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書評「人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室」

「AIってどうやって作るんですか?」と質問されても、どのように答えるべきか迷ってしまう。
質問した人が考える「AI」と、答えとしての「AI」が異なるため、正解が見つからないからだ。
こうした苦労に対して、「とにかく楽しい」という視点で答えたのが本書である。

少し前はAIを作るハードルが高く、環境構築の手間やバージョン違いによる謎のエラーに阻まれて、英語の情報と格闘しながらやっとスタート地点に立ち、それっぽいコードをコピペした結果、「よくわからないが動いている気がする」というレベルだった。
もっともここ数年で開発環境の整備や日本語情報も増えているが、「楽しいか?」と聞かれると疑問が残る。

そこに「初心者」「お手軽」「わかる」「動く」「目に見える」という意味で「楽しい」という観点で、AIを学べるのが本書である。

内容としては

1章 AIで遊ぼう
2章 AIで画像認識
3章 AIでテキスト分析・生成
4章 AIで画像を生成・変換
5章 AIで人の姿勢を推定
6章 エッジコンピューティング
7章 まとめの今後の学習方法

で構成されており、「楽しい」を主眼としながら、それぞれの用途に応じてをAIを作って、学んで、理解する流れになっている。

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サンプルコードと解説もあるので安心

例を挙げれば画像認識なら手の形でじゃんけん、テキスト分析なら社会人の苦労を感じる有名ブログ、エッジコンピューティングなら掃除ロボットの「ルンバ」など、身近なテーマを取り上げている。
特に「ルンバ」を選ぶセンスは秀逸である。
世間一般のご家庭において「IoTをやりたい」という理由で7-8万円のお金は出せないが、「ルンバを買う」と言えば「掃除機だから」「家事の負担が減るから」で通ることを、妻帯者である作者はわかっているのだろう。

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ハードウェア(Raspberry Pi)のセットアップもしっかり解説

他の実例で面白いのは、著者のTwitterプロフィールをAIで生成したことが紹介されている点だ。
私も何度か目にした文章だが、実はAI謹製だと知って驚いている(自然かつご本人のイメージに沿っていたので気付かなかった)。

本書の内容は、PC(OS問わず)とブラウザとネット回線があれば試せるので、入り口が広くハードルが低いのが魅力である。
こうして本書を読めばAIが作れるわけだが、「とにかく楽しい」をテーマにしつつ、内容が薄いわけではない。
データの準備、モデルの評価、精度向上というAI作り全体の流れを、サンプルコードと解説文を追いながら実体験できる。
複雑な図や数式を控えて、どのような理論でAIが処理を行うかを説明しているので、「なぜか動いた」ではなく「なぜ動くのか」がわかってくる。
これは著者が動く面白さだけでなく、理論や背景も理解しているからだろう。

最後の「まとめ」に今後の学習方法として、中級者以上にステップアップする指針も示しており、沼に沈める気も満々である(強いて本書の要望を挙げれば、この部分はもっと詳しく書いてほしかった)。
また、合間にコラムを挟んで著者夫婦の掛け合いや、”あの”ディープラーニングおじさん(詳細はこちら)のインタビューがあり、読みやすさが重視されている点にも注目したい。

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著者曰く奥様は"コラムより10倍知的で100倍キュート"とのこと

もっとも、本の内容を細かい点までバラすと誰も買わないので、詳細は買って読んでほしい

本書は初心者向けという位置づけだが「プログラミングって何?」というレベルではない点に注意してほしい。
あくまで「AIプログラミングの初心者」であって、「学校でプログラミングの授業を受けた」「仕事でプログラミングや開発を経験した」ぐらいの読者を想定している。
この点はディープラーニングおじさんが全くの素人ではなく、C言語による開発経験という下地があった点にも関連するので、注意してほしい。

この「初心者向け」というワードは扱いが難しく、IT業界となれば様々な技術や分野もあるので、「初心者向け」に対する定義は千差万別である。
中級者以上の「わかっている人」に説明するのは容易だが、初心者とは「知らない人」「知ってるけどわからない人」「そもそも興味がない人」「興味はあるけど知らない人」「調べたけどわからない人」「何がわからないかわからない人」などであり、実は書籍を執筆する難易度は高いのだ。

ネットやSNSやYoutubeで大抵の情報は手に入る(と思われている)が、その情報がどこまで正確なのかは、初心者には判別できない。
初心者が誤った情報を正解と信じて、中級者以上に指摘されるのは、ITやプログラミングに限った話ではない。

一方で初心者への入口を広げて関心を持ってもらえば、人材が増えて業界の発展にもつながる。
こうした観点でも、本書は初心者が楽しく学べる場を提供する入り口となり、AIをより深く知ってもらう地図の役割を担っている。
そしてそれが重要な意味を持つことは、言うまでもないだろう。

そこで本書を購入した人にお願いしたい。
レビューするときは「(自分は中級者以上だけど)内容が初心者向けなので星3つ」という観点ではなく、「かつて自分が初心者だった時に本書を読んでいたらどう思うか?」を考えてほしい。
そうすれば、本書がいかに優れた内容であるかが認識できるはずだ。

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