私の2023年 HipHop/R&Bのアルバム
本当に文章書くことが苦手です。そもそも音楽を文字にすることは抽象的で難しいですし、自分でも何を書いているのか分からなくなります。来年は多分やらないと思います(多分)!
ただ、好きなアルバムについてインタビューを読んでみたり、クレジットを見て参加している他のアーティストのことを調べてみたり、英語全く分からないのに歌詞を読んでみたりと…その作品を少しでも深く理解しようとしたことは良かったような気がします。
Armand Hammer、billy woods、MIKE、Liv.E、maxo、JPEGMAFIA、DJ MUGGS、Navy Blue、B.Cool-Aid、Noname、The Alchemist諸作はあえて選びませんでした。
01 Lukah / Permanently Blackface (The 1st Expression)
スポットライトの当たるミンストレルの背後に、対照的な黒人が描かれるジャケットが印象的なLukahの5thアルバム。彼の一貫したテーマでもある人種差別、黒人であるが故に日常的に受ける不利益、恐怖といった境遇 が語られる『Permanently Blackface (The 1st Expression)』はLukahの最高傑作で、今年最も完成度の高いアルバムの一つだと思います。
Lukahはメンフィスを拠点に活躍するラッパー・プロデューサーで、同郷(現在はNYで活動)Cities Avivが大きく関わった『Chickenwire』でデビュー。Yo Gotti、故Young Dolphなどのメンフィスラップの中心地から、LukahのようなハードコアなBoom Bapアーティストが出てくるところも興味深いですね。
漆黒のJazzをベースに硬派なドラムが組まれた90年代東海岸を彷彿さるビートが多いですが、メンフィスらしいダークな美しさもあり全曲素晴らしいです。
ラップもセロニアス・モンクのピアノを参考に、ルールに縛られない自由で音楽的なスタイルを意識したとのことで、彼の淡々と言葉を詰めるようなスタイルに、多様なフロウが加わってラップだけでも心地良く聞けます。
ハイライトはオーストラリアのプロデューサーSB11による「Melanin Child」。Jazz Pianoの上にテンションを抑えたドラム、Lotta Lox(おそらく彼の母)のコーラスも加わった今年のベストラップソングの一つ。Deenerが手がけた不穏なピアノが響き渡る「Exceptional Negro」、日本のプロデューサーBohemia LynchとサンディエゴのWalzによる、うねるベースとフルートが印象的な「Child in Iron Collar」もとても良いです。
そういえば12月22日にリリースされたBun Bの『Trillstatik 3』にもUFO Fevと参加し、Benny The Butcher、Rome Streetz、Method Man、Termanologyとの写真をIGにアップしていました。来年は色々なところでLukahの名前を見られるのではないかなと期待しています。
02 なのるなもない & YAMAAN / 水月
歌うようなフロウのラップ、スポークンワーズを自由に使うなのるなもないと、House, Ambient, Electronic, Dub, New Ageや環境音など様々なジャンルの音を、凛とした美しいビートで表現するYAMAAN、ともにTemple ATS所属の2人よる初の共作アルバム。
高校生の時にwenodで買った降神(志人となのるなもないによるユニット)のCD-Rで初めてなのるなもないのラップに出会ったのですが、ユーモアと狂気を交えた社会批判的なリリック、聴いたことがない独特のフロウで、とても衝撃を受たのを覚えています(トイレにポータブルCDプレイヤーを持ち込んで友達にも聞かせてましたね…)。その頃から私の中では特別なアーティストの一人です。
『水月』というアルバムタイトルのように、日常のふとした瞬間に感じる自然の美しさ、身近な愛、命の尊さや時の流れの儚さを感じる詩的で映像的なリリックは、心を癒してくれるような優しさがあってとても良かったです。
時の流れの悲哀を感じる一方で「今はここにある 明日なんてわからないから まだ大丈夫さだから行こう」と今を生きる力強さを感じる「Beacon」、幻想的でロマンチックな心象が描かれる「Bloom Rain」、DJ SHUNの伸びやかなスクラッチが効果的なハウストラック「優しくして」、モールス信号(ここにいるよ)の擬声語が心地よく響くポエトリーリーディングの「Morse Code」と続きます。後半は戦争、自然破壊、利己的な世界など残酷な現実を吐き出す「Criminal Spirituals」、「違う角度や言葉で語る 者と分かりあう 道を探そう」と他者への理解と平和を模索する「VIBLE」、自分の子どもに優しく語りかけるような「物語をはじめよう」で終わる構成もとても良い。
全曲それぞれ違う魅力があること、33分とちょうどよい長さであること、そして今私が欲しているような歌詞と音で心を整えてくれる力があって、何度も繰り返し聞きたくなるアルバムです。
降神といったらこのLIVE動画です。なんかが憑依したような志人が怖すぎます。こんなの現場で見たら泣いてしまう。
03 Pink Siifu & Turich Benjy / It’s Too Quiet..’!!
ハロウィンにリリースされ、インフルエンザの高熱にうなされている時に、枕元に置いたiPhoneで繰り返し聞いてました。
AKAI SOLO , AwleeやFly Anakinなど様々なアーティストとのコラボと実験を行うPink Siifuと、『Gumbo!』にも参加していたオハイオ州シンシナティ出身Turich Benjy(今回のトラップ中心のアルバムと相性が良い)2人によるアルバムで、名作『GUMBO’!』のトラップサウンドを、Plug寄りに、サイケデリックでダンスな方向に押し進めた、レフトフィールドなHIPHOP。
個人的にハイライトは、2曲目の「Wywd..'!?」。デトロイトテクノ・ハウスの鬼才Omar Sのレーベル所属のデュオHiTechとの共作で、手拍子と煌びやかなシンセが響くフットワークを取り入れたエネルギー高めの曲です。
Swarvyが手掛ける「Cadillac or Lex..’!!」も彼が継承するL.A.のLow End Theoryらしい、空間が広がるような立体的で暗い音が良いです。
最初に聞いた時は曲数も多くて長いこともあり、いまいち好きではなかったのですが、繰り返し聞いているうちに抜け出せなくなるアルバムでした。
04 Shaykh Hanif & Michaelangelo / Wilderness of North America
アーティスト同士の交流やコラボレーションを通して、予想外の化学反応を生み出していくところにHipHopの音楽としての魅力を感じるのですが...その中でもこの二人のアルバムは、今年のベストの一つだったと思います。(ペギーとダニーブラウンのも凄まじかったですが)
マサチューセッツ州のリンを中心にEstee Nack、Al.Divino、RLX、Primo Profit とドープな地下シーンを形成してきたプロデューサーMichaelangeloと、同州ボストンのアーティスト集団Feed The Family(BoriRock、Dun Dealy、TOP HOOTERらが所属)のラッパーで、パレスチナへの連帯も示すShaykh Hanifとのアルバムです。ニューヨーク州東部に位置するといことでGriseldaにも近い感覚がある人たちですね。
Michaelangeloの宇宙的な暗さが深いサウンドと、哀愁漂うJazzを組み合わせたビートが Shaykh Hanif のハードな世界観のラップを一つの映画のように昇華させていて素晴らしいです。
特に暗闇で怪しく光るようなシンセ音が良い「RZA’S FLOOD」と、深過ぎる深海に潜っていくようなドープトラック「DeathDrivesABenz」が特に最高です。
MichaelangeloはBub Stylesとのアルバも素晴らしかったです!ラッパーの力をネクストレベルに導くプロデューサーとして、来年以降もますます目が離せないです👀
05 Sideshow /2MM Don't Just Stand There!
MIKEのレーベル<10k>からリリースされた、エチオピア出身、LAを拠点にに活動するラッパー・プロデューサーSideshowの2ndアルバム。レコードで買って何回も聞きました。
リーンによるドラッグ中毒、うつ病、喪失感、日々の生活の苦労など内省的な内容で、自分の弱さを率直に語るリリックに惹きつけられます。
アルバムの主要なプロデューサーであるAlexander Spit (Mac Miller , Navy Blue , Earl Sweatshirt ともコラボし、8月にはSideshowと再びタッグを組んでEP作ってた方) が手掛ける荒々しく歪んだソウルビートの「2UNCHI MUSIC」「S.H.O.W. ENT」「SHELL IN A GHOST」、アトランタのPopstar Bennyによる奇妙で沈み込んでいくような中毒性のあるTrapビートの「LOCKED DOORS」、繋がりが謎な客演Valeeとの「2MM」などが特に良かったです。
06 AJ Suede & Televangel / Parthian Shots
2月に聞いた時には既にAOTYに入るだろうことを確信していた、ワシントン州のラッパーAJ SuedeとプロデューサーTelevangelによるアルバム。今作は前回の共作『Metatron's Cube』の延長線上にある2作目。
最近ではtwitchでのゲーム配信にも精を入れ、Star Warsの暗黒卿を連想させるDarth SuederとしてのAlter Egoを持つAJ Suede。少し不気味な雰囲気をまとい独特の声質・フロウですが、しっかり韻を踏んでいくオーセンティックなラップスタイルで、他に替えがきかな中毒性があります。
そこに、Lo-FiでメロディックなTelevangelによるなビートが合わさって、POPのように感情を揺さぶられるノスタルジックな魅力がとても良い。
特にピアノが全体を牽引しJazzyで深みのある「All That Jazz」は今年のフェイバリットトラックの一つです。
アルバムタイトル『Parthian Shots』は「戦いの最前線に出ては馬上で後ろ向きに矢を放ってから後退することを繰り返す戦闘方法(出典:wikipedia)」転じて演劇の世界では「捨て台詞もしくはアドリブ」の意味を持つそう。
07 G Perico, DJ Drama / Hot Shot: Gangsta Grillz
ロサンゼルス、サウスセントラル出身で現行ギャングスタラップの中では、頭ひとつ抜けているラッパーだと思うG Perico。
今作『Hot Shot: Gangsta Grillz』はハイペースでリリースされるDJ Dramaのミックステープシリーズの一つですが、Dramaによる音数を最低限に絞りつつも煌びやかさのある上品なビートと、G Pericoの鼻にかかった声、西海岸らしい滑らかなラップが合わさった、クールだけど高い熱量を秘めた最高のアルバムに。
安心してください。DJ Dramaのシャウトも、今回は許容範囲内です(多分)。
08 chunky / Somebody's Child
ジンバブエにルーツを持ち、マンチェスターのアンダーグラウンドクラブシーンで長く活動してきたラッパー/プロデューサーのchunkyによる待望のデビューアルバム。
グライム、ラップ、ダブステップなど多様なジャンルにアフロ系の要素を融合させた、ダークな空模様を連想させるUKらしい作風です。
重いベースとミニマルなサウンドが印象的な「YES I」、アルバムのハイライトでダブステップ的な「GNG(Guts N Grets)」、アフロビーツ、ダンスホールの影響を感じる「Dancin On Tables」など曲によってサウンドのアプローチを変えつつ、長いキャリアで培ってきたchunkyのスキルフルで多様なラップフロウがアルバムに深みを与えています。最後までトータルで楽しめる大好きなアルバムです。
09 CHERISE / Calling
R&B、ソウル、JAZZのフィールドで活躍。最近ではNathan Hainesのディープハウスの名曲『Earth Is The Place』の素晴らしいカバーまで行って幅広い音楽の才能を示す、ジャマイカルーツのイギリス人シンガーCHERISEのデビューアルバムです。
Ezra Collective、Nubya Garcia、Moses Boydなどを輩出してきたUKの若手音楽家育成プログラム「Tomorrow's Warriors」出身で、Gregory PorterやNubiyan Twistとの共演、JAMIE CALLUMやMICHAEL KIWANUKAといったアーティストとのツアーも経験し、今急送に注目を集めているアーティストです。
アコースティックバンドとストリングスカルテットを中心とした演奏、CHERISEのフルフルな歌声、全体的にSOUL、JAZZ、Neo-Soulなどを融合したポジティブな力を感じるアルバムで、リリースされた夏の雰囲気にも合っていて繰り返し聞いてました。
コーラスがソウルフルで美しいバラードの「Secrets」隙間を生かしたドラムがグルーヴィーで夏の陽光を感じる「Summer Love」、Future Funk寄りのなタイトル曲「Calling」が特に良かったです。
10 Cisco Swank / More Better
JAZZピアニスト、ドラマーでもあるNY・ブルックリンのラッパー/プロデューサーCisco Swankのデビューソロアルバムです。今年のJAZZ×HIPHOPのアルバムではMcKinley Dixonと並ぶ作品だと思ってます。
Robert Glasper や Roy Hargrove を尊敬し、元々JAZZアーティストを目指していた彼ですが、Kendrick Lamar の『To Pimp a Butterfly』を聞いてHIPHOPを意識するようになったのだとか。今作のJAZZとHIP HOPを融合させようとする方向性にはその影響を感じますね。
JAZZ,HIP HOP,R&B,GospelなどのブラックミュージックからAltanative Rockまで広がるサウンド、疲れた感じの現代的なラップ、全体的に流れるポップで爽やかな雰囲気が印象的なアルバムでした。
ファルセットで歌うCisco Swank、温かさと切なさを感じるAmbrose AKinmusireのトランペットソロが入るスローなバラード「You」が私のベストソングです。
ホームライブでローズを演奏するCisco Swank の動画も良い。