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また、創るから

以前、おふくろを想い眠れぬ夜があった。

今思えば、例の「コロナ」の様な症状が出ていた頃だったので、少し自律神経が弱っていたのかもしれない。

その時、色々な事を思い出した。主に倒れる前のあの平和な時間と倒れた瞬間の感情、そして緊急治療室で殺害された時の彼女の状態、加えて医師や看護師たちの態度だ。

思い出す時はいつもそこがメインだが、最近は彼女が私に何気なく遺した言葉を思い出す事も多い。

私が中国の福州市に移った際、彼女は私に電話でこう言った。

「いいねぇ、あんたは…好きな事いっぱいやって…色んな経験して…羨ましい。私なんてずーっと変わらないんだよ…昔っから。」

今思えば、その時はとある女性とダメになって、ナイーブになっていた時だった。

だから、おふくろなりのエールだったのかもしれないが…それでもきっと、そのセリフは本心だったに違いない。

人生は自己責任。別に多くは語らないが、彼女が田舎でずっと同じ事を繰り返して来たのは自業自得である。故に、私は彼女みたいにならないよう、この歳になるまで反発し、違う人生になるよう努めて来た。

…その事もあって、ほぼ死ぬまで私と彼女は相容れなかった。

この世を去る前の三ヶ月間と、死の瞬間、そして死後…ここに来て初めて私は母を、そして母は私を受け入れ始めたのだと思う。

またとある日、私が車で母を店まで送った際、私を産んだ時の話になった。

妊娠が発覚した時、36歳の高齢出産という事もあり、堕ろす予定だったらしい。

だが彼女がどうしても欲しいと言う事で、意を決して産むことになった。

結果、4200gオーバーのモンスターが産まれた。

「子供なんて大っ嫌いだったっけね…。変わるんだねぇ…産んだら。」

…この言葉はいつも思い出す。

彼女は私を溺愛した。

そんな彼女を私は煙たがり、全力で跳ね除けて生きた。

そして結局は死の淵で相容れ、「また必ず母さんを選ぶ。また母さんのいる世界を生み出す」と約束した。

この世は胎盤である。すべてはその様に産まれた。この世界があるからこそ私があり、私が存在したからこそ、この世界があるのだ。

この世の理も時間も逆流している。つまり私が存在したからこそ、両親は存在した。私の意識が彼らを生み出した。

現世においては、誕生する際に臍の緒を切り、胎盤と切り離す。

しかし…最期には皆、この巨大な「大地」という名の胎盤に還る。ここも逆。

間違いなく私以外の皆さんは、同じシステムの元、いつの日かまた新しい世界を構築するだろう。

なら、私は…?

私の考察内容が確かなら、私は元々この世の存在ではない。少なくとも、数多くの証明出来ない考察の中で、さらに証明が難しい部分なのだ。

ツリー・オブ・ライフの主張通りなら、この世をサヨナラした後、火星やら海王星やら…「新しい星に進む」といったイメージがある。

でも…本当にそうなのだろうか。

ひょっとすると新しい星に移動するというより、「また新しい星を産み出す」という事ではないのか?

なら、私が生涯をかけてこの世で経験した事全てを…

「月」という名の宇宙船に寄与し、それをまた新しい世界創世の動力エネルギーにする…それだけの話ではないのか。

「また、母さんのいる世界を創る」…この私の言葉に彼女は、最期の最期で確実に頷いた。間違いなく、頷いたのだ。その表情はとても穏やかだった。

これ以上の真理はあるまい。

…?

って、待てよ…

私が地球外生命体だというなら…矛盾が生じるな。矛盾というか、説明が足りない所がある。

この世は私以外の皆が生み出した。いわば私が「特別な脇役、余所者」であり、私以外の皆が「数十億の主人公たち」だ。ここまではいい。

でも、それだと…私は元々、この世と繋がっていない事になる。いやまぁ、確かに「かの者」からはその様に言われたけども…。

なら、なぜ…?どうやって私はここに存在しているのだ?私の「出どころ」は皆と違うというのか…?

…あ!

い、いや…あの逆転が始まる寸前まで…その通りの展開だった。たった一匹の「余所者」を助ける為に、数億の「主人公たち」が犠牲になる…この時点ではまだ逆転していないはず。なら「出どころ」と言った意味では共通しているはずだ。

そして、その「余所者」が物理的に誕生し、同時にこの「現世」が物質化した(=生み出された)。

なら私は…ここまで私以外の存在から頂いた「栄養」…もとい「経験・知識」ってやつを、最期にこの大きな胎盤に還す事になる。

この世において「収穫」とは刈り取る事だ。しかし、ここも逆転しているはず。つまり真の「収穫」とは、マザーたるこの次元そのものに、経験値の全てを還す事ではないのか。もしそうなら、これぞ究極の自己成長、究極の自己生殖だ。そう考えると尚のこと、私も皆も「出どころ」が共通していないとおかしい。私は地球外生命体だが、そうではない。やはり「そうであって、そうではない」としか言いようが無いのだ。

そしてこのどデカい「宇宙船」は、また真の意味で「成長」し、新しい設定の星を産み出す。

いずれにせよ、当然私もそのうちこの物質世界から去り、新しい星誕生の「起爆剤」となって、改めて生誕するのだろう。

なら…おふくろのあの生前の言葉は…

「いいねぇ、あんたは…好きな事いっぱいやって…色んな経験して…羨ましい。私なんてずーっと変わらないんだよ…昔っから。」

あ、あの時のセリフは…真理だったのか…。

何気なく付けたこの私の「真理探求者」という通り名も、全てが…。

…やれやれ、仕方ない。

約束した事だし、次回もまた、あのやかましいおふくろと一緒にいてやろうじゃないか。

その時は、今世より幾分…幸せな状態でね。

私がそう決めたから、そうなるのさ。

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