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「ミニマリスト仕事術」(abrAsus代表 南和繁・著)を読んで

ミニマリストという単語が“最小限の物しか持たない人”という日本発の言葉として海外でも定着しているんだそうだ。家具も何もない部屋、余計なものが入ってない鞄、衣類も最低限のものだけ。そんなスタイルを貫く人である。身軽なのはメリットもあるとは思うのだけど、結局はただストイックな生活スタイルを楽しんでいるだけのケースも多いような気がする。

僕自身、身辺の効率化には強い興味を持っていて、日々、いわゆるライフハック的な取り組みやグッズやアイテムの精査に余念がなかったりする。暇さえあれば「ああすれば、こうなるな」「これは無駄だよな」と、永遠のβ版のように、完成しない歯車を組み合わせ続けているのだが、正直言って、物を持たないことそのものにはあまり意義を感じていない。

とはいえ、無駄を削いだ物というのには強く心を引かれ続けるという側面が、僕の中にはある。例えばこれ、abrAsus(アブラサス)ブランドの「薄い財布」なんかがそうだ。

筆者所有の「薄い財布」。数年使い込んでいてヨレヨレだが、今やこの財布だけは肌身離さず持ち歩いている

とにかく薄くて小さい。一見名刺入れやメモホルダーのように見えるのだが、しっかりコイン15枚、お札15枚、カード類5枚が収まるようになっている。それ以上、入れようとするとはみ出したりして、物理的に使えなくなる。この制限の中で使用しなくていけない、というのがこの製品の特徴であり魅力でもあるのだ。

小銭入れは最大15枚、999円分までのコインがピタッと収まる仕様になっている

一方でなんでも放り込めば収まる大きな財布もあるわけだから、こうした制限の厳しい財布を“不便”という人もいるかもしれない。ただ、実際に、この制限に自分の生活をフィットさせてみると、このようなメリットを感じられるようになる。

・持ち運ぶべきカードを絞れる
・余計な小銭をじゃらじゃらさせない
・必要最低限の現金を持つ習慣がつく

つまり「薄い財布」を通じて、利用者の行動が研ぎ澄まされるという副次的効果が舞い降りてくるのである。

この「薄い財布」を考案したのは、VCで投資事業をやられてきた末にabrAsusを創業された南和繁氏だ。つい先日、こうした行動哲学を表した書籍「ミニマリスト仕事術」(大和出版刊)が出版されたので拝読させていただいた。

本書で書かれているミニマリストという定義は、冒頭で述べたような「単に物を持たない人」とは若干異なっており、「やりたいこと」「自分にとって価値のあること」「好きなこと」「望んでいること」のみに絞って実行に移すという定義になっている。

無駄な時間を省き、無理をなくし、本質を見定め、独り一人が高回転で成長する仕組みを見出す、それが「ミニマリスト仕事術」の本質といえる。

南氏が感じ実践してきたさまざまなエピソードは具体的であり納得感もあるが、それを真似したからといってお金が儲かるとか、事業が成長するという打算的な欲求を満たすものではない。逆に、無理に成長させない理由を説明するような内容だ。

そういう意味では、仏教が教える108の煩悩を捨てるという試みと似ているようにも思う。欲望やそれを叶える技術を説くのではなく、どうなりたいのか、どうなるべきかを考えつくし、最も実行すべきことに絞って行動していくというもの。これこそミニマリストとしての境地であり、スマートな生き方のように思わずにはいられない。

(了)

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