漫画原作の仕事の流れについて
漫画原作者の今井真椎です。
最近、「漫画原作の仕事って何?」と聞かれることが多いので、
「漫画原作をやってみたい(依頼してみたい)んだけど、仕事の流れがわからない!」
という作家・漫画家・編集さん向けに、
漫画原作の仕事の流れをまとめてみることにしました。
※私のプロフィールはこちらをご覧ください。
※本記事は、横読み漫画のプロット・シナリオ原作について「私は普段こうやっているよ~!」という内容をまとめたものです。皆様のご経験ともし違う点がありましたらぜひ教えてください。
漫画原作とは?
本記事で扱う「漫画原作」とは、
原作者が漫画制作用に書き下ろした<オーダーメイド>のストーリーのこと
を指します。
すでにある小説・アニメ・ゲームなど他媒体を漫画化するのはコミカライズ。
漫画原作とコミカライズはまったくの別物です!
この2つは混同されている方が多い印象です。
例えば、自分が書いた小説を元にコミカライズされたご経験がある作家さん。厳密に言うとこの方は「漫画原作者」ではなく「小説家」です。
「漫画原作者」と「小説家」は必要とされる能力が違う職種です。
漫画原作をご依頼の際は「漫画用のオーダーメイド作品を書いたことがある作家かどうか」という着眼点で探されると良いかと存じます。
具体的な仕事内容
原作者は以下の漫画制作工程のうち、①~④を担当します。
(ネームが描ける原作者は①~④、私は①~③を担当しています)
企画(ネタ出し~あらすじ・設定等)
プロット(ストーリー構成)
シナリオ(脚本)
ネーム
下書き
ペン入れ
仕上げ(背景・ベタ・トーンなど)
※私からの提出物は「①企画+②プロット」か「①企画+②プロット+③シナリオ」のどちらかになります。(「①企画」のみの単体発注も可能です)
原作者との仕事の進め方
ここからは、漫画原作者とどのように仕事を進めていくかについて説明します。
具体的な見本があったほうがわかりやすいと思うので、著作「異世界ランジェリーショップ」制作に使用した資料類を作例として載せています。
(公開許可をくださった作画担当の岡まだち先生、版元のKADOKAWA様、ありがとうございます!)
①ご依頼
まずは編集部から原作者宛てに、執筆ご希望作品の「ジャンル/ターゲット層/類似作品/連載媒体/話数/連載開始時期/執筆予定の漫画家さん(決まっていれば)」等をご連絡ください。
②ネタ出し(省略可)
編集部とお打合せしたあと、私から数案、メールで3行程度のネタを提出します。その中から気になるものを選んでいただき、ご返信ください。(なければまた打合せ→ネタ出しをします)
この工程は飛ばして、いきなり次の③企画書提出をする場合もあります。
③企画書提出
上記で話したネタを企画書にまとめて提出します。ここで、あらすじ・設定等の概要をFIXします。WordでA4・1~2枚ぐらいの分量です。
■企画書見本
④全体プロット提出
企画書が通りましたら、私のほうで物語全体のプロット(ストーリー構成)を作成・提出します。
全何話のお話にするかにもよりますが、横読み漫画1話24pにつきWordでA4・1~2枚程度の分量です。
(見本は6話分なのでA4・8枚です)
■全体プロット見本
⑤世界観設定・キャラ設定資料の提出
ご希望に応じて、各種設定類の細かい内容と作画用のイメージ画像を組み合わせた資料をお送りいたします。
キャラ同士の呼称表も必要であればお知らせください。
■世界観・キャラ設定資料見本
※note掲載用に、資料内の画像にぼかし処理を入れています。実際のお仕事ではぼかしなしでお送りします。
※Wordで簡易版を提出することもあります。
■呼称表見本
ここまでにお送りした資料をもとに、漫画家さん側でキャラクターデザインをしていただき、ネームに入っていただきます。
⑥シナリオ提出(省略可)
漫画家さんのご希望があれば、毎話ごとのシナリオ(脚本)の提出も可能です。
セリフ+ト書きで構成された字ネームのようなもので、コピペして各コマに貼っていただければ、そのままネームに使えるレベル感のものです。
■シナリオ(脚本)見本
※シナリオ原作はわりとガッチガチに指定するイメージなので、セリフや演出などをある程度自由に考えたい漫画家さんはプロット原作をおススメします。
⑦ネーム確認
漫画家さんからネームがあがってきたら、私のほうにチェックを回してください。セリフやモノローグなど、主に文字周りを確認します。
⑧下絵確認(省略可)
ネームになかった背景・小物類等の作画に違和感がないかチェックします。
⑨完成原稿確認
⑦⑧での修正反映を確認します。
連載中は⑥~⑨を繰り返します。
時々、必要に応じて④全体プロットに修正を加え、内容や話数を調整します。
作例で挙げた「異世界ランジェリーショップ」完成品の無料試し読みはこちら↓
単行本も紙書籍・電子ともに発売してますので、よかったら読んでくれよな!(宣伝)
納期・報酬について
納期
企画・全体プロット・各種設定類(前述②~⑤):1~2ヶ月
シナリオ:1週間(1話24p想定、初稿提出→編集部チェック→修正稿提出→ FIXまで)
ネームチェック等:即時~半日以内
※作品内容によっては、別途下調べや取材にお時間をいただきます。
報酬
「原稿料」+「印税」でお支払いいただくことが多いです。
担当作業範囲によって、著者全体への報酬を漫画家と原作者で按分します。
割合はケースバイケースですが、私はプロット/シナリオ原作者なので著者全体の3割程度を目安にお引き受けしています。
詳しくは実際にお仕事を始めるタイミングでご相談させてください。
漫画原作のメリット
漫画家さんの作業負担が軽減
これは一番わかりやすいメリットですね。漫画家さんの作業が約半分~2/3程度になるイメージです。
お話作りが苦手な漫画家さんにも仕事が依頼できる
絵は描けるんだけどストーリー作りが苦手、または描きたいネタが思いつかない、ネタはあるがお話の形にうまくまとめられない、といった漫画家さんのお悩みを解決できます。そう漫画原作ならね。
原作を探す手間がかからない
これは編集さんのメリットですが、膨大な出版物やネットの海から原作となる作品を探したり、原作の権利を保有している作家や会社にコミカライズの許諾をとったりする必要がありません。
原作を漫画用に再構成する必要がない
他媒体の原作をコミカライズする際は、漫画用にストーリーの再構成が必要になってきます。漫画にするには長すぎる心理描写を削ったり、画的に映えないシーンに動きを付け加えたり、次話への「引き」を作るためエピソードの順番を入れ替えたり。これら作業の手間が漫画原作ならほとんどかかりません。
連載中でも内容・話数が調整可能
オーダーメイドの漫画原作ですので、連載が始まったあとも読者の反応を見て、内容や話数の調整が可能です。原作ありきで漫画を作るのではなく、漫画ありきで原作を作れるのが漫画原作の強みです。
漫画家さんの好みを反映できる
これは私だけかもしれませんが、依頼時にすでに漫画家さんが決まっている場合、漫画家さんの好みを伺っています。漫画は漫画家さんに楽しく描いていただくのが一番だと思っていますので、描きたいものや苦手なものなど、漫画家さんのご要望をできるだけ反映した作品作りを心がけています。
漫画原作のデメリット
編集部の事務作業が増える
担当作家が原作者・漫画家の2人になるので、双方に対する連絡・スケジュール調整等が2倍になります。
原作ファンによる売上が見込めない
原作単体で発表・発売していれば原作自体にファンがついていますが、漫画原作の場合は書き下ろしですので既存のファンの売上は見込めません。
原作者が何者だかわからない
漫画原作者は最終成果物を作る仕事ではないため、普段あまり表に出てきません。そのため「作家単体としての腕(売上)はどうなのか」という点を見極めるのが非常に難しいです。
私含め原作者はもっと自らポートフォリオ等公開して情報発信すべきですね……。反省してこのnoteを書きました。
漫画家と原作者の相性
これは人間同士なので多かれ少なかれあると思いますが、よくあるのは創作をめぐって漫画家と原作者の意見が対立することです。理詰めで創作するタイプとフィーリングで創作するタイプが組んだりしたら大変ですよね。
そういった衝突を避けるため、漫画家と原作者を直接会わせないようにしている編集部もあると聞きます。
私は漫画家・原作者・編集者3者で一気に打合せしたほうが楽だと思いますけどね。そのへんのさじ加減は編集部にお任せしています。
せっかく同じ作品を作っているのですから、漫画家さんとは仲間として対等に協力し合える関係でいたいですね。
良い原作者の選び方
最後に僭越ながら…
「じゃあ良い原作者って何なの?」という点を考えてみました。
私が編集者や漫画家の立場だったら、こういう原作者を選びたいです。
ビジネスパートナーとして信頼できる
これは途中で音信不通にならず、度重なるリテイクにめげず、連載をやり遂げる力があるかどうかという観点です。
この能力を測る指標のひとつとして「商業経験あり」という経歴が求められるのかと思います。
連載の途中で原作者に逃げられたら最悪ですからね……。
締切を守り、報連相は迅速に。何はさておき、まずは信頼です。
漫画制作経験がある
原作者も漫画制作に関する知識があるに越したことはありません。後工程の「勘所」を知らないと、漫画家さんと揉める原因になりかねません。
「ネームよりあとに修正指示が来たらいやだな」とか「作画カロリーが高い服装や背景を指定されたらめんどくさいな(CG素材があればいいけど)」といったようなことです。
私は昔、同人誌ですが友人の漫画制作をよく手伝っていたので、その経験が今とても役に立っています。
チームでの制作経験がある
漫画原作は1人でやる仕事ではないので、「チームでの制作経験」があるとなお良いと思います。ゲームやアニメなど数十人~数百人単位が制作に関わっている作品を経験してみるのがおススメです。
自分の頭の中にあるストーリーや設定をいかに正確にほかのメンバーに伝えるかといった「情報共有」のノウハウが学べるからです。
「漫画向き」の作品・見せ方が何かわかっている
細やかな感情描写や叙述トリックが書きたいなら小説、ルート分岐を話に盛り込みたいならゲーム、群像劇や音楽で魅せたいなら映像、など各媒体によって向く作品・向かない作品があります。
個人的に漫画は小説と映像の中間ぐらいのイメージです。
漫画原作を書くときはいつも「漫画にしたとき映えるシーンかどうか」を意識し、単調な場面にならないよう調整しています。
「マーケットイン(売れるもの)」と「プロダクトアウト(自分が書きたいもの)」の両軸を持っている
商業作家ですからこの両軸を持つのは当然なのですが、私は漫画原作を考える際はマーケットイン(売れるもの)の比率を少し高めにしています。
連載ともなると漫画家さんは最低でも1年以上はその作品に携わりますので、原作者は売上に対して個人での発表作以上に責任を持つべきだと考えているからです。
とはいえ、マーケットイン(売れるもの)ばかり計算して書いた作品は作家の魂が入ってないものになりがちなので、塩梅が難しいんですけどね。
原作者・漫画家の双方が楽しく書けて、売上も伴う作品が作れたら最高ですね。
状況に応じて柔軟なストーリー構成ができ、簡潔なプロット・シナリオが書ける
前述しましたが、連載途中で原作の内容を調整することがたびたび起きます。そのたびに難解で大ボリュームなプロットやシナリオを原作者から提出されたら私ならいやです。簡潔でわかりやすいプロット・シナリオを書けるよう、今も試行錯誤を続けています。
ネームチェック等の返事が早い
噂では、ネームチェックに1週間以上かかる原作者もいるらしいですね(震)
漫画家さんが手空きの時間(待ち時間)を極力作らないよう努めるのが、原作者としてできる最大の気遣いかもしれません。
以上です!
長々とすみません。
漫画原作の仕事の進め方は人によって千差万別なので、この記事に記したことが必ずしも当てはまるとは限りません。
私個人の経験・見解で恐縮ではありますが、この記事を読んで「私も原作者をやってみたい!」「原作者と仕事がしてみたい!」と、どなたかひとりにでも思っていただけたら幸いです。
皆様に良いご縁がありますように。
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