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道の真ん中で泣いていた子に声を掛けた話

その日はたまたま午後からの出勤予定。だから自分の用事を済ませておこうと天王寺に出掛けたその日の午前中のこと。

少し早めに出て地下街を歩いていると、道の真ん中でウチの娘よりちょっと小さいくらいの女の子が大泣きしていた。

道行く人は皆避けて通り過ぎて行く。自分も一度は通り過ぎたのだけれど、声を掛ける人もいなさそうで、女の子も泣き止みそうにもないので、戻って声を掛けた。

「お嬢ちゃん、どうしたん?」
『あのな、、ママがな、、(泣)』

泣きじゃくりながらも、塾に来たが閉まっていたこと、お母さんとはぐれてしまったことなどを話してくれた。

このご時世、警戒されるかも、と思ったが、それ以上に心細かったんだろう。

「お母さんはここに戻って来るの?おうちには誰かいるの?」
『ママは堺に行ってて、パパは仕事。』

堺か〜〜〜。それだと天王寺で迷子のお知らせして貰っても意味が無いだろうか。

「ママかお家のお電話番号書いたものとか持ってないかな?」
『ない』
「スマホとかも持ってないやんねぇ」
『ないー。』

塾のカバンに入ってないのかな、とよぎる頭で見ず知らずの子のカバンを往来で広げる自分の姿を想像してみる。
・・・いやいや、それは不審者ムーブが過ぎる。

「塾って何時からやったの?」
『10時から』
「まだ始まる前なんやね。塾の場所まで戻ってみようか?」
『でもさっき真っ暗で、閉まってるて書いてあって・・』

塾の方へ向かって一緒に歩きながらもう少し聞いてみると、朝、お母さんに送ってもらって、自分は塾に、お母さんは堺で用事があるので、塾のあるビルの前で別れたと。

そこから自分一人で塾のある階までエレベーターで上がったけれど閉まっていたので、慌ててお母さんを追いかけたけどはぐれてしまい、パニックになってしまったのだそうだ。

ウチの子は自分がパニックになった状況をここまでちゃんと説明出来るだろうか、などど思ったりしながら、塾のあるフロアに着いた。

開始時間前になれば誰か関係者が来ているかもと期待して戻って来たが、塾の前まで行くと、なるほど【本日臨時休業】の貼り紙がしてあり、その気配もなさげである。

「お母さんは何時に迎えに来るの?」
『2時』

まだ4時間以上ある。そこまではさすがに一緒には居られないしなぁ。
駅長室も考えたが、ここから随分離れているから親御さんと合流する時に困るかも知れない。どうしようか?

見渡すと、同じフロアにあるエステサロンが閉まってはいるものの、奥に明かりが灯っていて、開店準備をしているような感じがする。

女の子もさっき一人でガラス戸越しにしばらく覗いてみたけど、誰も出て来ないので却って怖くなっちゃったらしい。
それは怖いよねぇ。

こういう時はオジサンの図々しさが役に立つ、とばかりに、何回か無遠慮にノックしてみた。

するとスタッフの方が数名、奥から顔を覗かせた。手招きして来てもらい、ここまでの経緯と赤の他人の自分が何時までも一緒にいる訳には行かない事情を説明すると、塾の方とも連絡取れるかも知れないとサロンの待合室で預かって貰えることになった。

「ここで待たせてもらえるって。もう怖くない?」
『うんっ』

今のご時世、見ず知らずの子供さんに声を掛けるのはかなり気を遣う。
後に予定があり、面倒ごとに関わりたくないということもあるし、写真や動画に撮られて変に切り取られて、というリスクもある。
それでも今回は声を掛けられて良かった。

エステのスタッフさんに泣き濡れた顔を拭いてもらっていたし、もう大丈夫かな。

お母さんと無事合流出来たらいいね、と別れた。

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