだけ聞くと極悪人の類なのだが、かといってこれでいて罪悪感や私欲があるわけでなく、子供たちの犠牲も理解しながらアビスを切り開く意志に突き動かされているからなおたちが悪い。善か悪かといわれると紛れもない悪なのだが、その独特なキャラクター性に惹かれ、多くのファンも獲得しているのもまた確かだ。筆者も好きなキャラクターである。

もうお分かりだろう。先ほどの「共に夜明けを見ましょう」というセリフ、このボンドルドのセリフなのである。この経緯まで含めてみると、何ともまあ意味深に聞こえてしょうがないと思う。というか実際とんでもねえシーンで使われたセリフでもある。なんともまあ度し難いものだ。

そういえば、最近MTGでこんなフレーバーテキストを見たことがある。

「新しい時代の夜明けを迎えよう」

なんだこの既視感あふれるセリフは。ほとんどいってることボンドルドと同じじゃないか。誰だこんなセリフを言った奴は。

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《オリークの首領、エクスタス》

……

ボンドルドじゃねえか!!

いや、当然他人である。なのだが、言動、そして何よりもその出で立ちがボンドルドそのまんまなのである。気になったアナタは上のリンクでボンドルドの恰好を見てみるといい。本当に瓜二つである。

…というわけで、今回はMTG産ボンドルドと共に、新たなブロールの夜明けを見ようとしよう。本家ボンドルドほど癖が強くなけりゃいいのだが。

2.こいつで何ができるのか

さて、このエクスタス卿、一体どんな能力を持っているのか。エクソダスが死んだときに盤面のクリーチャーをエクソダスに上書きする能力とか本当に嫌だぞ。ちゃんと確認しよう。

《オリークの首領、エクスタス》
1WBB
伝説のクリーチャー ― - 人間・邪術師
2 / 4
二段攻撃
魔技 ― あなたがインスタントやソーサリーである呪文を唱えるかコピーするたび、あなたの墓地から伝説でないクリーチャー・カード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。

4マナ2/4二段攻撃。ちと非力に見えるが、二段攻撃のおかげで実質的な打点は4点となる。本家の方もなんだかんだで戦闘能力は高かったので、ここに違和感はそこまで存在しない。

大事なのはコレ。「魔技」である。ストリクスヘイヴンから新登場のこの能力、インスタントやソーサリーを唱えた際、およびこれらをコピーした際に誘発する能力群のことである。

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今までの能力で言うと「果敢」が近いだろう。ただ、あちらは基本的にサイズが向上していくだけだったのに対し、コチラはそれぞれのカードに対し、様々な能力が備わっているのである。

で、肝心のエクソダスの能力が何かというと、「墓地から対象のクリーチャーを手札に戻す」という能力である。なるほど、死んでいったクリーチャーを救済するともとれるこの能力、あんなド畜生とは話が違うといったところだろうか。

ちなみにこのエクスタス、表裏が存在するカードであり、裏面はソーサリーとなっている。どういうカードかというと…

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《血の化身の目覚め》
6BR
ソーサリー
この呪文を唱えるための追加コストとして、あなたは望む数のクリーチャーを生け贄に捧げてもよい。この呪文を唱えるためのコストは、これにより生け贄に捧げたクリーチャー1体につき2少なくなる。
各対戦相手はそれぞれクリーチャー1体を生け贄に捧げる。速攻と「このクリーチャーが攻撃するたび、これは各対戦相手にそれぞれ3点のダメージを与える。」を持つ黒赤の3/6のアバター・クリーチャー・トークン1体を生成する。

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…あまりにテキストが長くて頭が痛くなるが、要は8マナ払って相手のクリーチャーを一体生贄に捧げさせ、上に出したごついアバタートークンを生成することが出来る。

「8マナでこれだけ?」と思う方もいるだろう。確かに、出てくるトークンも、8マナで出すにはちと物足りない。だが、実はこのソーサリー、唱えるときに際してほかのクリーチャーを生贄に捧げ、マナコストの軽減が可能なのだ。具体的には、生贄に捧げたクリーチャー1体につき2マナ軽減される。

まとめるとこのエクスタス、クリーチャーを使いつぶして活用し、それを復活させる能力の双方を持っていることになる。ん?使いつぶして復活?

「御覧下さい。すり潰したはずの手足も生えてきています。蘇るのはこれで9回目ですが…少々形がいびつになる程度で済んでいます」

…次に行くとしよう。

3.こいつでどうやって勝つのか

さて、このボン…もといエクスタスだが、一言でまとめると「クリーチャーをつぶして再復活可能」という特徴を持つ。スタンダードを遊ばれている方ならこの一言でピンとくるものがあるのではないだろうか?実はこのエクスタスが輝くことが出来るデッキが、昨今のスタンダードに存在するのである。

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そう、皆様大好きサクリファイスデッキである。死んでも構わない、ないしは死ぬことに意味があるクリーチャーを展開。それらをタネにして「生贄に捧げて○○する」という能力を持つパーマネント、いわゆる「生贄エンジン」を回し、相手に差をつけて勝つというデッキである。

このサクリファイスデッキ、生贄のタネになる生き物と生贄エンジンがいれば問題なく回り続けるのだが、結局は噛みあいのデッキのため、どちらかが欠けている場合、実力が発揮できなくなってしまうという欠点も抱えている。条件付きだが生物を再利用することが可能で、かつ、一時的だがクリーチャーを生贄に捧げられることの可能なエクスタスは、こういった場でこそ輝けるのである。

事実、既存のラクドスサクリファイスにエクスタスを足し、さらに対応力を増やしたデッキも環境に存在するくらいである。よって今回の方針は「既存の生贄エンジンをエクスタスで補助しながら、圧倒的なアドバンテージの差をつけて勝つ」という風になるだろう。

なおこの方針、メイドインアビス風に考えると、「ミーティをしばき続けて相手に勝つ」という風にも変換できる。なんか人倫に悖るような気もするのだが大丈夫なのだろうか。

4.どうやってデッキを組むのか

さて、サクリファイスデッキを組むにあたり、考えるべきことは2点ある。すなわち、「生贄に捧げるクリーチャー」および「生贄に捧げる手段」である。それぞれ順に見ていこう。

①生贄に捧げるクリーチャー

まずはこちら。生贄エンジンの燃料となるクリーチャー群である。当然候補となってくるのは「死亡したときに○○する」という能力を持つクリーチャーになるだろう。あるいは、場に出たときに仕事をしてくれるクリーチャーでも悪くはない。どういったクリーチャーが使えるかを確認してみよう。まずはこちら。

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《鋸刃蠍》
B
クリーチャー ― - 蠍
1 / 2
鋸刃蠍が死亡したとき、これは各対戦相手にそれぞれ2点のダメージを与え、あなたは2点のライフを得る。

まあこの辺は分かりやすいだろう。1マナで運用出来、かつ死亡時に相手のライフを2点吸ってくれる恰好の生贄のタネである。本家のラクドスサクリファイスでもよく使われているクリーチャーなのだが、同名カードが使えないブロールでは少し使いづらい印象を受けていた。

しかし今回は事情が別。エクスタス経由で安易に戻すことが可能ということで、繰り返し繰り返し使えることが可能なのである。モリモリ使いつぶしてゴリゴリ相手のライフを削り取って行こう。

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《ぬかるみのトリトン》
1B
クリーチャー ― - ゾンビ・マーフォーク
2 / 1
接死
ぬかるみのトリトンが戦場に出たとき、あなたのライブラリーの一番上からカードを2枚あなたの墓地に置き、あなたは2点のライフを得る。

これもまあ、定番っちゃ定番だろう。場に出た際に2枚切削および2点ライフゲインを持つ2マナクリーチャーである。大体の場合、サクリファイスデッキは墓地利用を内包しているため、リソースである墓地を手軽に増やせられるお手軽クリーチャーとして重宝されるのだ。

一方、ブロールは1枚差しの環境であるため、重要なカードが墓地に落ちて大変なことになることもある。そのため、切削による墓地肥やしの価値が危ぶまれることもあるのだが、今回に関しては「エクスタスで戻せるカードを増やす」と捉えることも出来るのだ。

ほかには、エクスタスを使うからこそこういうクリーチャーも採用できる。

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《穢れ沼の騎士》
B
クリーチャー ― - ゾンビ・騎士
1 / 1
接死
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐-----------------
《不敬な洞察》
2B
インスタント ― 出来事
あなたはカードを1枚引き、あなたは1点のライフを失う。(その後、このカードを追放する。あなたは後で追放領域からこのクリーチャーを唱えてもよい。)

そう、「出来事」を持つクリーチャーである。こいつらは共通してインスタントやソーサリーとしての側面も持っているため、墓地に送って手札に戻し、再度出来事として唱えることでエクスタスの能力を再度活用できるのだ。何なら出来事を持つクリーチャーが2体いれば、互いに互いを戻し続けることでグルグルし続けることが可能となる。

普段のサクリファイスデッキには入らないものの、エクスタスがいるからこそデッキに組み込める。これがブロール、統率者デッキの醍醐味ともいえる。

…え?何?最近のサクリファイスデッキはこんなのも使ってるだろって?

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《ひきつり目》
B
クリーチャー ― - 眼・コウモリ
1 / 1
飛行
ひきつり目が死亡したとき、履修を行う。(あなたは、ゲームの外部からあなたがオーナーである講義・カード1枚を公開しあなたの手札に加えるか、カード1枚を捨てカード1枚を引くか、どちらかを行ってもよい。)

なるほど、死んだときにサイドボードから講義カードを手札に入れられる。シルバーバレット能力を内包した有能な生贄のタネということもできる。だが悲しいかな。今回の舞台はブロール。実はこの環境、サイドボードの設定ができないのである。つまりこの目ん玉、死ぬと手札1枚をドローと交換することしか出来ないという微妙な能力しかないのである。よって今回は不採用だ。

②生贄に捧げる手段

続いて生贄に捧げる手段だが、今の環境、様々な生贄に捧げる手段がある。その中でも今回、ピックアップしていきたいのはこれである。

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《村の儀式》
B
インスタント
この呪文を唱えるための追加コストとして、クリーチャー1体を生け贄に捧げる。
カード2枚を引く。

「追加コストとしてクリーチャーを生贄に捧げるソーサリー/インスタント」

何のことはない、唱える際に追加で生贄を要求するインスタントやソーサリーなのだが、実はコレ、ものすごくエクスタスと相性がいいのである。どう相性がいいのか図解してみよう。

①呪文を唱えるに際し、コストとしてクリーチャーを生贄に捧げて墓地に送る(このタイミングではまだ呪文を唱えていない)
②呪文を唱える この際エクスタスの能力が誘発し、あらかじめ墓地に送ったクリーチャーを手札に戻す
③呪文を解決する

ざっくり言うと、「コストで生贄に捧げたはずのクリーチャーが何故か手札に帰ってくる」という怪現象が起きるのである。手札に戻したクリーチャーは再度戦場に出して利用が可能というわけだ。もうウハウハである。

そして、こういう呪文の代表格といえばこれである。

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《投げ飛ばし》
1R
インスタント
この呪文を唱えるための追加コストとして、クリーチャー1体を生け贄に捧げる。
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。投げ飛ばしはそれに、その生け贄に捧げたクリーチャーのパワーに等しい点数のダメージを与える。

皆さまおなじみ、生贄に捧げたクリーチャーのパワー分のダメージを与える人間砲弾呪文である。最後のシメとしてクリーチャーを顔面にぶん投げてもよし、なんとなくクリーチャーを再利用する手段として使ってもよし、いつも以上に融通の利く呪文となっている。

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唯一の懸念はクリーチャーの質だが、なんだかんだでデカブツがいるのも昨今のサクリファイスデッキの特徴である。こいつらをぶん投げて遊んでやろう。相手に圧をかけ続けられる《死の飢えのタイタン、クロクサ》なんかがオススメである。

5.サンプルデッキ

…さて、出来た。というか、出来てしまったというべきか。コチラが我らが黎明卿率いる祈手(アンブラハンズ)デッキである。皆様もこれを片手にブロールという名のアビスに飛び込んで頂きたく、勝手ながらデッキリストを以下に用意した。是非使っていただきたい。

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(画像クリックでMTGGoldfishに飛びます)

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「勝ちという目的のために自分のクリーチャーを使いつぶす」…こう聞くとサクリファイスデッキってかなり非人道なデッキなんだなあということがよくわかる。それこそ部下や子供たち、下手をすれば自分すらも「あれらは人として運用していない(=実験動物としての運用前提)」と言い放ったボンドルドにピッタリのデッキだろう。

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実験動物もとい生贄のタネになるクリーチャー不足を補うため、トークンを生成するカードを一定数採用している。中でもオススメが《セッジムーアの魔女》であり、魔技により1/1邪魔者トークンを生成できる。以前の記事でも触れたが、邪魔者くんはまさにすり潰すために生まれてきたような性能をしていることでも有名だ。遠慮なく生贄に捧げてやろう。

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更なるクリーチャー補填手段として《霊鍛冶のホフリ》も採用。ゴチャゴチャ書いているが、要はクリーチャー死亡時にコピートークンを生成できるクリーチャーである。生成時に元となったクリーチャーは追放されるのだが、コピートークンが死ねばちゃんと墓地に帰ってくるので安心である。似たような能力を持つ《悪夢の番人》と違ってこの手のデッキで使いやすい。

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それでもクリーチャーが足りない時は、遠慮なくよそからもらってこよう。まさにナナチやミーティを拉致…スカウトしてきたときのような状況の再現が可能となる。こういう呪文は生贄に捧げるところまでがセットだよという本編との奇妙な符合がなんともまあ気持ち悪い。

6.終わりに

いかがだっただろうか。フレーバー的にはなんともまあ度し難いデッキが出来上がったのだが、ゲーム的にはなんのこっちゃない、サクリファイスデッキをブロールで作っただけのことである。

といっても、普段サクリファイスデッキで見かけないようなメカニズムが搭載されていたり、ブロールならではの調整ができたように感じる。こういう一風変わったデッキが組めるというのも、ブロールの奥が深い所である。

そのあまりの奥の深さは、筆者が1年間遊んできてもよくわからないというのが実情である。是非皆様も、このブロールという名の深淵(アビス)に挑戦する探検家となることを願って、今回は筆を置こうと思う。最後はやはり、前途ある皆様を祝福すべく、このセリフで〆たいと思う。

「共に夜明けを見届けましょう」

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