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大阪府のマンボウ措置の「マスク飲食」義務化に反対

大阪府が「まん延防止措置」の一環として、飲食店でのマスク飲食を事実上義務化することを発表した。

公権力が特定のノーマスクの人をサービスから排除するよう事業者に促すことは、考え方としても絶対にあってはならないことだ。コロナの下での「社会の劣化」は非常に深刻だが、公権力を司る者がその発想を持つこと自体、大問題である。このような都合の良い「排除」の思想が見え隠れすることにこそ、今のコロナ社会の底知れぬ危うさをはらんでいる。

私は、タクシー事業者がマスク未着用者の乗車拒否を認める約款を申請した際も、警鐘を鳴らした。(10月20日AbemaTV, 10月28日TBS「グッとラック」)一律拒否を是認するものでないとの薄氷のバランスで約款は認可されたが、複数のテレビ番組で論点が取り上げられたことで、タクシー事業者の不適切な対応には(現時点では)歯止めがかかっている。しかし、今回の大阪府の措置は、飲食事業者に「入店拒否」を促す(事業者には過料を伴う間接強制)という点で、完全に一線を踏み越えてしまった。

知事は「マスクをしない人を入場禁止にしたリ、退室をさせたりする”義務”が生じると思っている」と踏み込んだ。個人の人権に対する感覚の欠如も著しい浅見である。逆に、社会の様々な偏見を喚起するだけだろう。

物を食べ飲む行為は、人間の基本的な習慣として長い文化の中で培われてきたものでもある。そもそも、文化や慣習は長期間を経て漸進的に形成されるものだ。公的主体の一存で、社会の慣習を人為的に作り変えるべきでないだろう。マスク飲食という文化的な奇妙さを伴う食事作法を、強い公的な勧告力をもって押し付けることは、社会の在り方として決して健全ではない。

食事作法という人の習慣に関わる領域にまで、公的主体が忍び込むのは、個人の自由の領域を著しく縮減させる。そのような管理は、一時的な危機対応であっても、公権力(大阪府)の権限の範囲を逸脱しているだろう。

「嫌なら店に行かなければいい」とお上が勝手にサービス利用者を選別するのも、越権行為である。マスク会食の規律化は、外食産業全体の収益にも影響を及ぼすだろう。

かつての大坂は、町人を中心とする上方文化が栄えた。町人層は、独自の文化を開化させ、自主独立の精神を保った。その伝統を引き継ぐ現在の府民が、公的主体の理不尽な介入に何を想うか、土地柄の根本が今まさに試されている。

危機的状況であるとの切迫感を醸し出すことが、公的主体に強硬な介入的手段を取らせているのだとすると、我々の民主的社会の成熟度も問われるだろう。危機の時こそ理性を保つべきだ。飲食店でのマスク会食は、何の解決にも寄与しない。科学的にも決して合理性を持つといえないマスク飲食を介入的に推進するのは、「政治家が何かをやっている」感を演出するためのパフォーマンスでもある。

今回の政策でポイントとなるのは、店にノーマスク退去を促している点である。大阪府自身の官吏がノーマスク退去強制をするのでなく、手先として飲食店を使って規範を貫徹させようとするのが、実に日本的だ。戦前の「隣組」の相互監視を彷彿とさせる。

もっとも、大阪府が飲食店にノーマスク退去を促しても、実効性があるかは疑問である。理性を保った飲食店であれば、そのような勧告には見向きもせず、当然マスクの有無に関わらず、客を温かく迎えるだろう。

しかし、大阪府は「見回り員40人」を飲食店に巡回させ、ルールの順守を確認するという。時短営業の強制に際しては、おとり要員が夜8時直前に店を訪れ飲食客のふりをして「今から入れますか」と無理矢理懇願して忠誠度を「チェック」した。今度は、ノーマスクの見回り員が客を装い、飲食店員が注意し実際に退去を促すか確認するのだろうか。公的主体の理不尽な見回りは、市民の間の猜疑心を生むだけである。まさに「分断による統治」だろう。善良な飲食店事業者まで、マスク飲食の慣行の強要に名目的には付き合わないといけないとすれば、実に不憫である。

かつて、堀江貴文氏を放逐した「ノーマスク入店拒否」の餃子店が強い批判を浴びた。影響力を持つ堀江氏が地方都市の小さな飲食店を晒したことには疑問符をつけられても、不合理な入店拒否でサービスの提供を拒んだ飲食店の問題は大きな反響を生んだ。サービスを社会に対し提供していく責任を持つ飲食店が、合理性を欠く差別的な入店拒否をするのは批判を免れないだろう。(仮に飲食店は私企業だから公共性はないとするならば、支援給付金も行うべきでないことになるだろう。)

一部の飲食店が勝手に入店拒否を行うならまだしも、公的な主体が表立って特定の空間からの「人の排除」を促すのは社会の傾向として看過されることではない。緊急事態の名の下に見切り発車的に正当化してはならない問題である。今回の「まん延防止措置」の不適切性については強く警鐘を鳴らしたい。

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