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『発注いただきました!』

力見せつけられた。

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『発注いただきました!』朝井リョウ


『桐島、部活やめるってよ』でのデビューから十年。森永製菓、ディオール、JT、JRA、アサヒビール、サッポロビール、資生堂、JA共済など、様々な企業からの原稿依頼があった。原稿枚数や登場人物、物語のシチュエーションなど、小説誌ではあまり例を見ないような制約、お題が与えられるなか、著者はどのように応えてきたのか!?
「キャラメルが登場する小説」「人生の相棒をテーマにする短編」「ウイスキーにまつわる小説」「20を題材にした小説」など、短編小説十四本、エッセイ六本。
普段は明かされることのない原稿依頼内容と、書き終えての自作解説も収録された一冊。十周年に合わせて依頼された新作小説も収録。(Amazonより)



『正欲』みたいな作品も『チア男子』のような作品もどっちも好きだし、エッセイなんか腹抱えて声出しながら読むぐらい好きだけど、今作はその中間をサクサク読める感覚だった。

短い物語で、事前に意図や趣旨やキーワードを提示するからこそ、メッセージや与える読後感のようなものが明確で、そして必ずグッとニヤッとするポイントもあって、著者の力のようなものを見せつけられた感じだった。長さ関係なく引っかかる文章がいくつもあった。

「社会が失っているものを、俺たちも一緒に失ってちゃ、意味がないんだ」

”その中でどうにかして生き延びるために手を伸ばしたものが、教室内にいる自由にいたぶることができる格下の存在ではなくて、映画の中で繰り広げられていたしりとりだった穴とのことを、私はバカだなんて思わない。”

”現在の自分を愛することはもちろん大切だ。だけど、現在の自分よりももっと愛することができる人やものに出会い、それらに今手にしている自由や選択肢を差し出すその瞬間が、私はとても楽しみだ。”


そして、それだけで終わらず、自虐の茶々を入れて腐らすあたりも信頼度が上がってしまう要素だった。読んでて楽しい。

更には、最後にはしっかり苦さを多分に含んだ、その時点での進行形である作者の世界観も堪能できる物語もあって大満足。短編だからこそ切られた傷を認識する前に読み終えてしまった感じ。

なんとなく読むの敬遠してたけど、作者の色んな角度の魅力を楽しめる作品だった。

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