大阪でのタクシーのマスク拒否約款の認可について

タクシーのマスク未着用の乗車拒否の約款申請が問題になりました。8月末に首都圏の一部のタクシー会社が約款の変更を国土交通省に申請し、10月中旬に約款変更申請が行われていたことがメディアで取り上げられました。「タクシー乗車拒否」をめぐっては、10月19日にAbema Primeさんに出演させて頂き、私マスパセは乗車拒否反対の立場から意見を述べました。(この時は、約款変更申請をした荏原交通の社長さんと、乗客側の立場として私が生討論するという番組の趣旨でした。しかし、社長さんが公務のため欠席されることになりました。)

その後、11月に入り国土交通省が一部タクシー会社の約款変更申請を認可しました。「マスクしない人をタクシーから乗車拒否できる」の動きが、首都圏以外のタクシー会社にも広がりつつあります。今日のNHKニュースでは、大阪のタクシー会社の乗車拒否約款の申請が国土交通省によって認可されたと報じられました。

タクシー会社の経営方針は社ごとに違いますが、乗車拒否の流れが進み、マスク未着用者の排除の可能性が生じることには危機感を覚えます。

マスク未着用のタクシー乗車拒否約款の何が問題であるか、今一度、私の考えを述べたいと思います。

私は、タクシーのマスク乗車拒否の約款についてはあくまでも反対の立場です。

第一の理由として、タクシーも、公共性のある乗り物だから乗車拒否すべきでない。交通機関におけるマスク乗車拒否は、諸外国でも論争になりますが、誰もが移動の手段を保障されていることは社会的に重要です。タクシーは狭義の「公共交通機関」ではありませんが、いまや同様に公共性の強い交通手段としての公共的役割を有しています。

第二に、大都市圏以外など他の交通手段が整備されていない地域においては、タクシーでないと行けない場所や、タクシーでないと移動できない人もいます。タクシーは、他の交通手段に対する「補完的役割」が大きいと言えます。特に近年は鉄道やバスが廃線になる地域も増えつつあります。タクシーは、単にプライベートの移動サービスを提供するだけでなく、まさに社会の交通システムの一翼を担うものといえます。

第三に、タクシーの持つ福祉的機能を考えると、マスク乗車拒否は適切ではありません。私は、今はタクシーにお世話になる機会は少ないですが、数年前に足を骨折した際は頻繁にタクシー利用しました。通院や買い物など文字通り「生活の足」でした。また高齢者や障害をお持ちの方など日常的にタクシーを利用する機会が多くあります。誰もがタクシーでの移動を保障されることは社会的に重要です。

第四に、タクシーは「最後の拠り所」です。終電を逃してしまった時などにタクシーを乗らざるを得なくなってしまった人も多いでしょう。またお酒を飲み過ぎて千鳥足で電車にて帰宅できずに、タクシーにお世話になる機会もあるかもしれません。少々の酔っ払い状態でもタクシー乗車が保障されていることは大切で、タクシーの「最後の拠り所」としての役割を考えると、マスク拒否くらいでタクシーに乗せないというのは行き過ぎです。

では、なぜタクシーでマスク着用問題が浮上したのでしょうか。電車の中では95%以上の人がマスクをしているのに、タクシーでは2割近くがマスク未着用であると言われます。お願いが「事実上の義務」として作用するのは、周囲の目と同調圧力が潜在的に存在してこそです。今の日本社会で「マスクのお願い」が広く受け入れられているのは、決して日本人の美徳ではありません。タクシーの場合は、個人または小グループで乗るため、周りの目がなく多数からの同調圧力が働きにくいため、この種の「お願い」が機能しにくかったと言えます。逆に言うと、「お願い」が作用するのは周囲の同調圧力と相互監視があってこそであるというのを、まさにタクシーのマスク拒否が例証したともいえます。

また、事業者も、義務にして制度化のコストと責任を負うよりも、「お願い」として提示して周囲の同調圧力を使って要請を貫徹する方が低コストだったといえます。事業者が今まで曖昧にしてきたマスクを着用をある程度制度化し、規定を整えるのはアリだと思います。しかし、サービスの利用を制限する乗車拒否は過剰であり、過度の義務化はかえって混乱を生じさせるだけです。

そもそもタクシー車内でのマスクの着用は必要性があるのでしょうか。例えば、10月27日放送の『グッとラック』で堀江貴文さんはタクシーの車内環境はマスク無しでも十分に保たれているとして「過剰な規制」であると指摘しました。またタクシーの換気システムは性能が高く、マスク着用を義務化することが必要かは大いに疑問です。

また、タクシーは高齢の運転手も多く、運転手の間に不安が広がっているとの指摘もあります。しかし、運転手の労働環境を整えるのは事業者側の責任です。パーテーションやビニールシートの設置で自衛の対策はできるでしょう。乗客の協力と負担を求めるよりも、まず事業者の側が感染防止の設備投資に努めて運転手の不安払しょくにつとめるべきです。

タクシー会社がもしマスク着用を義務化するならば、例外規定を広く認めて未着用者にも配慮すべきです。今回の約款変更は「正当な理由がない場合」乗車拒否できるとしています。しかし、「正当な理由」の有無で判断する場合、その運用を現場任せにせず、事業者(タクシー会社)が責任を持つべきであることは言うまでもありません。理由の提示の際は、十分にプライバシーに配慮すべきであり、運転手側の理解も大切です。センシティブな個人情報に土足で踏み入ることがないよう正しい運用が望まれます。現場で新約款がどう運用されるかはこれから見守るしかないですが、私としては「例外規定」は広く遍く適用すべきだと適用すべきだと思います。

現在のマスク着用は、必要な場面での感染防止という実質的意味ではなく、ただの社会的規範と「みんなの」不安解消のためのシンボルとなっています。タクシーの場合も、マスク未着用者の後の車に乗りたくないクレーム等が多いと言われます。では、不安に感じる乗客のクレームのために、マスク拒否者をタクシーに乗せないことが正当なのでしょうか。私は、大多数の不安解消のために、少数の個人の権利や自由を制限してよいとする風潮には慎重であるべきであると考えます。

社会の「何となく」の流れの中で、タクシー会社が追随してマスク拒否約款の認可申請を行っています。今一度立ち返って、マスク着用の意味とそこから生じる排除の可能性を考えるべきではないでしょうか。

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