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ベイスターズにはマーケティングの基本が詰まっている

最近、本格的にマーケティング系のインプットを増やしているのですが、
様々なマーケティング事例を見ていく中で、
横浜DeNAベイスターズのマーケティング戦略が、
マーケティングとしてやるべきことを確実に、かつ、ハイクオリティでやっており、非常に学びになったので、#マーケティングトレース としてまとめさせていただきます。
※ベイスターズのマーケティング事例は各メディアにも露出しているので、ご存知の方も多いかと思います。

観客動員数が大きく伸びているベイスターズ

まず、観客動員に関するデータを見てみましょう。

上記は、
①2005年と2018年のセ・リーグ球団別の観客動員数を比較した表
②セ・リーグの観客動員数推移グラフ
です。
こうして比較すると、各球団によって明暗が分かれていますね。
それぞれ、様々な企業努力をされているかと思いますが、特に横浜と広島の成長率がともに200%超えとハンパないですね。
広島は2009年より現在のホーム球場である”MAZDA Zoom-Zoom スタジアム 広島”が新設された影響(+50万人/年)や、セリーグ3連覇などチームが好調である影響もあり、かなり伸びています。
一方で横浜は、球場のキャパは大きく変化はしていない、かつ、じつは毎年の順位がほぼBクラスだった(2005〜2018のうちAクラス3回、Bクラス11回)にも関わらず、マーケティングによって観客動員数を大きく成長させています。
これは親会社が2012年からDeNAになったことにより、戦略的なマーケティング・ブランディングを行えるようになったからなのですが、今回はこのポイントについて詳しく見ていきます。

ベイスターズの集客におけるSTP

まずはベイスターズがどのようなSTPで集客を行なっているか、確認します。

セグメンテーション:横浜スタジアムから電車で1時間程度の範囲でしょうか。
ターゲティング:アクティブサラリーマン(熱狂的な野球ファンではなく、仕事帰りや休日の娯楽として野球場に足を運ぶ30代男性サラリーマン)

ポジショニング:勝敗だけではなくエンターテイメントとして楽しめる球場体験(→提供価値の拡張)

ポイントは下記です。

【1】提供価値を、「野球の観戦」から「エンターテイメント」に拡張している。

通常の「野球観戦」だけを価値にしていると、「野球が好きな人」「横浜DeNAベイスターズが好きな人」というセグメントに限定されてしまいます。
しかし、「エンターテイメント」を提供するとポジショニングすることで、対象セグメントが広がるのです。
これは、観客動員数が厳しい中で、下記3点の理由があったと推測します。
1.横浜スタジアムが交通の便が良い好立地である(関内駅や日本大通り駅徒歩圏内)
2.すでにファン化しているヘビー層の来場回数を増やすよりも、ライト層を新規で取り込む方がインパクトが大きい
3.ヘビー層はチームの勝ち負けによって来場回数が変化するので、ターゲットにするとマーケティング的にアンコントローラブル(チームの強さは不確実性が大きい)

【2】ターゲティングをアクティブサラリーマン(熱狂的な野球ファンではなく、仕事帰りや休日の娯楽として野球場に足を運ぶ30代男性サラリーマン)と設定

ライト層の中でも、さらにターゲティングを上記のように定めているのもポイントです。
親会社がDeNAになった当時、マーケティングデータが何も蓄積されていなかったのは有名な話ですが、2013年(2年目)でのリサーチにおいて、前年比で30代男性のチケット購入回数が増加している点に着目し、上記のターゲットにいきついたようです。
さらに、下記のようにペルソナを詳細に定めました。

引用:MARKETER'S COMPASSより

このようにペルソナを詳細に設定することで、
『各部署間で共通イメージを持って施策立案/実行に取り組める』
というのがメリットかなと思います。
これだけ設定が詳細だと、「この人が喜んでくれる企画は何だろう?」という視点に立ちやすいですし、部署間の認識ずれもなくなりますよね。

アクティブサラリーマンのインサイトは?

では次に、コアターゲットである『アクティブサラリーマン』のインサイトを見てみましょう。

インサイト
・余暇時間をアクティブに楽しみたい
・自らも情報発信したい
・楽しいことは友達や同僚と共有したい

このようなインサイトがあるため、野球観戦は居酒屋談義の延長線上として使ってくれる傾向があるようです。
また、積極的に職場の同僚や身近な女性なども球場に誘ってくれますし、休日は子どもと野球観戦を楽しむこともあります。
つまり、彼らのインサイトを満たすことが、集客においてキーになっているのです。

横浜スタジアムに来てもらう上での競合は?

アクティブサラリーマンに来場してもらうにあたり、競合はどこになるのでしょうか。

横浜中華街
・街の居酒屋
・カラオケ、ボーリングなどの遊戯施設
・(休日であれば)みなとみらいや桜木町の家族連れスポット

このあたりが競合でしょうか。というか立地的に競合だらけですね。

横浜スタジアムではどんな体験ができる?

ではどのような価値を提供して、競合ではなく横浜スタジアムに来てもらっているのか、見ていきたいと思います。
STPの分析のところでも記載しまいしたが、横浜スタジアムにくると体験できるのは、野球の観戦だけではなく『仲間や家族と過ごすエンターテイメント空間』です。

【0】球場到着までの演出
関内駅/日本大通り駅にベイスターズの装飾(いたるところにベイスターズの写真で雰囲気の演出)
【1】球場の周り
・diana(チア)やマスコットのステージイベント
・ビアガーデンや飲食ブース(グルメフェスなどのイベントもある)
・子供向けのイベントやブース
【2】球場内
・仲間や家族で過ごせる仕様の座席(バーカウンターを作ってビアサーバーを設置した席/テラス席/BOX席など)
・オリジナルビール/オリジナルフード
【3】イベント
・3連戦ごとに特別なイベント(限定レプリカユニフォームが配布され、試合後に特典映像が流れるetc)の実施
・試合のイニング間でのイベント(大型ビジョンでスタンドのお客さんを映して撮影し、試合後にプレゼント/バズーカでプレゼントが客席に打ち込まれるetc)
・試合後のイベント(夢のプロテスト体験/試合後に芝生に寝っ転がって映画鑑賞できるetc)
・ビール半額などのスポットイベント
【4】演出
・オープニングの選手登場のかっこいい演出
・ホームラン時の花火
・ヒーローインタビュー時の光による演出 etc

ポイントになるのは、
・駅に着いたその時から、特別な空間を演出している
・試合前からイニング間、試合後まで様々なイベントが体験できる(観戦以外の価値)
・家族連れや仲間同士での観戦など、ニーズに合わせた観戦方法の提供
・オリジナルドリンク&フードの開発
です。
これにより、横浜スタジアムに行く理由、行ける理由を作っている

という形です。
また、アクティブサラリーマン本人だけではなく、家族や同僚などの間接ターゲットが満足する企画を入れることで、より来場しやすい状況を作り出してるのも素晴らしいポイントですね。

マーケティング戦略を4Pで整理

次にベイスターズのマーケティング戦略を4Pで整理しましょう。

ちょっとpriceのところがざっくり計算になってますが、おそらく、競合比で割高なところをproductの高付加価値で補っている形になります。
また、先に挙げたような話題性のある企画を次々と打ち出すことで、それ自体が広告的な役割も果たしてくれています。
地域密着型のプロモーション展開も非常に上手い印象で、駅構内の広告だけでなく、神奈川県内の子供達にキャップを配ったり横浜市内の乳児向けに赤ちゃん絵本を配ったり横浜ビブレに巨大壁面広告を出したりと、様々なチャレンジを行なっています。

ブランディングでも参考になる点が多数

一連のマーケティング活動に加えて、ブランディング観点でも参考になるポイントが多数あります。

【当初の課題】
・横浜はおしゃれで先進的な街というイメージの一方、ベイスターズは弱くてダサいという印象がついてしまっている。
・よって、"横浜といえばベイスターズ"という好印象からは遠いところにいた。
【解決策】
①ユニフォームデザインや演出の変更

・ユニフォームのカラーを海のイメージに寄せより鮮やかな青に変更
・スタッフにも港をイメージした洋服を着てもらう
・ベイスターズの選手がホームランを打ったら船の汽笛を鳴らすという演出に変更 etc

②共同体感覚の醸成
『I☆YOKOHAMA(アイラブヨコハマ)』というキャッチフレーズでファンと一緒に”横浜”という街を好きになろうという姿勢を示した。
・球場でファンに「I☆YOKOHAMA」のロゴが印刷されたステッカーを配る
・試合に勝ったらヒーローインタビューで選手に「アイラブ横浜!」と叫んでもらう etc

③ライフスタイルショップの開設
日常に野球を+(プラス)する」をコンセプトに、ライフスタイルショップ「+B(プラス・ビー)」をオープン。
さまざまなアパレルブランドとの協業でデザイン性の高いハイセンスなグッズを開発し、販売。

このようなアプローチで、横浜DeNAベイスターズのブランドイメージを改善していっています。

ストーリーマーケティングでファンのエンゲージメントを向上

スポーツマーケティングにおいて、選手やチームのドラマ、ストーリーをファンと共有し、一体となって戦っていくのはエンゲージメント向上において重要なポイントです。
ベイスターズはこれがとても上手です。
例えばこんな動画を毎シーズン開幕に合わせて作っています。

キーマンとなる選手や監督、コーチのインタビューを軸に作られてますが、ポイントとなるのは、『過去の苦悩→未来への抱負』というストーリーが共感を呼ぶという点です。
これにより、ヘビー層でもライト層であっても、エンゲージメントが高まるのです。
他にも、三浦大輔選手が引退する時にはこのような動画を作っていました。

こういうストーリー性のあるプロモーション動画ですが、他の球団はあまりやっていないはずです。
このような共感・一体感を生むストーリーマーケティングも来場者数が急激に増えているベイスターズにとって有効な打ち手でしょうし、他の球団も積極的に導入すべき手法かなと思います。

実務で参考にしたいポイントまとめ

今回の事例から、実務に参考にしたいポイントは下記です。
基本的なマーケティングやブランディング施策だと思うのですが、意外と徹底しているサービス/企業って多くないのかな、という印象です(感覚ですが)。
だからこそ、こういった基本を押さえておきたいですね。

・ファクトに基づいたセグメンテーションとターゲティング
・ターゲットのペルソナ設定と社内の共通認識
・3C/ユーザーインサイトに基づいた勝てるポジショニング
・直接ターゲットを獲得するための間接ターゲットへの施策
・ターゲットユーザーの生活圏に根ざしたプロモーション/ブランディング
・ユーザーエンゲージメントを高めるストーリーマーケティング

プロ野球のマーケティングはこれからどんどん加速していくはずです。
また機会があれば別のチームや別の切り口で事例を分析してみたいと思います。

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