ピッチャー必見、コントロールのカギは○○だった。コントロールを脳科学から考察してみた。 Part1


ピッチャーというポジションにおいて、コントロールとはそのピッチャーの価値を表す能力のひとつです。
例えば、某人気野球ゲームでもピッチャーの能力にはおおまかに分けて、球速、スタミナ、変化球、そしてコントロールがあります。
今回はそのコントロールを脳科学の研究の結果から考察してみました。
もしかすると、これを読んでいるあなたがコントロールをつけようとして行っている練習は無意味か、あるいは逆効果だったりするかもしれません。

◆ コントロールとは

まずはこの“コントロール”という言葉の定義から整理してみましょう。
コントロールと聞いて最初に思い浮かぶのは、キャッチャーのミットに吸い込まれるようにストライクゾーンの四角をつくボールを投げられるような能力かなと思います。
もっと言えば、相手の足元にスライダーを投げたり、真ん中高めにフォーシームを投げたり、とにかく狙ったポイントにボールを投げる能力のことを指すでしょう。
うろ覚えではありますが、黒田博樹氏の「クオリティピッチング」では、“フォアボールを出さなければ、狙ったところに投げられなくてもコントロールがいいと思われる”といった内容のことが書かれていたような気がします。

いったん話が逸れますが、最近こんな論文が発表されていました。

内容は、ピッチングの動作(着地動作時の体幹の角度、肩の外転角度、水平外転角度、最大外旋時の肩の外旋角度、水平屈曲角度)が一定であるほど、投球のロケーションがよくなる。つまりコントロールがよくなるといったものです。
同じように体を動かせば、同じところにボールを投げられる。まあ普通に考えれば当たり前の結果ですよね。

しかしここから考えられることは、狙ったところにボールを投げられる能力というのは、狙った通りに体を動かすことができる能力と言い換えることができるということです。
ここまで内容をかみ砕いても、まだ多くの人は当たり前だと思うでしょう。

しかし、どれだけの人が、コントロールをよくするために、自分の体を自在に操るための練習をしているでしょうか。
キャッチボールで相手の胸を狙って投げる。ブルペンでキャッチャーのミットを狙って投げる。果たしてそれだけでいいのでしょうか?

今回はその、体を思い通りに動かすことについて、脳科学の観点から調べてみました。

◆ 逆モデル(inverse model)

(少しむずかしい話をするので、読むのが面倒くさい人はすっ飛ばしていただいて構いません。)
まず、わたしたち人間が目的の動作をするとき、例えばボールを投げるときのことを考えてみましょう。
脳の中では、ボールを落とさないように握ったまま腕を上げて、上半身をひねってボールをを前に押し出して、タイミングを見計らってボールを手から離す。かなり簡略化しましたが、それでもかなり複雑な指令が出されているわけです。
しかし、いちいちボールを投げるたびにそんなに複雑なことをしていたら疲れてしまうので、ボールを投げるためには“この動き”と“この動き”と“この動き”を使う、といったかんじでセットを作ってしまうのです。これを”逆モデル”といいます。
わかりにくいと思うので料理に例えてみましょう(こっちの方がわかりにくいかもしれませんが)。
カレーライスをつくるときのことを考えます。
にんじん、じゃがいも、たまねぎ、肉、ルー、米などをそろえて、切ったり煮込んだり炊いたりします。
はじめて作るときは下ごしらえなどもあって大変ですが、大量に作っておいて冷凍しておけば、次にカレーを食べたくなった時にはそれを温めれば完成です。
この冷凍のカレーが“逆モデル”です。
もし、ボールを投げて狙ったところよりも高くいってしまったら、脳内では次は少し低くしようと逆モデルを修正します。
カレーで言うと、食べてみたら思ったよりも味が薄かったので、冷凍のカレーを温めなおして少し味を調整するといったかんじです。
これを繰り返して、狙った通りのところにボールを投げられるように、最高のカレーを食べられるようになっていくのです。


◆ 順モデル(forward model)

逆モデルがあれば、”順モデル”もあります。
ボールを投げるたびに、キャッチャーに到達してから今のはよかった、よくなかったと評価していては、すこし効率が悪い気がします。できることなら投げている途中で、今回は腕が思ったよりも速く振れている。だからリリースするのを少し早くしておこう。といったかんじで気づきたいものです。
ここで役に立つのが“順モデル”です。
先に書いた例の通りですが、ボールを投げる動作の途中で、この動きをするとこのままだとどうなるであろう、といった予想を立てながら指令を出して、あらかじめ微調整しながら動作を完了するのです。
カレーの例で言えば、何度もカレーを作っている人は味見をしながら最終的な味を予想して、じゃがいもが大きすぎて火が通りにくそうだから小さくしよう、今日は大人数だから具材を増やして水とルーも多く入れよう、といったかんじであらかじめ調整できるはずです。
その最終的な味の”予想”順モデルです。これのいいところは、まだ完成していないのに予想をもとに調整ができるというところで、逆モデルよりも効率がいいところです。

◆ モデルをしっかり組み立てる

この便利な逆モデル順モデルですが、これらが存在するだけでは意味がありません。
次に同じ動作をするときには調整をしなければいけないのです。
この調整をするために必要なことは、“結果”です。
良い結果にせよ悪い結果にせよ、結果をもとにして今のままでいいのか、修正が必要なのかを脳が判断するのです。
その工程を何度も何度も繰り返すことで理想のモデルが組み立てられて、脳がそのモデルに沿った指令を出すことで理想の動作が生み出されるのです。
カレーであれば、しっかりと味を確認しなければ味の調整なんてできないのです。

◆ ピッチングに置き換えてみる

ここからやっと本題に入っていきましょう。
ここまで難しい話(自分でも完全に理解できたわけではない。。。)をしてきましたが、この考えをピッチングに置き換えてみましょう。
ここまで読んでも、自分がキャッチボールを丁寧にやって、ブルペンで丁寧に投げていればコントロールがよくなると思えるでしょうか?
たしかに場合によっては効果はあるでしょう。
しかし、さきほど述べた重要な要素、“結果”は意外とおろそかにされている気がします。

◆ 結果を明確に①

何が言いたいのかというと、ピッチャーが投げたボールの到達点を“明確に”示さなければいけないのです。つまり、ピッチャーのコントロールをつける練習のためには、キャッチャーは捕球した場所でミットを止める必要があるのです。
特に最近はキャッチャーの能力の1つとして“フレーミング”が取り上げられていることもあって、ピッチャーが投げたボールの本当の行先がわかりにくくなっています。
フレーミングの結果として毎回必ずストライクになるのであれば、そこに投げる能力があればいいと思えそうなのですが、ピッチャーのモデルが少し歪められてしまいそうな気もして、少し疑問が残ります。
ストライクゾーンの内から外に向かうキャッチングは当然ピッチャーにとって悪いものとして、上手すぎるフレーミングもピッチャーのモデルを甘く作ってしまうことに繋がりかねないのです。これでは、キャッチャーが代わるだけで、ストライクが全然入らないなんてことが起きます。
キャッチャーは女房役なんて言い方をよくされますが、女房がいないと何もできないダメ亭主のようなピッチャーでは困るのです。

また、声を大にしていいたいのは、キャッチボールの捕球の重要性がここで明らかになったことです。
チームの練習の中でキャッチボールをするとき、ほとんどはポジション別になるのではないでしょうか?
そんなとき、ピッチャー同士のキャッチボールは捕球が雑になりがちだと(あくまで経験上ですが)思います。体から遠いところはボールの勢いに押されてグラブがダラーっと流れたり、ジャンプしたら届くところを体が動く準備をしていないので、そのまま後ろに逸らしてしまったり、だらしないこと極まりないです(あくまで経験上ですが)。

“結果”を“明確に”させるためには、キャッチボールでは毎回グラブをしっかり捕球した場所で止めることが必要なのではないでしょうか?
キャッチボールの目的によってはまた違った行動(握り変える練習、カットプレーの練習等)もいいと思いますが、あくまでもキャッチボール相手のコントロールをつけることに協力的なのであれば、そうすることをおすすめしたいと思います。

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この研究(リンクはこちら)では、ボールを的に当てる動作をコンピューター上で練習したところ、600球の練習をした後でも、まだ的に当たる確率は上昇しています。それでも80%弱ですが。
つまり、結果を明確にしたとしても、600球なんかでは全然足りないのです。
ブルペンで600球投げるわけにはいきませんから、日ごろのキャッチボールから意識していきましょう。

◆ 結果を明確に②

結果をうやむやにしてしまっているのは、キャッチャーやキャッチボール相手だけではありません。
自分自身もその要因になっているかもしれません。
ピッチャーは、いつもなにかしらの改善すべきことを考えながらキャッチボールやブルペンでの投球をしていると思います(それがないのは問題外)。
そんなときにありがちなのは、フォームに集中しすぎてボールを投げることに意識が十分にいかないことです。
後ろ足に体重を残して。。。テイクバックをこうして。。。グラブはこうして。。。そんなことを考えながら投げて、実際に投げたボールには無関心、なんてことがよくあるのではないでしょうか?
それは、脳内で作られたモデルの一部を無理やり変えたうえに、“結果”がないので修正のしようがない状態を作り上げているように思えます。
カレーの味を確かめもせずに、どんどん調味料を足しているのです。
こんなこともあってフォームの修正は難しいことなのですが、その解決策は違うパートで考えていくこととします。
とにかく、ここで言いたかったことは、自分の中でも投げたボールという“結果”を明確に意識することが重要だということです。

◆ コントロールのカギは○○

ということで、タイトルにあった○○とは?
それは、“結果”をはっきりと示してくれるキャッチャーやキャッチボール相手の「捕球」ということだったんですね。
自分のコントロールをつけるには、仲間が必要ということで、
いい話でまとまりそうでよかったです。
また自分自身でも求める“結果”をはっきりとさせておくことが重要になりそうです。


◆ つづく

Part2では、この考え方を応用して、いい練習方法や逆によくない練習方法、バッティングへの応用方法について考えていきたいと思います。

◆ 参考


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