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恐ろしき竜は悪魔祓いに屈するか?

恐竜(きょうりゅう)
1:中生代に出現した大型爬虫類の総称
2:心霊を捕食する霊的存在の総称

 ガキの頃、あの世や幽霊は存在するのか?とか考えた奴は少なくないだろう。大人になってもその疑問が忘れきれない奴もいるだろう。そんな連中の一部が、あの世の座標特定やあの世と交信する試みを繰り返した果てに、幽霊との対話に成功した。交信に応じた幽霊が最初に発したのは、自分が何者かだとか死後がどんな気分かだとかではなく、ただ『助けて』の一言だった。直後、交信相手は何者かに貪られ、消滅した。それが、人類が初めて恐竜の存在を知った瞬間だった。
 恐竜。大昔に地上を闊歩していた巨大なトカゲどもは、死後の世界にその住処を移していた。地球上で死んだ全ての生物の幽霊を貪る、あの世の食物連鎖の頂点に君臨していたのだ。肉体から抜け出した霊魂は幽霊となり、徐々に揮発して消滅に向かう運命にある。だが、他の幽霊を捕食することでその存在を維持できることが、恐竜の存在によって判明した。
 天国も地獄も存在せず、死後霊魂は巨大なトカゲに食われ消滅する。恐竜と幽霊の実在が宗教界にもたらした衝撃は、宗教家に廃業を覚悟させた。だがごく一部の宗教家が活路を見出した。臨終に立ち会って襲い来る恐竜どもを追い払い、幽霊が揮発しきるまで安寧を約束する道だ。祈りは呪文に、祭器は武器へと姿を変え、手探りの技術はいつしか恐竜を追い払えるようになった。悪魔祓いの復活だ。
「最終点検完了。出撃可能です、親父(ファーザー)」
「ああ」
 助手尼僧の報告を聞き、俺は短く応えた。作業台に並べられた聖なる手榴弾をベルトに下げ、聖別されたスラグ弾を散弾銃に込めていく。そして最後に、脳みそごと自分の霊魂を消し飛ばせる自決用弾丸を込めた拳銃を懐に収め、俺は助手尼僧に目を向けた。
「行くぞ」
「はい」
 薬物と訓練により死後の恐怖を失った彼女は、平坦な声で応えて拳を打ち合わせた。

【続く】

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