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♯5 「アットホームな職場です」

派遣会社からは
「ここはアットホームで、社内の皆さんがとても仲がいい職場です」
と言われて派遣された社員数30人規模のある企業。

そこはとにかく社員みんなで何かをする会社だった。
“みんなでパーティー”
“みんなでおでかけ”
“みんなでお参り”
“みんなでミーティング”
“みんなでお掃除”などなど

特に忘年会などは、みんなで本気の出し物を披露するそうで、
事前に練習などもして、大盛り上がりらしい。

もちろん、これらは社員のみの行事なので、派遣社員が参加することはない。
業務中であれば、派遣社員は大体この間の電話番をすることになる。

だが一つだけ例外があった。
それが“みんなでランチ”だ。

社内目標を達成した時や、新しい正社員が入社した際に、年に数回会議室で催される。
会社で少し豪華なお弁当を全員分注文するのだが、この時だけは派遣社員やパートの分も含まれていて、有無を言わさぬ全員強制参加形式なのである。

会場に行くと、上司から
「是非、この機会に他部署の社員とお話し下さい!」
などと言われて、普段関わりのない若手社員の間に促されて座るのだが、周囲からは、戸惑いの様子が伝わる。
業務上の共通の話題もなく、何とも言い難い気まずい時間が流れていく…
別の席に座らされた他の派遣社員も、皆同じように困惑の表情なのだ。
そんな状況を横目に、古参の社員同士からは楽しそうな笑い声が聞こえ、とても盛り上がっている。

会社側がこうやって交流を深めたいと言うわりには、
就業中の2年間、ほとんどの社員からは私のわかりやすい名前を呼ばれることはなく、
「派遣さん、すいません」
「○○課の派遣さん…」
「派遣のあの人…」
と、当たり前のように呼ばれていた。
結構な社内の雑用を任されていたにも関わらずである。
ビジネスマナーに厳しい会社だっただけに、とても残念だった。

比較的小規模で、古参の社員同士はとてもアットホームで楽しそうな職場は、
特によそ者や新参者を受け入れない、目に見えない冷たさが漂っている。
これは不思議とどの職場も共通している気がしている。

特に上層部には「社員は所有物だ!」といった空気感が暗黙の了解の下、共有されている。
その作ってきた雰囲気を少しでも乱す者には特に嫌悪感を抱くのだろう。
つまり、派遣社員にとっては最も居心地の悪い会社なのだ。

“みんなでランチ”は
「この職場で働くなら、この強固な社内の雰囲気をきちんとわきまえて過ごして下さいよ!」
と、言わんばかりの見えない圧力の確認の時間に感じられて、どこか息苦しくて、居心地が悪かったのかもしれない。

この職場で働いている時。
私の唯一の楽しみが、自分の仕事の切りのいいところで取ることができるお昼休憩だった。
社内のお昼を食べるスペースは狭く、普段は社員だけで埋まっているため、お弁当などを持参して食べることはできない。
そのため、毎日1人でランチパスポートを片手に界隈のお店を食べ歩いたり、カフェでのんびり読書をしたり、買い物したり…と、ひとり時間を満喫していたのだ。
この時間が何にも代え難いオアシスであり、仕事へのモチベーションになっていたのだった。

何社も巡っていると、自分には合わない会社にも遭遇してしまう。
アットホームと言う言葉に惹かれて、
「自分にも優しくしてもらえる職場かも?」
などと、決して勘違いしてはいけない。

『アットホームな職場』とは、結束と淘汰が表裏一体なのだ。

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