自分に素直になりましょう
「君は…以前、免許持ってたのかい?」
「はい、無事故無違反男でした。別にやましい理由で失ったとかじゃないんです。」
「あ、そうだったの(笑)。なーんだ、そりゃあ、これだけ運転出来るよねぇ。」
…仮免許の試験が終わった後の、私と教官との会話である。100点満点だったそうだ。…って、自慢にもなりゃしない。20年運転してるんだから、当たり前の話である。
さて…やっと半分が終わった。あとは路上に出て、本試験まで頑張るだけ。おふくろが生きている間に取得してやれなかったけど…まぁ、それはそれだ。
その後、私と同乗した30歳の人と交代した。彼は以前S字で脱輪してしまい、今回2回目のチャレンジである。
「いやぁ、完璧すぎて参考になりませんでした…(笑)」と言われた。
ふむ…でも完璧だと思ったなら、それをそのまま真似すれば良いだけの話だし…参考になったのでは?😅
彼はまた、「では次は僕の番ですね…。後ろで超初心者の運転を見ていて下さい(笑)」と続けた。
話によると、普段バイクに乗っているみたい。だから交通ルール云々に関しては問題無いはずなのだが…。
…彼はまたS字の中で脱輪した。左折で入ったのだが、内輪差ではなく、右側の膨らみの方で右前輪を脱輪させたのだ。なかなか無いパターンだぞ(笑)。
後部座席で見ていたが、「そりゃー落ちるわな」って感じ。あらあら。
教官も呆れ、「落ちたでしょう?分かるよね?じゃあ、戻りますか」と言い、彼のテストはそこで終了となった。
免許取得代金は高額である。故に、彼も確かに可哀想なのだが…。見る限りこりゃあ、この人を合格させないといけない先生たちの方が大変だ。
合格発表待ちの際、彼と話す機会があった。彼が私に話し掛けて来てくれたのだ。
「お疲れ様です(笑)。じゃあ、僕は落ちたので帰ります(笑)」
話し掛けて来たものの、目は合わせないタイプ。なるほどな。
それと、常にヘラヘラしている。いわゆる愛想笑い。テストに落ちたんだろ?悔しくないのかなぁ。男性が普通免許の仮免で二回連続で落ちるって、結構恥ずかしい事だと思うんだけど…。
こんなのもバイクで路上を走ってるんだと思うと、運転って本当に恐ろしいんだなぁと改めて思った。皆さんも、交通事故だけは気を付けましょうね。
私は、彼との会話を続けた。
「本番に弱いタイプなのかな?」
「そうですね(笑)」
「そうなんだ。俺さ、本番に強いんだよね。開始までは死ぬほど緊張するんだよ。ここはどんな剛の者でもそうさ。でもね、本番が始まったら超・集中するじゃん?実は人間って、始まっちゃったら集中するから緊張ってしてないと思うんだよ。そう思うと少し、気が楽にならない?」
「はぁ…(笑)」
パッとしてないな、こりゃ😓
「ハンドル切り始めるの遅すぎだね。練習では出来てるの?」
「はい、出来てるんですけど…(笑)」
「そうなんだ。えーと…崖だと思ってやりゃあ良いんじゃない?(笑)」
「崖ならいっそ、出来ると思うんですけどね(笑)」
「へぇー…」
…出来るわけねぇだろ、と思いながら適当に相槌を打った。なら、この世の無情を理解しているのかもしれない。普段から本当に「どうせ死んでも大した事じゃないから」と思っているなら、大体の事に対し、勇気を持って飛び込めるはずである。
私は試しに、以下の様に続けた。
「まぁ人生なんて遊びみたいなもんだからさ。どんな結果になってもそれは、大した事じゃないから。だから、気軽にやりなよ。ぜーんぶ、ゲームだと思ってやれば良いのさ。」
すると、彼はこう返した。
「…そう思って、生きてるんですけどね(笑)」
…それに対し、私は笑顔になり、0.5秒で優しく即答した。
「いや、出来てないと思うよ。」
「え…はは…」
「おつかれさん。」
私はぷいっと彼に背を向け、スマホを取り出し、再び電光掲示板の前で合格通知を待った。
この世をゲームだと思い込んで遊べる人は、この程度の本番でダメになるほど、緊張なんてしない。
彼は、己自身の矛盾に気付いていない。ずーっと、自分に嘘をつき続けて生きて来た。だから無駄に愛想笑いを繰り返し、無駄に相手に対してヘコヘコし、無駄に自分を下げるのだ。
一見すると、真面目な青年タイプ。でも、その本性は「真面目に見せようと必死になるタイプ」。この手の人間を私は何十人と見て来た。昔の私を含めて、ね…。
周りもそれを読み取れないほどバカじゃない。だから常にいじめられる。見てないので何とも言えんが、恐らく私ほど先生と上手くコミュニケート出来ていないだろう。軽く「いじめ(しごき?)」っぽい指導内容になっているはずだ。先生もイラつくだろうからね。
改善しないといけない点が山ほどある。
…にも関わらず、プライドが死ぬほど高い。だって、「崖から〜」のあんなくだらない話にすら同調出来ず、揚げ足を取るんだよ?(笑)その後の私の意見にも、その前に言った軽いアドバイスにも、「なるほど」とか「そっか〜」とか「ありがとう」とか…何も言えなかった。己の中に答えが無いから、本来は外から答えを貰うしかない。でも、それが出来ない。だから、いつまで経っても人生が変わらない。
彼はもう30歳だが、某ドラッグストアでアルバイトをしているそうだ。かと言って、ネットの知識も何もない。
だから…私は色々な意味を込め、彼に「おつかれさん」と言った。
人間はやっぱり、自分に素直なのが一番だね。出来ない事は出来ない、辛い時は辛いと言ってよい。
私も気を付けよう。
ていうか、早く免許欲しい…😭
もし私の研究に興味を持って頂けたなら、是非ともサポートをして頂けると嬉しいです。サポート分は当然、全て研究費用に回させて頂きます。必ず真理へと辿り着いて見せますので、どうか何卒、宜しくお願い致します。