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骸骨探偵は死の理由を求む 第2話

「そんなわけないんですけど」

 衝撃の出会いから30分。私はまだこの船着き場にいた。
 気分は最悪だ。理由は、この骸骨。

――お前、もうとっくに死んでるぞ

 夢の中でだって、そんな事言われたら確実に怒る。
 おまけに夢からは一向に覚めないし、一体どうなっているんだろう。

 当の骸骨ときたら、

「お前が何と言おうと、死んだからこの三途の川に来てるんだろ」

 とカラカラ音を立てながら喋っている。
 よく見たら、黒いジップアップパーカーには“GO TO HEAVEN"とか書かれている。

 なんてふざけた夢を見てるのよ、私!
 苛立ちは最高潮に達し、骸骨にコレでもかとぶつけた。

「ここが三途の川って証拠あるの?
 っていうか、これは夢でしょ? 早く目覚めさせてよ!」
「夢じゃねえよ。だから、いつまでもここにいるんだろうが」

 骸骨は困ったように肩を竦めた。困っているのは私の方だ。
 だって……。

「私が死ぬわけないじゃない!
 覚えてないけど、今日は絶対いい日だったはずなんだから!」

 視界が滲んでどんどん見えなくなる。
 やだ。こんな姿、骸骨野郎に見せたくない。
 私は膝を抱えてしゃがみこんだ。

「……亡者か。本当に死んだ自覚ないんだな」

 暗い視界に骸骨の声だけが聞こえる。
 妙に優しく聞こえるのが逆に気に障る。

「どっちにしたって、死んだことが自覚しなきゃ、向こう岸には行けないんだ。
 幸い、他の客もまだ来てないないし……」

 骸骨の声が遠ざかっていくのを感じて、私は顔を上げた。
 骸骨は持っていたオールを船着き場の柵に立てかけて、ベンチの前に立っていた。

 そして、私の方を向くと、手招きしてベンチを軽くコンコンと叩いた。

「お前の死の理由、俺が解き明かしてやるよ」

 表情ないのに、ニヤリと笑ったような声で、骸骨はそう言い放った。

「だから、死んでないって……」

 目をぐいっと拭って立ち上がり、ベンチに腰掛けた。
 そうだ、私は死んでいない。
 だから、こいつにそれを分からせてやるんだ。

 一呼吸して、ここに来る前の記憶を手繰る。

 だが、先ほどと変わらず、頭に靄が掛かってうまく思い出せない。
 どちらかというと、記憶力はいい方なのに何で?

 焦る私に骸骨は、

「亡者ってのは、こっちに来た直後は記憶があいまいらしいからな。
 まずは週の始めから思い出してみろよ」

 とカラカラ顎を流しながら、アドバイスらしきものをくれた。
 こいつに手伝ってもらうのは少し悔しいが、しょうがない。

 週の始めってことは、月曜日か。
 じんわりと記憶が蘇ってくる。

 月曜の放課後。

 すべてはそこから始まった気がする。

>>>第3話に続く


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