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♯21 仕事納めの一年を共に過ごして感じる永年勤続の凄み

派遣社員生活が長くなり、永年勤続とは真逆の人生を歩んでいる私。
本当は専門的なことを腰を据えて取り組むことにずっと憧れがある。

今や転職も当たり前の時代になってきたが、
長年その企業で仕事をされてきて定年退職を迎え、更に再雇用という形で勤務されている社員さん。
そんな長年その企業に貢献されてきた人にとって、最後の大事な一年。
そのタイミングでお仕事をご一緒するという機会が2回あった。

ある企業で定年退職後はパートという形で再雇用され働かれていたヤマシナさん(仮名)。
この年で契約が最後になるということだった。
私はヤマシナさんが不在の際に代打で、とある業務を担当するというお仕事で派遣されたのだが、
私の前任は社員が担当していて、何の専門家でもない派遣社員の私が就業した際には露骨にガッカリされていた。

特に年配の社員さんなどは、ある日突然どこからかやってくる得体の知れない派遣社員という存在が受け入れがたいという人は未だに少なくない。
始めはヤマシナさんも私に対して露骨に疎ましそうにされていた。
これは上手くやっていけないかも…暗雲が立ち込める。

「これやっておいて下さい」
と、任されたことが派遣社員ではできない内容であることも多く、
「私は派遣社員なんで、このお仕事は契約外なので踏み込んでできません」
という事情をなかなか呑み込んでくれないのである。
しかも、ヤマシナさんは他の社員達からは口うるさくて融通が利かないと、敬遠されている。
上司や派遣会社の営業とも何度相談しても、残念ながら状況が改善されることはなかった。

だが、しばらく一緒に仕事をしていると、ヤマシナさんには長年培った自分の知見とノウハウがあるからこそ、
伝えなければならないことを伝えようとしてくれていることがわかってきた。
『この仕事を長く続けるのであれば、この部分までは一人でできなければ困る』
そこまで考えて私を育てようとしてくれていたのだ。
だが、派遣社員である以上いつまでいるかもわからないし、仕事にも踏み込めない…
激しいジレンマを感じながら、何とかヤマシナさんとコミュニケーションを取りながら、日々業務を覚えていった。

だが、企業側もようやく社員でないと業務の引継ぎが完全にできないと気づいたのだろう。
会社の方針が変わり、私もヤマシナさんの退職と同じタイミングで短期間で契約が終了することになった。

「実は、私も契約が終了することになって…」
と、ヤマシナさんに報告すると絶句して、
「いい人が来てくれたと思って安心していたのに…この会社は人を大事にしなくなってしまったのね」
と、企業側の都合で振り回された私の気持ちに寄り添い、怒ってくれたのである。

長年自分が一生懸命に守って来た仕事を次に引き継ぎたい…
そんな熱意にこたえられる立場でなかったことは、非常に残念だったなと思うのだが、
1つの仕事を極めることって素晴らしいな…と間近で感じることができた貴重な時間だった。

また別の企業。
サダさん(仮名)というシニア社員の男性がいた。
大学生の時にアルバイトをしていた流れで、そのまま社員としてこの企業での人生を全うされていた。
机は物が見えないぐらいに書類で覆われていて、専用の棚には長年の資料がぎっしり詰まっている。
頑固で気に入らないことがあるとへそを曲げてしまう職人肌の人であったが、仕事への愛、そして同志への愛は誰よりも強かった。

サダさんも初めは突然やって来た派遣社員の私を
「誰だ、こいつは?」
という感じでそっけなくされていたのだが、
サダさんのデスクを見たら、チャーリーブラウンのマグカップが置いていた(★マグカッププロファイリングについては#1参照)ので、
遠慮せずに色々と話しかけてみると、案の定とても優しい人だった。
会社のことや、働いている人のことなどたくさん教えて下さり、就業中色々な場面で手助けをしてくれる心強い存在だった。

一方でサダさんは、自分よりも若い社員達が自分が大事にやって来た業務をいい加減にやろうとすることにとても腹を立てていた。
「そんなやり方ではダメだ!」
と、注意すると、
「サダさんのやり方はアナログで、要領が悪いんだよ」
と、真っ向から批判する社員もいた。そういう一面ももちろんあったのだろう。
だが、サダさんが40年かけて築き上げてきた知識は、若い社員では思いが至らない大事な財産だった。
後から批判的だった社員からアドバイスを求められて親切に説明している場面などを見ると、サダさんは正に会社の生き字引だったのだな…と思わされた。
定年を過ぎていることが信じられないぐらいに若々しく、最後まで仕事への愛情が溢れ出ていた。

何十年とその職場一筋の方々の、自身の仕事へのこだわりは感銘を受けるものがあった。
何よりも自信とプライドに満ちていた。
お二人の会社員人生の中のほんの一瞬だけ交錯しただけであったが、貴重なタイミングにご一緒できたことはこれも何かのご縁だろう。

多種多様な働き方があるが、このお二人との出会いは、
一つの会社で長年同じ仕事をやり続ける“継続の美学”を改めて教えて頂く出会いになった。

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