UNIQLO FLOWER 店舗の一隅に込められたファストリの思いと戦略をひも解く
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NPO、VC、自分の合同会社の三足の草鞋で活動してる田中成幸(たなかまさゆき)です。
私は普段NPOのプロジェクトマネジメントや、ベンチャーやスタートアップの伴走支援や、政府や自治体の調査研究や実行支援、社会課題に取り組む個人コーチングなどの仕事をしています。
銀座の一角で営まれていたユニクロのフラワーショップ
先日、仕事帰りに銀座を歩いていたんです。
大手町、丸の内、有楽町周辺はディベロッパー業界では”大丸有エリア”と言うらしいんですが、前職辞めて、さらにコロナ禍でリモートオフィス主体の生活になって、このエリアを歩く機会がめっきり減ったなあと感じます。
久しぶりに歩いた銀座は、ちょうど金曜の夜の時間帯だったんですが、かなり賑やかでコロナ前と同じような雰囲気が戻ってきているようでした。
何より印象的だったのは外国人観光客の多さ。
英語、中国語、フランス語、ドイツ語、東南アジア系の言葉などがそこかしこで耳に入ってきましたね。
円安追い風、どんどん買い物してってくださいな、って感じです。
さて、その日は障がい当事者の就労支援という領域で特徴的な取組をされているローランズ/ローランズプラスの方々とのお仕事の帰り道だったのですが、私たちがUNIQLO銀座店に差し掛かったところで唐突に
「ちょっとお時間いただいていいですか!」
と、ローランズのメンバーがUNIQLOの道路に面した一角に走り込んでいかれたんですよね。
内心驚きつつ、メンバーが走り去った方をよく見ると、そこにあったのがフラワーの販売スペース。
鮮やかな色どりの花々や観葉植物が陳列されていて、コンパクトだけど目を引きます。
ブースの屋根部分を見上げると「UNIQLO FLOWER」の文字。
どうやらUNIQLOが運営するフラワーショップのようです。
銀座で花屋。
確かに周辺は高級なクラブやスナックがある界隈(らしい。行ったことないから想像の世界)ですし、一定のお花需要はありそうです。
しかしそれにしてもなぜUNIQLOが花屋を・・・???
という疑問が帰宅の道すがらも頭から離れませんでした。
なので、帰宅後ちょっと調べてみるか、と色々調べてみたんです。
すると、どうやらこの事業、UNIQLOらしさとマーケティングの知見が丁寧に組み合わされた非常に示唆深い取組であることがわかってきました。
同業種のみならず、2C領域で事業展開している方々にとっても、顧客ニーズを満たす価値をマーケティングによって届けるUNIQLO FLOWERの取組はとても参考になるのではないかと思います。
ということで
普段はNPOや、ベンチャー・スタートアップのマーケティング戦略を策定するのが仕事なんですが、今回は日本を代表するUNIQLOのフラワー事業「UNIQLO FLOWER」のマーケティング戦略を分析しています。
UNIQLO FLOWER事業立ち上げのきっかけ
UNIQLOのフラワー事業「UNIQLO FLOWER」
同事業のウェブサイトには次のようなメッセージがトップに掲載されています。
自分らしく楽しむ、季節のお花たち
毎日の暮らしに取り入れやすい価格で。
「自分らしく楽しむ」「毎日の暮らしに取り入れやすい」というメッセージはUNIQLOの製品全般に通底する価値観ですよね。
実際、UNIQLO FLOWERの事業化のきっかけはファーストリテイリング社・柳井会長兼社長のアイデアだったそうです。
柳井社長は、大げさな花束ではなくて、UNIQLOらしい値段で、皆が好きな花を気軽に買って帰れるような、そんなサービスを街に提供しよう、と提案されたそうです。
衣服とは商品ジャンルが全然違いますが、そこに込められたコンセプトは通じるものがあります。
あ、ちなみにここで「コンセプト」という表現を使っていますが、抽象度の高い表現なので定義を付言しておくと、
コンセプト=全人格を乗せた主張を論理的に分解・再構築し、仲間から共感を得られるに至った仮説
としています。この定義は、私が尊敬しているWiiの開発責任者だった玉樹真一郎さんの考えをお借りしています。
興味のある方はこちらがオススメです。
そういったコンセプトに加え、柳井社長が花を売ることを提案した背景として、コロナ対応の一環として自粛したスタッフから来店客への挨拶等の声掛けの代わりに、顧客を歓迎したり、送り出すようなものがないか、と考えていたこともあるそうです。
UNIQLO FLOWERがUNIQLOの大事にしているコンセプトを共有しつつ、コロナ禍という、平常時とは異なる環境下で立ち上げられたことにはこのようないきさつがあります。
UNIQLO FLOWERのマーケティング戦略
次にUNIQLO FLOWERのマーケティング戦略について4Pのフレームワークを使って分析してみます。
なお4Pとは、マーケティング活動を行う上で最も重要な「Product(製品・サービス)」「Price(価格)」「Promotion(販売促進)」「Place(流通)」の観点から分析する枠組みで、J.マッカーシーが1960年代に提唱した考え方です(※マーケティングといえば、のコトラー大先生ではないことに注意)
Product(製品・サービス)
UNIQLO FLOWERの製品・サービスはもちろん生花や観葉植物ですが、付帯サービスとして梱包や配送も含まれます。
特に切り花系の商品の特徴としては小ロット多品種販売が基本となっていること。大きな花であればだいたい一束2~3本で販売されており、一束から購入可能になっています。
なお、オンライン注文もできるようになっており、そちらでは、3束が注文できる最少ロットのようです。
Price(価格)
販売価格は1束390円ですが、まとまって購入するごとにディスカウントが適用されます。3束990円、6束で1990円です。だいたい15%くらいの割引です。
さらっと「コントラストの原理」をプライシングに入れているのもUNIQLOのマーケティング巧者感が出ていてグッときます。
※コントラストの原理:人は最初に見た数字を基準にして、以後の数字を判断する、という考え方。1束390円という情報を見てから3束、6束の値段を見ると「お得!」と判断してしまう背景にはこのような人間心理があります。
なお、鉢植えは990円から、ブーケラッピングは1~5束で300円、それ以上は無料。
花の種類によらず、1束390円という「取り扱い単位(一束)」で価格を揃えることでわかりやすい価格設定になっています。
Promotion(販売促進)
私自身の経験から言うと、UNIQLO FLOWERの広告はあまり見たことがありませんでした。テレビ、インターネット、屋外どのシーンでも見た記憶がありません。
Youtubeなどで検索してもそれらしき広告動画が見つけられなかったので、一般的な広告は出していないのではないかと思います。
Promotionの手段としては、今のべた広報宣伝以外に「広報・PR」「人的販売(いわゆる営業、訪販)」「セールスプロモーション(SP)」などがありますが、恐らくUNIQLO FLOWERの場合は最後の「セールスプロモーション(SP)」に注力しているのではないかと思われます。
セールスプロモーション(SP)はいわゆる店頭でのPOP、陳列、ダイレクトメールや営業・小売店へのインセンティブ付与といった多様な販売促進活動を含みますが、UNIQLO FLOWERの場合は特に大規模路面店という注意を惹く立地で多品種の花を陳列すること自体が大きな集客効果を持っていそうです。
Place(流通)
最後に流通面ですが、UNIQLO FLOWERは全てのUNIQLO店舗に出店しているわけではないことが特徴です。
ウェブサイトに掲載されている出店先は下記の店舗です。
上記の出店先ラインナップを見ていると、集客力のある商業都市、地方中核都市への出店を主軸にしていることがわかります。
また、銀座店では店舗外の道路に面したファサード軒下のスペースを活用していましたが、ウェブで多店舗の出店スペースを見ると同様のケースや、店舗内の一部スペースを活用した形態が多いようです。
以上の観点をまとめるとこんな感じ☟
マーケティング戦略から推察される顧客像
UNIQLO FLOWERのマーケティング戦略を整理していくと見えてくるのが、UNIQLO FLOWERの顧客像です。
マーケティングとは「外の世界のニーズや欲求と、組織の目的、資源、目標とを一致させるための活動」である。
これは、今度こそコトラー大先生の言葉ですが、つまりはセグメント化・ターゲット化された顧客が活動の前提にある、ということです。
つまり、マーケティング活動を理解することで、その活動によってUNIQLO FLOWERが提供したい価値の届け先を想定することが可能です。
顧客像について考察していくためのフレームワークはアメリカの経済学者であるR.ラウターボーンの4Cの考え方を参考にします。
4Cフレームでは買い手側の視点を
Customer Value(顧客価値)
Customer Cost(顧客が負担するコスト)
Communication(顧客とのコミュニケーション)
Convenience(顧客の利便性)
の4つに整理して考えます。このフレームとマーケティング戦略からUNIQLO FLOWERの顧客像を描出してみましょう。
Customer Value(顧客価値)
UNIQLO FLOWERが伝えたいコンセプトには、UNIQLOらしい値段で、皆が好きな花を気軽に買って帰れるような、そんなサービスという柳井社長の思いがコアにあると考えられます。
また、コロナ禍期間中、接客を通じて行うことができなかったおもてなしの姿勢を伝える、という要素も含めて考えてもよいでしょう。
UNIQLO FLOWERのリーズナブルな価格、購入しやすいシチュエーションの提供によって顧客が得られる価値
それは、普段の生活の中で生じるちょっとしたニーズを満たす手段の選択肢が増えることです。
私たちが日々の生活の中でちょっといいことがあって、自分に何かご褒美を買ってあげようと思った時
日々の生活にちょっと変化をつけたい時
あるいは、友人や知人に会う時にちょっと何かを買っていくという時に思い浮かぶアイテムってどんなものがあるでしょうか。
コンビニのちょっと高いスイーツでしょうか
文房具やコスメ系の小物もあり得ますよね
中にはソシャゲのスキンやDLコンテンツって人もいるかもですね
そういったアイテムが想起される背景には
価格帯として300円から500円くらい
移動中の遭遇確率が高くさっと買えるもの、でも買えると嬉しい・・・
といった条件が無意識的にあると思います。
そういった条件で縛っていくと、実はこの「ちょっとした○○市場」に参入できるアイテムはそんなに多くないことがわかります。
UNIQLO FLOWERの花はそういったアイテムを欲しいと思っている人達を顧客として想定しているように思います。
しかもお花であればスイーツと違って太らないですし、小物とちがって鑑賞期間に限りがあるのでかさばりません。ソシャゲのコンテンツより他人の目が痛くない(?)という価値を見出す人もいるかもしれません。
このように考えていくと、ちょっとした〇〇なニーズを持っている消費者に対して、UNIQLO FLOWERが伝えたい価値感は刺さりやすい意味内容を持っていると考えられます。
Customer Cost(顧客が負担するコスト)
顧客が負担するコストはいろいろなものがありますが、中でも大きいのはやはり金銭的コストでしょう。
フラワーショップでミニブーケを買うとどうしても500円はします。それを390円に抑えることで、顧客に相対的に安いと認識されるでしょう。
また、単品で花を購入しようと思った時に値段がわからず逡巡してしまうという経験がある方いませんか。
ちなみに、自分で選んで花束作ってもらったら「まじか!」という値段だった経験、自分、結構あります(そしてやり直してと言えずに払った…)
適当に見繕ってもらってもキホン千円単位じゃないすか。
お花屋さんに怒られちゃうかもですが、買うまでの検討プロセスが冗長なんですよ、花って…。
つまり、花屋での買い物するときのコストで意外に大きのは意思決定コストなんですよね。
一方、一般的な花屋と異なり、UNIQLO FLOWERはそういったコストを低減する工夫がなされています。
Communication(顧客とのコミュニケーション)
私たちが足を止めた銀座店では、来店客が思い思いに気になった花を手に取りレジに向かっていました。UNIQLOらしい挨拶は時折聞こえてきましたが、店員が来店客に距離を詰めて商品説明をするようなシーンはなかったように思います。
このように、店員と来店者の関係をゼロ→イチにしたり、店舗を滞在しやすくする空気をつくるための挨拶レベルのコミュニケーションはするけれど、それ以外のコミュニケーションを店側から行うのを最小限に抑えるスタイルは、顧客にとっては「誰かを気にせず自分の欲しいものを選ぶことができる」「店員のプレッシャーにまけて無駄買いしないで済む」といったメリットがあります。
Customer Convenience(顧客の利便性)
UNIQLO FLOWERの出店店舗の顔ぶれを見ていると、他のアクティビティの中にUNIQLO FLOWERを埋め込むことが意識されています。
つまり、花を買うためにだけに店に行くのではなく、仕事帰りや、他の買い物のついでにUNIQLO FLOWERに立ち寄ってもらえるような店舗を抽出してフラワースペースを出していると考えられます。
他のアクティビティに埋め込むことで、顧客にとっては「花を買いに行こう」と事前に意識する必要はなく、UNIQLO FLOWERが目に飛び込んできて「あ、お花を買って帰るのもいいかも」と手を伸ばしてもらえば良いということになります。
顧客が自らのニーズを予め想起する必要が無い分、購入が”楽”ということでもあります。
以上のように、UNIQLO FLOWERのマーケティング戦略から逆算して、同事業が想定している顧客像を整理すると次のようになります☟
商品コンセプトー戦略ー戦術の一貫性の高さ
ここまで見てきたUNIQLO FLOWERのマーケティング戦略と顧客像をまとめてみると、マーケティング戦略と顧客像とがしっかりと整合していると同時に、いずれの活動も顧客価値を高めることに紐づいている事がわかります。
UNIQLOのマーケティング力の高さだけでなく、UNIQLOが社会に対して提示する価値やコンセプトをどれだけ重視しているか、ということの表れでもあります。
さらに、柳井社長の考えがマーケティング戦略に落とし込まれ、それがさらに国内の条件に合致する店舗において戦術的に表現されているという、組織としての情報流通の確度や実行力の高さも垣間見ることができます。
花や植物に興味はあるけど手が伸びない生活者の本音
さて、少し視点が変わりますが、UNIQLO FLOWERが参入したフラワー市場は、消費者のニーズが満たされない、Unmet Needsが残存する市場でもあります。
数年前に農林水産省の20,000名を対象とした調査によれば、花を購入する事に興味があると回答した人は約64割いるにも関わらず、1年以内に実際に購入した経験がある人は35%に留まるという結果が出ています。
フラワーの購入に関わる市場は、ニーズはありながら、それが行動の形で満たされていない状態にあると言えるでしょう。
また、切り花の購入をためらう様々な障壁のうちで、解消された場合に「もっと購入したい」と思えるものを挙げてもらったところ、「価格が高い」「花屋に入りづらい」「花屋が近くにない」といった意見が多く示されており、価格や流通面の課題が消費者の購入を妨げる要因として大きい事もわかります。
ひるがえってみると、UNIQLO FLOWERのマーケティング戦略がこれらの消費者の購入障壁を解消する取り組みになっているわけです。
ファーストリテイリング社がUNIQLO FLOWERの事業戦略を策定する際、当然ながらこのような情報を事前に収集していたと思いますが、マクロ的に見ても、消費者のニーズに合った戦略を構築していることがわかりますね。
農林水産省の調査についてご興味ある方はこちらから☟
農林水産省 令和2年度花卉のシン需要開拓につながるビジネスモデル事業可能性調査委託事業
花や緑の効用・家庭とオフィスへの導入状況に関する調査
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/f_R2itaku/attach/pdf/R2itaku-2.pdf
UNIQLOらしさと戦略が凝縮されたUNIQLO FLOWER
ここまで見てきた通り
UNIQLO FLOWERは、これまで花の購入に興味があったけど購入に至らなかった層や、自分へのご褒美や誰かへの贈り元のと言った「ちょっとした〇〇」ニーズを持っていた人達に対して、「誰もが好きな花を、気軽に買って帰れる」という価値を提供する事業として位置づけられ
その価値が顧客に伝わるような各種マーケティング戦略が策定され、それを実行し得る精選された店舗で展開されていることがわかります。
UNIQLO全体からすると非常に大きな売上比率だとは思うのですが、そんな小さな事業にすら、同社の価値観と、これまでの経営の中で蓄積されてきたであろうマーケティングテクニックとその高度な統合が見られる”趣深い”事例だと思います。
小さな事業であっても手を抜かない、基本をしっかり固めた上で応用も聞かせることで競争力を高めるというファストリ者の経営姿勢も感じられます。
柳井社長がファーストリテイリング社の代表取締役に就任されたのは1984年ですが、そこから40年で日本を代表するブランドとなった理由が、こういう事業を観察していてもわかるような気がしますね。
強い企業・強いブランドにはそうなる理由がちゃんとある、ということを改めて理解することができる事例だと思います。
UNIQLO FLOWERの取組は、自社が提示する価値観、顧客像、マーケティング戦略を組み合わせていく事で成果が挙がることを示してくれる事例として、フラワー業界のみならず、2C事業を展開する多くの事業者、非営利業界、もすこし広げれば個人のキャリアにとっても参考になる事例だと思います。
自社の価値とは?顧客は誰か?価値を顧客に届けるためのアクションとは?
改めて考えるきっかけにしていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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