見出し画像

数分で、第四次産業革命を概観


第四次産業革命 Fourth Industrial Revolution というキーワードについて書きます。


「第四次産業革命」とは、2016年の世界経済フォーラムにおいて初めて使用された言葉です。その年の会議では「第四次産業革命の理解 (Mastering the Fourth Industrial Revolution)」がテーマとなりました。(2011年からドイツで用いられている「インダストリー4.0」とは違う内容のキーワードです。)


そもそも産業革命とは何でしょうか。

元々は、産業革命は、経済学者のジェローム=アドルフ・ブランキが使った用語で、その後、アーノルド・トインビーが著作の中で使用したことから学術用語として定着しました。当初は第一次産業革命を指していましたが、いわゆる市民革命などの民主主義の発達等と対比させて、産業や社会の発展段階論の概念として使われるようになりました。


第一次産業革命は、蒸気機関の発明により推進された工業化・都市化の劇的な進展で、英国で1760年代におき、1800年代初期にヨーロッパ全域・北アメリカに広がりました。

第二次産業革命は、1800年代後半に始まり、第一次世界大戦の前辺りまで続きました。大量生産ラインの誕生により特徴づけられ、鋼鉄、石油、電気などの新産業が勃興し、内燃機関や電球、電話機などの電気製品の普及が進みました。

第三次産業革命は、デジタル革命と呼ばれることもあります。1980年代後半から半導体産業の勃興と共に始まり、今も進展中の機械からコンピューターへ、そしてインターネットへと発展してきた社会の進化です。


そして、第四次産業革命です。名付け親は世界経済フォーラムの創設者兼会長の Klaus Schwab 教授ですが彼は、自著「The Fourth Industrial Revolution」の中で第四次産業革命が主に技術の発展によって特徴づけられた過去の三度の産業革命とは根本的に異なると説明し、Physical, Digital, Biological の境界をないものにしていく技術革命と述べました。


冒頭で言及したインダストリー4.0と言葉は似ています。しかしこれがドイツ政府が推進する製造業のデジタル化・コンピューター化を目指すプロジェクトであるのに対し、第四次産業革命は、Biological つまり、バイオサイエンスの領域も超越して取り込んでいるという概念の大きさ、あるいは、Disruptive さが特徴です。

例えば、どういうものか。わかりやすいイメージから入ると、クラウド上でデザインし、3D プリンターを用いながら作られた、カスタマイズ化されたウェアラブル医療器具によってバイタルデータをセンシングし、それらデータをネットワークで再度共有しながら常に最適な治療を受けれるようになるアプリケーションを考えた場合(そして近いサービスは既に存在していますが、)それらはこの産業革命の尖兵と捉えることができるでしょう。Physical, Digital, Biological という境界をやすやすとまたがり、循環し、サービスは我々とともにあり続けます。


第四次産業革命は、より人々の日々の生活に、融合したテクノロジーが今までにない浸透度合いで入り込み、接続していきます。5G の普及はそのために向けた大きなステップになるでしょう。

食物のトレーサビリティも、小売も、金融サービスも、境界をまたがり溶け合って、我々に結びついていくでしょう。Schwab教授は、この革命は数十億人をウェブに繋げ続け、事業と組織の効率性をラディカルに改善し、より良い資産管理を通じて自然環境の再生に役立つ大きな可能性があると主張しています。その変容のスピードは時に我々の想像のはるか上をいくでしょう。かつて電話機が1億人に普及するのに75年かかりました。それに対し、現代、1億人がインスタグラムを利用するのには2年とかかりませんでした。Tiktok は1年をきり、ポケモンGoはなんと1ヶ月でした。我々は来るべきイノベーションの破壊的波を乗りこなすことができるのでしょうか。一部の企業と人のみが波を乗りこなせ、他の企業は波に押し流されていくのでしょうか。


スピードもそうですが、倫理的な挑戦ももたらされるでしょう。現代はプライバシーの問題を今までにない次元にエスカレートさせました。50年前、プライバシーと言ったら工業化の騒音によって悩まされる住環境の問題のことを指しました。今やそれは高度なデジタル化によって個人が自身の機微な情報を守ることができないという問題へ変貌しました。そしてこのプライバシーという概念は新たな産業革命によって更に進化する可能性があります。それは、自らを含む生命そのものの尊厳をどう守るかという問題です。往年の名作、攻殻機動隊がまさにPhysical, Digital, Biological をまたがる人々の姿を描きましたが、生物と機械、精神とデジタルの境界が曖昧になった際に、自己のアイデンティティは何によってもたらされるのか、それを問いました。第四次産業革命後の世界において、我々はその便益をどう享受し、そして新たな脅威からどのように尊厳を守るべきなのでしょうか。今、まさにその前夜のうちから、その備えをしておくにしくはないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?