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背負っているものが違う
病院に辿り着いた私は、まるでゾンビの様な足取りでおふくろの眠る集中治療室に入った。
数時間前までは元気だった。元気だったはずだ。
…ウソだ。
ウソであってくれ。
そうだ、人違いだ。
きっと救急隊が、他の誰かと間違ったんだ。
おふくろは今も元気に、店で焼き鳥を焼いてるんだ。
…顔を見るその瞬間まで、私はそう願った。
しかし…その顔は紛れもなく、私を43年間見続けてくれた、私の母だった。
あんなに頑張ってむくみを取ったのに。
あんなに頑張って肺を綺麗にしたのに。
あんなに頑張って腎臓を綺麗にしたのに。
母の体は、得体の知れないモンスターの様に膨れ上がり、体の至る所に管が刺さっていた。
そして…「知らない誰かの血液」を大量に流し込まれていた。
急に肺が真っ白になる?急に腎臓の値が最悪になる?急に心臓の大動脈が詰まる?
…それを「病気」で片付けられるなら、医者なんてもんは幼稚園児でも務まるな。
私はその「幼稚園児」が勤める、釧路市立病院という名の幼稚園で担当医と話した。
「以前倒れた時、(釧路)孝仁会病院だったんだって?」
「はい。その時はワクチンを2度、接種した後でした。肺も真っ白で腎臓も悪くなってて…。診断としては、急性の肺炎性心不全…みたいな感じ。でも今まで腎臓なんてそこまで悪くした事なかったし、食事も私と一緒に一般の人よりは気を付けてたんです。肌も髪の毛も、周りの同年代からは羨ましがられるほどで…」
「うん。でも腎臓ってのは知らない間に悪くなるからね。」
「はい、知ってます。サイレント・キラーって言いますよね。それにしてもおかしいと思いますよ。今まで不調なんて無かったんです。なのに1回目の接種の後、急に虚弱になって、転んだ後自分で立てなくなりました。そして2回目の後…」
…私がこうして話している間、担当医は「めんどくせー」と言わんばかりの表情で私の呼吸を無視し、目も合わせず適当に「うん、うん、うん」と食い気味の相槌を打ち続けた。
「…2回目の後に、さっき言った症状で倒れました。1回目接種後と2回目接種後、そして今回の3回目の接種後も、倒れるまでの期間がほぼ同じです。」
「うん。元々腎臓が悪かったんじゃない?飲み屋だったんでしょ?」
「いや、でも今までそういう事は無かったんですって。」
「うん。でもさっき孝仁会病院の先生に聞いたら、腎臓の値が悪かったって言ってたよ。」
「いやいやいや!だからそれは私と一緒に食事療法でほとんど治したんですって!」
「うん。でもまだちょっと悪かったんでしょ?」
「!!……」
…足元に拳銃が転がっていたら、私は恐らくこいつに向かって引き金を引いただろう。
未だにこの事を思い出す。
特に寝る時に思い出して、眠れない時もある。
同時に、昔の景気の良かったバブルの頃の釧路の街も思い起こされ…胸がぎゅっと締め付けられる。
ミンクのコートを着たおふくろと手を繋ぎ、丸井今井の地下の食料品売り場を歩いていた。
確か小学校1、2年生の頃だったな…。あの時はまだおふくろは炉ばたではなく、スナックを経営していた。
家族もまだ豊かで、少なくともお金には困っていなかった。
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私は何故か具合が悪くなった。ずっと吐きそうだったが、気を遣っておふくろにその事を告げずにいた。
しかし、我慢が限界に達した。
「お母さん、吐きそうだ…」
「あら!大丈夫かい!?」
…と、次の瞬間。
私は出来たばかりの綺麗なデパートの通路に、勢いよく吐しゃ物を撒き散らした。
周りの「うわーっ!」という声とともに、辺りが騒然とし始めた。
「うわ〜…きったねぇ…」
「こら!そういう事言うんじゃないの!」
周りの心配の声や嘲笑などが聞こえ、居ても立っても居られなくなった私は、その場に立ち尽くしてただただ泣くばかりだった。
店員さんがすぐに雑巾とバケツを持ってきて、おふくろと一緒にその場を掃除し始めた。
おふくろは泣きじゃくる私の頭を撫で、「大丈夫だよ、大丈夫だからね。泣くんでない…」と、必死に私を慰めていた。
後ほど、「靴屋に寄った際の革の匂いに酔ったのだ」という結論になった。
しかし…今思えば、そんなもんで吐いてしまうほど、私の内臓は若くして不健康だったのだと思う。
私は小学校低学年の時点で、既にぶくぶくに太っていた。学校では「すこやかさん」という名前で誤魔化されていたが…早い話、それは単なる肥満であり、病気だ。
おふくろは私の事が可愛かった。
可愛いあまりに、自分の店に私の名前を付けた。
そして、私にこれでもかと言うくらいにお菓子を食べさせた。もちろん、良かれと思って。
だが皮肉にも…それは私の内臓をボロボロにした。
今思えば、あの頃はまだおふくろもポジティヴで明るかった。家族全員が、何かしらの趣味に没頭していた。それくらい、金銭的余裕があったのだ。
…この世はまさに「医療」と「豊かさ」が支配している。
それは昔から、変わらない。
マサヤン=ケンヂよ…感傷的になるには、まだ早いぞ。
故郷を離れ、専心が霧散したか。
今現在、お前は生きている。なら、まだやる事があるという事だ。
——そうそう。最近、例の記事を出した事で、特定の層から理不尽なバッシングや嫉妬を喰らっている。
「〇〇さんのパクリだ」だの、「こいつ気持ち悪い」だの…読んでもいない人たちから言いがかりを付けられている。
想定の範囲内だし取るに足らないが、この記事を読んでいるかもしれないので、あえて一言だけ言っておこう。
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背負っているものが違う。
以上。
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