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工藤将也はどんな人なのか、新作"硝子戸の中”interview『本当に宇宙に行きました。』

約1年かけて自室で録音された”男の子の嵐”(2018年)。初の全国流通アルバムであり、強力なサポートメンバーを迎え、勢いに乗って短い期間で制作されたと語る”森の向う側”(2019年)。その直後、コロナ禍で再び宅録へと回帰し、次の年に配信でリリースされた”思い出の国”(2020年)。

2023年6月19日、『硝子戸の中』が発表された。エンジニアに中村宗一郎(ピースミュージック)を迎え、全編スタジオレコーディング、新たなバンドメンバーも加わり演奏や歌、アレンジメントの厚みも増した、会心のニューアルバムとなった。
感激した私はすぐに彼にインタビューの依頼をした。
私は彼の指定した喫茶店"珈琲茶房”へと向かった。


そう部屋の中から願っていたんだということ、そこが通底するテーマのように感じた。

–”硝子戸の中”というタイトルは、夏目漱石の随筆からとってきたものですね?”森の向う側”は村上春樹の短編が原作の映画のタイトルだし、”思い出の国”はメーテルリンクの童話「青い鳥」からですよね。どれも言葉を自由に拝借した、という印象なのですがあってますか?

夏目漱石の「硝子戸の中」は彼の日記のような、エッセイに近い日々の記録で、老年になって病気で寝込んでる漱石の部屋に友人や記者、猫なんかが訪れてくる。
自分という部屋に二つドアがあって、一つは入り口、もう一つは出口で、人が入ってきて、そして出ていく。来客は思い思いのことを言ったりしたりして、心は多少揺れ動くんです。でも後には何も残らない。いや、残っているのかもしれないけど日々は変わらない、硝子戸の中から庭の草木を眺めてるんです。

–なるほど。

前作から3年、歳をとるというのはこうゆうことかと、あっという間でした。
夏目漱石のような日々を過ごしたというほど、僕の日々は来客もそんなに、というかほとんどいなかったし、野草の茎を噛んで毎日散歩してました。

–はあ、、と言いますと隠遁者のような暮らしを?

そうですね、仕事も何もしないで毎日絵を描いてましたね。絵を描くのは昔から好きで、小学校の時に姉からプリキュアの書き方を教わってから。だから、女の人なら無限に描けるんです。無意識でいられる数少ない行為ですね。

女人画、そのほとんどは書いてすぐ捨ててしまうらしい。

–そうなんですね。その暮らしの中で、夏目漱石の随筆を読み、共鳴する何かがあったと。

共鳴したというより、確かにその時に読んで、僕はとても入り込んで読んでしまって、この雰囲気好きだなあと思いました。
でも、その時はそのくらいの軽い感じで、アルバムのタイトルにしようとなったのはリリースのギリギリの時だったんです。あ、そうじゃん。みたいな。

–テーマとして据えていた、というわけではないんですね。前作や前々作もそうですか?

そうです。
”森の向う側”は、村上春樹の”土の中の彼女の小さな犬”という「中国行きのスロウ・ボート」に入ってる短編がありまして。僕はもともと”かいけつゾロリ”しか読まない子供だったんですが、担任が好きだったんですかね、中学の教室の後ろにあった村上春樹を読み始めたのが読書体験の初めで。
それで、その短編がとても好きで。ストーリーというか、雰囲気ですね。調べたら蒲郡ってところに実在したホテルが舞台になっていて。1988年に映画化されてVHSのみで流通してる、「森の向う側」を見つけたわけです。

–それに感銘を受けて、と。

いや、すぐに買ったんですが、まだ観てません。

–(笑)

”思い出の国”は、カレー屋さんのテーブルに何故か『幸せの青い鳥』の話が書いてある紙が立てかけてあって、そこに出てきた「思い出の国」という言葉にくらってしまい、寝て起きて、気づいたらアルバムが出来てました。

–そこに収録されている「から騒ぎ」は今作でオルガンやグロッケン、12弦ギターなどで彩られたバンドサウンドとして生まれ変わってますね。

はい。ベースの曾都邦一さんに弾いてもらった12弦ギター、キーボードの大山りょうさんの演奏も最高で、ドラムの河崎さんには顔がそっくりの双子の兄がいるし、この曲は僕たちの自信作といえますね。MVも曾都さんが8ミリフィルムで撮影した素材と、”屋上で演奏する”ってやつをやったりしました。

–双子の兄、、なんだか素敵ですね。このビデオも何度も見ましたよ。

ありがとうございます。
今思い出したんですが、僕ドッペルゲンガーを目撃されたことあって。
部屋で寝ていたら、母親に起こされまして、
「あなた、さっきはどこに出かけたの?びっくりして外まで出ちゃったわよ。」
なんだよ、と思いながら目をこすって時計を見たら、まだ朝の7時ごろなんです。
「どこにも行ってないよ、幻覚?怖がらせないでよ。」僕が言うと、
「何いってんの!さっきコンビニの方に歩いて行ったじゃない。玄関の窓のところに人影が見えたからね。何よこんな時間にって、インターフォンの画面で見てみたの、そしたら将也がいたからびっくりしたのよ、外まで行ってちゃんと見たんだから!」
怖くなって聞いたんです。その頃よく変な夢みてたから、ついに夢遊病とかかと思って。
「え、俺どんな格好してた?」
「あれよ。あのよく着てる青いアロハシャツ。」
そのシャツ、綺麗に畳まれて箪笥の中にあったんです。
・・・怖くないですか?

–本当に工藤さんだったんですかね、お母さんの見間違いでは、、。

玄関先に灰皿があるんですけどね、僕はそこでタバコを捨てて、歩いて行ったそうなんです。通行人が来れるような場所じゃないし。ドッペルゲンガーって、その人と同じような行動をとるらしいですよ。いつもやってることを真似するかのように。もはや自分が偽物なんじゃないか、どこかで本当の自分が、指をグーってかみながら、僕を憎らしそうに見てるんじゃないかとか思って、少し可哀想ですよね。


–だいぶ話が横道に逸れてしまいましたが、今作は工藤さんの今までの作品と比べると、とてもポップで聴きやすく、歌詞の面でも、直接的でわかりやすい表現を意識的に取り入れているように感じたのですが、そこは意識されていたのですか?

「ガス・ガス・ガス」という曲は2019年にはもうライブでもやっていて、比較的古い曲で、「から騒ぎ」も同じ年に出来ていました。
曲が降ってくるって表現があるじゃないですか、僕は割とそのタイプのシンガーで、「マーキュリー」という曲は朝に散歩をしていて、まあまあ歩いて、もう帰るかーって家にたどり着く15分くらいの間に、鼻歌でスッと一曲まるまる出来ました。帰ってすぐコード当てて、バンドに持っていきました。
僕は意識して、こうしようああしようと作曲できるタイプではないんですね。
歌詞もそうです。
だけど、”ひらけたもの”にしたいという漠然としたテーマはバンドで共有していました。売れ線とかそうゆう短略的なものではなくてですね。僕が熱心に音楽を聴き始めた頃、それは人それぞれ違うけど、僕はその頃の自分が聴いて「やべーこれ。」って思えるようなものを作れたらいいなと思ってました。だから捻った表現というよりは、いかに真っ直ぐに歌えるか、みたいなことは考えてたかもしれません。そして、”ひらけたもの”にしたいと。

–なるほど。ですがタイトルは隠居生活感のある『硝子戸の中』であるのが面白いですね。閉じた世界観に合いそうなタイトルだけど。

完成して、アルバムを通して聴いて、確かに今までにないくらい聴きやすいし、ポップだし明るいような気もする。
だけど、”ひらけたもの”にしたいと、そう部屋の中で願っていたんだなと思ったんです。それがこのアルバムにおける一番の通底したテーマと言えるような気がした。”今も僕は部屋の中、窓を開けることができない”んだなって。

「オデッセイ」という曲が私は一番のお気に入りです。最後にその曲の背景について教えていただいてもいいですか?

・・・

–今日は貴重なお時間、ありがとうございました。8/4のレコ発、楽しみにしています。

ありがとうございました。
リリースから1ヶ月経って、やっとフィジカルも完成しました。
レコ発会場ではCDの販売もします。八木幣二郎くんデザインの初回限定版です。
NEWFOLK ONLINE STOREにて通販も近日中に開始する予定です。お楽しみに。

––彼は言いたいだけのことを言い終えると、おもむろに立ち上がり、店を後にした。

写真:Taro Takeuchi
インタビュー:Hitomi Tsukamoto


工藤将也"硝子戸の中" Release Tour

 8/4(金) 会場:吉祥寺スターパインズカフェ
開場19:00/開演19:30 予約3000円/当日3500円(ドリンク代別)
出演:
工藤将也(バンドセット)
工藤祐次郎
三輪二郎バンド[Vo/Gt三輪二郎、Dr北山ゆうこ、Ba伊賀航]


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