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世界一幸せなパピー


パピーをさなえさんとエリックさんのところから引き取るのは2回目だ。

4月に14歳で天命を全うしたゴールデンレトリバーのキキ。
そして、この10月にうちに7週間でやってきた うみバナナ。

そもそも、さなえさんたちご夫妻に出会ったのは15〜6年前だった。


【さなえさんたちのこと】
さなえさんとエリックさんは、20年も前からアメリカでマクロビ広めていた。ご縁あって、私は彼らの写真担当でお家に出入りさせてもらった。

はじめて出会った時のさなえさんはキモが座っていて人をじっと見て、「で、何が聞きたいですか?」と笑いもせず前置きもなく、イキナリ直球だった。
一緒に会いに行ったサトミちゃんが「さすがえらい先生!こわい〜〜」と私に怯えた瞳を見せていたのが今となっては笑い話。

さなえさんは自分でマクロビの本を出版し、何度かの病気を克服し、犬の妊娠を自分でとりあげ、その犬をヴィーガンで育て、ヴィーガン犬のホリスティックなレシピと育て方の本を書いた、実に精力的な人。

最初の本は自費出版だったが、さなえさんはあらゆるところへメールを書き、電話をし、中国に印刷会社へ直接掛け合い、印刷した。そしてそれらを手売りのみならず、お友達のレストランやカフェ、そして本屋にも並んだように思う。
「自分で交渉をすればいいのよ」
とその勇気と努力みたいなものをサラっと述べる「したいことは自分で実行する人」だった。
 
当時私はそれはさなえさんが英語できるから、と思っていたが全然違った。英語とは関係なく、彼女は「交渉する」ことに対して壁がなかった。出すという結果から始め、そのためにはどうすべきかを実行する人であり、そのための交渉は全く壁にはならなかった人なんだなと今ならわかる。

さなえさんの夫のエリックさんはマドンナいきつけのMカフェのペストリーシェフだったし、スティングのプライベートシェフもしていたといえば、ロサンゼルスのみならず、日本でもハイ・プロフィールとなった。
彼らが日本旅行をする時には、マクロビのセミナーも一緒にして、一緒に本を売った。そして当時マクロビオティックのティーチャーオブティーチャーをやっていた人はそんなに多くなかったと思うので、マクロビ繋がりの日本の人たちが協力をし、さなえさんの本はじわじわと確実に売れた。

そのうちエリックさんがヴェニスのアボットキニーでヴィーガン・マクロビレストランを開き大人気になり、そこでも本は売れ続けた。

さなえさんのライフスタイルは、マクロビと自分の病気克服、そして犬だった。

さなえさんたちの家には絶えず犬が5〜6頭いた。

そして、犬が妊娠したら産ませ、一頭は自分のところでキープし、数頭は盲導犬や障害者のためのサービスドッグとして寄付し、あとを欲しい人に譲るという形だった。

・・・

【15年前に譲り受けたキキが死ぬ前の日に】
キキがもう、あと1日くらいしか持たないという日、さなえさんに久しぶりに電話をした。今日明日が山場だと思うけど、こんなに素敵な子を私たちのところに委ねてくださってありがとうございました、とお礼を言った。
私たちの14年はキキと一緒の14年で、本当に家族だったし、キキがいなくなったあと、犬の吐息が消えた部屋は、しんと静まり返り、火が消えたようだった。
 
キキが死んだ後も電話をいただき、そうやってお知らせしてくれる人はそんなにいないのよ、と、彼女は言った。
私はキキがウチへきたことは本当にギフトでしかないと思っているのと、母犬からとりあげて、最初の2ヶ月、自分の子供のように面倒をみてくれた人に連絡するのは必然だと感じていただけだ。
まだ心は癒えないけれど、そのうちまたさなえさんのところのワンちゃんが妊娠したら教えてくださいね、と電話を切った。

 ・・・

2ヶ月、経ったか経たないかの時に電話がかかってきた。
 
「まだ妊娠させるつもりなかったんだけどね、ナルちゃんがサカリの時に、オムツをつけ忘れてちょっと出かけちゃったそのスキに出来ちゃったの〜。8月末に生まれるみたい。まさよちゃん、妊娠したら教えて、って言ってたけどちょっと早すぎるわよね? どうする?」

とりあえず、生まれたら、見てから決めたい、と言って電話を切った。
 

・・・
 

8月末に6匹のパピーが生まれた。
免疫の関係で、はじめて見られたのは9月半ばだった。
部屋の中に手作りの木製の直径2mくらいの厩が作ってあり、その中に母犬とパピーとさなえさんが入ってのお世話。その中でさなえさんはしばらくは一緒に寝たらしい。

窒息しないように、絶えず目を配り、皆が均等に母親のミルクを飲むように順番を変えたりするのだそうだ。
 
 ・・・
 
パピーを実際に見ちゃったら最後。そりゃ引き取るよね。
 
新しい命は「今この瞬間」でしかなかった。なんだろうなあ、あの全体の雰囲気が母の子宮という宇宙に包まれちゃう感。目が開いた瞬間とか、感動的で、一瞬が永遠に思えた。

始めて見に行ったとき、夫の兄ペアと一緒に行った。
夫の兄はサンタモニカに住んでいて、起業家である彼は息子が犬アレルギーなこともあり犬と一緒に暮らすなどということはありえなかったが、息子たちも別々に住むようになり、なぜか今回の話に興味を抱いた。それは、去年私たちが家ににない間に、今は亡きキキを兄に頼み込んで1週間見てもらったことに機縁する。離婚後一人でいることも多い兄は、その時、キキの吐息をそばに感じ、動物っていいもんだなあ、と思ったらしい。
そこへ現在のパートナーが「ゴールデンドゥードゥルなら人間へのアレルギーも出ないし最高」と絶賛した。

それをさなえさんに話すと、「兄弟で飼ってくれて、ときどきパピーたちが一緒に遊べるんだったら最高に素敵」と、他の欲しい人たちより優先してくれた。
 
「トムのお兄さん、65歳でしょう?この年齢からパピーを育て始めて15年ほど自分が責任を持てるのか心配している、とメールをいただいたのよ。すごく慎重。私は”だからこそ、パピーがあなたと帆走してくれますよ”と答えたのだけど、真剣に受け取ってくれる人だなあ、って心から感じたわ。だからこそ私は託そうと思ったのよ。私は本当に真剣にパピーをとりあげ、2ヶ月、他のことは全てやらずにパピーのために捧げて、一匹づつのお腹をさすりながら母犬と一緒に育てたんだもの」

・・・

10月の半ばに完全に引き取るとき、さなえさんがしてくれたマクロビ離乳食の作り方の伝授会もしてもらった。
「全部私たちが食べられるモノばかり。私たちが食べられないようなものを家族である犬にあげられない。この乾燥ケブル(ヴィーガンドッグフードのカリカリ)も、味みてごらんなさい?」と食べてみせた。

人間と同じもので犬の毒にならないもの、それをあげる。
犬に必要なもの、それをあげる。
「自分たちの食事が健康的になるわよ。とにかく、慣れたらむしろ楽。自分たちが食べられるものを犬にあげるんだから」
 
「でもね、みんなの自由だからヴィーガンで育てなくていいわよ。ここにいた時の離乳食まではヴィーガンだから、肉や魚をあげるときは良質なオーガニックなものを少しづつ、徐々にあげていってね」

当面のオヤツに、と、手作りのディハイドレートしたフルーツとか、さつまいもチップスとか、食べられるサイズに切った海苔とか、パピーのお風呂に安全なものを、と手作りの石鹸をいただく。
そのときは、よくやるなあ程度の感動でしかなかったのだけど。。。

 
・・・


家へ「うみ・バナナ」と名付けたその娘が来てから、食事、そしてオヤツを作り始めた。

ぜんぜんうまくいかなくて、なんどもなんどもトライして、ようやくできたがそれは恐ろしいほどに時間がかかった。

うわあ、さなえさんはこんなに手がかかることを、あの忙しいパピーを育てている中でやってくれたんだ。6匹いるパピーを、一匹づつだっこして、おなかをなで、犬レイキをし、マクロビ離乳食を作り置きせずに与え、こんな手のかかるオヤツを作ってもらい、愛以外の何ものでもない。

こんなふうに育ててもらったパピーたちは世界一幸せなパピーだ。
涙が出た。

・・・


そのあとも犬の注射が1ヶ月おきくらいに3〜4回あるが、その度にさなえさんの家に子犬が集まって、ホリスティックな獣医さんが来てくれる。
私たちは犬を介した親戚みたいだ。

・・・

さなえさんとエリックさんを15年前から知っている私は、さなえさんの同じ髪型が白黒混じっているのに気づいたし、兄も兄のパートナーも、トムも私も白黒混じっていることに気づいた。皆、顔は同じだけど、皮膚の上のシワだとか、髪の毛だとか、年月を重ねている軌跡が見える。
うん、明らかに時は流れている。
それはちょっぴり切なくて、とても暖かくて、いい心地だった。

帰り際に「マサヨは料理いっぱいするし、色々試して作るよね?じゃあ、ハイドレーター持って行きなさい。うちには2台あるから」と、以前レストランをしていたエリックさんが業務用のハイドレーターをくれた。


帰り際にさなえさんとエリックさんが、自分たちに一匹残したパピー「ラニちゃん」を抱っこしながら手を振ってくれる、そのツーショットを見て、写真をとる人間として、その二人がとても絵的に美しく、涙が出そうだった。

その絵的に美しいというのは、エリックさんの垂れてきた目尻とか、さなえさんの変わらないバイタリティの上の白髪とか、二人をつつむ空気がまろやかに、まろやかになっている、ということ。そこに差し込む光がスポットライトのように彼らを浮き彫りにし、二人の歩んで来た人生が物語りのように感じたからだ。人生の暖かさ、重さ、喜び、愛、そんなものが溢れ出したツーショットだった。
エネルギーが全てを物語っていた。そこにどんな小道具があろうとも、どんな衣装を着ていようとも関係ない、圧倒的に暖かなエネルギーフィールドがあった。
ああ、人間って素晴らしいな、
人生って素晴らしいな、
と思った瞬間。

カメラは持っていなかったが、脳内ビジュアルとして焼きついた。

こういう人たちに取り上げてもらって、育ててもらったパピー。

うん、世界一幸せなパピー。

うみ・バナナ
今度は私たちと一緒に育っていこう!


さなえさんの書いた本 amazon (英語本です)
・HAPPY HEALTHY POOCH ホリスティックに犬を育てる本
・Love, Eric & Sanae Vegan Macrobiotic Cuisine
・Love, Sanae: Healing Vegan Macrobiotic Cooking, my health journey

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