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蓋をしてきた心の箱に、大事なものを

わたしは小さな頃から、いつも何かを待っていた。

忙しくて帰りが遅い両親を弟と待っていた。
看護師の母には本当は夜勤をしないでほしかった。泣きながら目覚めることのない夜を待っていた。
ねこが大好きだったのに当時の家は飼えなかったから、ねこが飼える家に住める日を待っていた。

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そんなちょっとしたことが積み重なってきっと寂しかったのに、涼しい顔をしてやり過ごす子ども時代だった。それは20歳をすぎると「こじらせ」としてわたしをすごく悩ませることになる。

ネックレスやひもなどが絡んでしまってなめらかな一本のひもにならず困ることがあると、わたしはそれをほどくのが好きだった。少しずつ少しずつ、固い塊をふわっとほぐしながらあちこち引っ張っていくとだんだん絡まっていたひもはほどけていく。

だけど自分の心をほぐすことはどうしてもできなかった。

今の精神科に通い始めて、カウンセリングも併設している病院だったので軽い気持ちで希望すると、最初は2週に1度だったカウンセリングが、毎週来てくださいと言われるようになる。カウンセラーさんは理由を話さない。主治医に聞くと「あなたには服薬もカウンセリングも必須です」と言われた。何年かかるかまだはっきり言えない、とも。

それから軽く3年弱はかかっただろうか。

・・・

服薬は「蓋を閉める作業」、カウンセリングは「蓋を開ける作業」といわれる。人や状態によっては、服薬のみで蓋をし続けたほうがいいそうだ。

子ども時代から「大人」として長く振る舞って来たわたしは、自分で固く蓋をした上に太いチェーンをぐるぐる巻きにして、南京錠までかけていたのだと思う。そんな心の箱の蓋を開けるのは容易ではなかった。

勇気を出して開けたら開けたで、気づき始めた自分の思いはびっくりするくらいドロドロしていた。本当はこうして欲しかったという思い。いつも心の反応が鈍く、怒りという感情があまり持てなかったけれど、怒りを覚えるようにもなった。

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わたしのカウンセリングはそうやって心の箱のドロドロをかき出す手法だったから、癒されるどころか気持ちが荒れ続けた。通院日の月曜日が待ち遠しく、祝日や先生の都合で間が空いてしまうと狂ってしまいそうだった。

・・・

何よりわたしは、今となってはもう30代のいい大人だ。カウンセリングルームで心のドロドロを吐き出してどんなに泣いても、部屋を出たら日常に戻らなければいけない。

カウンセリングのあとはだいたい荒れていて、おいしいものを食べて気分をごまかしたりしてみるくらいしかできることがなく、本当につらい作業の積み重ねだった。これからもまだまだ続くだろう。

部屋を出たら涙をふいて、病院の事務さんとにこやかに次の予約をし、また大人に戻っていく。

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日常生活に支障が出るのを恐れて、カウンセリングの場で蓋を開けることができないという状態に戻ったりもした。

そんな変化を、ある日話した。

「心の箱を開けたり閉めたりしているうちに、たてつけが悪くなったのかもしれない」
「子ども時代の埋め合わせをするというのなら、この部屋にずっといて、ずっと子どもでいたいです」

すると、カウンセラーさんが珍しく提案をしてきた。

基本的にはわたしが話したことに対して「それはこういう気持ちなんじゃないですか?」といったように確認したり、質問をするくらいだ。提案されることなんてほとんどなかった。

「部屋を出る前に、箱の中身をこの部屋に置いて行ってみるのはどうですか?そして次にまた取りに来るのはどうでしょう」

そうしたら急に安心して、しっくり来た。今まで何度「頼っていいんですよ、甘えていいんですよ」と言われてもできなかったわたしにでも、「箱の中身を置いて出る」ということならできそうな気がした。

「じゃあ、わたしは箱の中に、子どもの頃大事にしていたおもちゃを入れたいです」
「何を入れましょうか?」
「小さな頃、ずっと持ち歩いていたねこのぬいぐるみと、あと、大好きな絵本があったんです。それを入れてみたいなと思って」

大事にしていたおもちゃを入れることをイメージしたら、急にまた泣けて来て涙を指でぬぐいながら話した。

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少しずつ自分の子どもの姿をイメージできるようにはなってきたけれど、このときはじめて、子どものときのわたしに会えた気がした。こんな日に限ってハンカチを忘れたので、顔は涙でべたべたになったけれど、少しこれからの治療もなんとかなるような気がして、きらきらした黄色い光みたいな絵が描きたいと思った。

・・・

わたしは「子ども時代を子どもとして生きてこなかった」ということがわかったので、「子ども時代をやり直す」というよりは「はじめて子どもとして生きる」ということが必要みたいだ。

今までずっとそれがしっくり来なくて「だってわたしはもういい大人だし」と抵抗を続けていたけれど、子どもの頃に大事にしていたおもちゃで先生と遊んでみようと思う。

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やっとたぶん、子どものわたしとつながることができそうだ。

わたしの心の箱の中には、汚いドロドロしたものだけじゃなくて、ちゃんと大事なものも入っていた。やっとドロドロが少しずつ掻き出せてきて、大事にしていたものが見えるようになってきたのかもしれない。

小さな頃からねこが大好きで、ねこのぬいぐるみを抱えていた。あのぬいぐるみと久しぶりに会いたいな。今うちで飼っているねこを見せたら喜ぶかな。そんなことを考えるだけで、なぜかまた泣けてくる。


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先日、カウンセリングの後に描いた4コママンガをふくらませました〜

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