望郷

―故郷(ふるさと)の陽は沈んだままだ
 それでもまだ、故郷は遠い―

日暮れ直後のある晩
夜空がワインだらけだった晩

村外れのアングラ劇場で

満員の観客の面前で
ピエロが殴られた!!

たった一人で

舞台下から舞台下に引きずり降ろされ
しこたま
「お前は素人だ!お前は素人だ!
お前は素人だ!お前は素人だ!」
と、正確に4度浴びせられた

ピエロのやられ方は正確だった

ともすると美しいほどのモーションで

一発浴びるごとに、まるで踊る様に

右、左、右、左と躰を半回転させていった

「お前にピエロの気持ちが......」
とここまで言おうとして
他の誰もが
「ハツ!?」
と口をつぐんだ

そうして、ピエロはつくろう事も何もせぬまま

顔面を停止させていた。本望だと言わんばかりの態度で

佇んていた

さて、暴漢はすっかり酔っぱらって
足元がふらついている

日暮れ直後のワインの夜
喧噪に紛れたアングラ劇場で
ピエロは演じ
観客は救われ
暴漢は
神秘そのものになりそびれたのだった

僕はと言えば
その時でも僕の生命は正確に脈打っていた
ただし、あのような状況下では
生命と言うものが、存在していたのかどうか
甚だ、疑わしいのだが

―もはや
 帰る気など起こらない
 それでもまだ、故郷は遠い―