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もしも猫になったら

あの子は猫が嫌いだ。

それでもちゃんと大人しくしていれば、
あの子もいつか受け入れてくれるかもしれない。
突然な相談や愚痴だってしだすかもしれない。

今はあの子の帰りを、待つばかり。


私はあの人に恋してた。
ずっと、遠くで見つめてた。
でもあの人はいつも違う人を見つめてた。
私に出来ることはないだろうか、と考えた。

あの人は私と同じ、猫が嫌いだ。
でも、あの人が見つめる先の人は猫が好き。
だから、頑張って猫を好きになるかもしれない。
私ではない別の人のために、無理にでも猫好きを演じようとするかもしれない。

そう思って、私はこの世の最後の願いとして、
あの小さな星に願ってみた。

「私を猫にしてください。」

翌朝目覚めると、私の視界は全体的に低く、
体中がなんだかモゾモゾと痒い気がした。
そして体をくまなく舐めた。


…舐めた?

あれ、私、猫だ。

私はその事実をすんなりと受け入れた。
本当に猫になっちゃったなんて、
不思議なこともあるんだね。
でも、これであの人に少しでも近づいて行ける。
今までの距離より、ぐんと近くに。

そのまますぐに部屋の窓から飛び出して、
あの人の所に向かうことにした。
朝はまだ早いけど、あの人はもう起きて、
コーヒーを入れてる頃合いだろう。

案の定、あの人の住む部屋からは
朝日のようにすっきりとした、
寝覚のいいコーヒーの香りがした。

ドアを少し引っ掻いてみる。
トントン、トントン。
私としてはノックのつもり。

音に気づいたあの人が
ドアに近づいてくるのを感じる。

恐る恐るドアが小さく開く。
私の存在に驚くあの人。
一旦ドアは閉められ、
少し時間が経って、またドアが開いた。

「どうしたの?まだ、そこにいるの?」

ミャー

あの人の優しい声だ。

「本当はここの部屋はペットも飼っちゃいけないし、何より僕は猫が苦手なんだ。それを分かって、ここに座ってるの?」

ミャー

あの人の困り眉すら愛おしい。

「どうぞ、お入り。牛乳くらいならあげられる」

ミャー

今度こそドアを大きく開き、
あの人は私を招き入れた。


3週間が経ち、
私はすっかりここの住人になっていた。
あの人も猫という生き物に慣れてきたようで、
お風呂上がりに私がいることにも驚かなくなった。

それでもあの人は私には特に名前をつけず、
"君(きみ)"と呼んでいた。


その晩、
久しぶりにあの人は少し酔って帰宅した。

「ねぇ、君はさ、誰かを想ったことってある?」

ミャー

いつだってあなたを想ってきたよ。

「猫だからそんなことないかな。
 でも、猫だって恋することあるよね。
 魔女の宅急便のジジも好きな子できたし、
 ドラえもんだってミーちゃんって子が
 好きじゃなかったっけ。」

ミャー

その辺りは詳しくないけれど、
あなたはそういうの好きだよね。

「…今日さ、気になってた子がいると思って、
 食事会に行ったんだけど、
 一向に来なかったんだ。
 少し周りに聞いたけど、
 最近全然見かけてないって。
 どこか行ってるのかなぁ。」

ミャー?

え?この前ふたりで食事してたじゃない。
だから私、腹が立って、どうしようもなくて、
あなたの腕を引っ掻いちゃった…

「その子はさ、ショートカットで、
 そうだな、君みたいに白くて、
 眼は少しブラウンっぽくて。
 人を寄せ付けない感じだったんだ。
 留学でもしちゃったのかな。」

ミャー…

ねぇ、それって…

「話してみたかったんだ、ずっと。
 友達になろうって、言いたかったんだ…」


あの人の頬に静かに涙が伝う。

猫は背を伸ばし、その涙を静かに拭った。


これはいつも仲良くしてくれるたまごまるさんが
フリー企画50個!とプレゼントしてくれた中の
1つです。

みなさんもぜひ、この素敵なアイデアたちから
何か生み出してみてください🐣

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ましろ
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