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タイでのエピソード・その54

その53の続き—

最後の最後の最後の最終手段。私は親に泣きついた。

あれだけ否定し、拒んだ環境。またそこに頼る事になるとは…。

…詳細は端折る。書く様な事でも無い。まぁ簡単に言うと、親→兄→親の順で電話をし、結局カネは提供してもらえなかった。

親には「大丈夫。ごめん、心配させて。大丈夫だから」とだけ伝え、終話した。

HABITOモールの2階に登り、広場の机の上で寝そべり、夜空を見上げる。

終わった…。

まぁ、覚悟していた事。「一か八か」、「無知の蛮勇」、「猪突猛進」。この類は大体、成功しない。

ここを乗り越えれば、成長出来る。でも、その時の私の頭の中に、そんな余裕のある思考の波は訪れなかった。

日本でホームレスでもやるか。

いや…いっそタイで…。

わずかな銀行の預金残高、そして財布の中身をチェックした。

あんなにあったのに…。

俺が、何をした?

「自暴自棄」と言う選択肢が私の中で生まれた。

酒、タバコ…辞めていたもの全てを、解禁しようか。

マリファナのバイヤーと連絡を取ろうか。最後に風俗でもハシゴしようか。

…人生最後の花火くらい、パーっと大きく上げてもバチは当たらんだろう。

絶望の中、私は就寝した。

…それでも時間ってやつは無常に過ぎ行く。

朝日を見て、私は思った。

「夢じゃ無かったのか…」

目の前の全ての景色が、いつもと違って見えた。

行くあても無く、私は一人、HABITOモール専用バスに乗り込んだ。

…どこで死のうか。まぁ、どこでも良い。私が消えようとも、誰も気にすまい。

そして…私に奇跡が起きた。

生まれて初めて、私は自分自身を客観的に、そして世界を俯瞰的に見る事が出来た。

「俺が死ぬ?なら、俺がいなくなったその後の世界は…?親は泣くだろう。だがそんなもん、どうでも良い。だって、死ねば関係ない。そうなれば、俺はこの世とは断絶され…もう関係無いんだ。」

そして、謎の疑問符が浮かんだ。

「関係ない…?」

…その違和感の正体に気付けないまま、さらに私は…生まれて初めての事をする。

自分を客観視…そう、自分自身に話し掛けた。

その次の瞬間から、窓の景色が涙でぶわーっと歪んだ。

私は…今まで自分に厳しすぎた。「すべき」に支配されていたのだ。

ずーっといじめられた青年期。グチャグチャだった家庭環境。社会適応出来ない能力、性格…それら全てを含め、自分を許せなかった。すなわち、コンプレックスの塊だったのだ。

そんな私が、私に初めて、優しい言葉を掛けた。

「辛かったなぁ。でも、お前なりに良くやったよ。お前は何も悪く無い。お前はお前なりの正義と覚悟を貫いて、自己責任でやって来たんじゃないか。格好悪くなんか無い。惨めなんかじゃ無い。胸を張れ。よく、頑張った。」

うーん…こうしてキーボードを叩いている今も、思い出すと目頭が熱くなるね。自慢じゃ無いが、本当に良い経験をしたと思うよ。

何と言うか…恐らくその時の私は、生涯で一番の涙を流した。あらゆる意味で。

死ぬ覚悟で飛び出した実家。駅のホームで流した涙。そこで全ての涙は枯らしたつもりだったのに…。

ついに涙を流し切った私は、バスを降り、いつものテスコロータス前にいた。

「さーーーて…これからどうすっかなー…」

気持ちはもう、切り替わっていた。自分でも驚くほど早く、ポジティヴなスイッチが入った。

スマホを握りしめ、ライティングの案件を見る。

…驚く事に、大量の案件が入っていた。

よし…諦めるのはまだ早い。

私はまたスマホを握りしめ、仕事に取り掛かった。

ビットパンダさん、俺から騙し取ったカネは、有効活用しているかい?

あんたのお陰で成長出来たよ。ありがとさん。


—その55へ続く—

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