(G)I-DLE((여자)아이들)「I Burn」

 

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 6人組グループ(G)I-DLEが発表した4枚目の韓国ミニ・アルバム「I Burn」は、彼女たちの表現力と音楽性を拡張させた作品だ。ファースト・ミニ・アルバム「I Am」(2018)から続く《Iシリーズ》の一部でありながら、これまでとは違うカラーを見事に打ちだしている。ムーンバートン、ハウス、ディスコといった西洋のポップ・ミュージックを取りいれつつ、“화(火花) (HWAA)”ではヘグム的な弦楽器の音色を鳴らすなど、東洋色も濃い。

 そのような作風の本作を聴いて脳裏に浮かんだのは、SuperMが2019年に発表した「SuperM」だ。このEPも、西洋音楽のエッセンスを使いつつ、アジアがルーツの楽器であるチャングの匂いを随所で漂わせていた。
 とはいえ、本作のほうが東洋の香りは濃厚だ。サウンドのみならず、漢字を用いた曲名やアートワークでも、アジアを強調しているのだから。

 こうした方向性は、近年の(G)I-DLEをふまえると非常に興味深い。2020年4月、彼女たちはアメリカのレコード会社Republic Recordsとパートナーシップ契約を結び、本格的に世界進出を目指しはじめた。
 その目標を果たすため、巨大なポップ・カルチャー市場を持つアメリカの価値観に合わせ、アジア色を薄めるという道にも行けたはずだ。しかし、本作は薄くするどころか、濃くしている。

 思えば、彼女たちの表現にはアメリカの主流とされる価値観にそぐわないものも目立つ。
 なかでも“Oh My God”のMVは代表例と言えるだろう。女性に恋した女性の視点から歌われているとも解釈できる歌詞をバックに、いまにも口づけしそうな女性2人が映しだされる内容は、まだまだ同性愛に不寛容なキリスト教信者が多いアメリカの現状から見れば、挑戦的と言っていい。
 世界進出の道を進みながらも、国々の世情に迎合しすぎない表現ができる独自性は、(G)I-DLEが持つ大きな魅力のひとつだ。さすが、“i'M THE TREND”で各方面にディスや毒を振りまいたグループ、といったところか。

 本作はサウンド面でも楽しませてくれる。特に驚かされたのはオープニングの“한(寒) (HANN (Alone In Winter))”だ。物哀しいピアノの響きで幕を開けると、ワルツを彷彿させる3拍子を刻み、リスナーの耳を惹きつける。
 作詞作曲はアン・イェウンと(G)I-DLEのリーダーであるソヨン。それを知ったとき、筆者は思わず笑みを浮かべてしまった。アストル・ピアソラ的な3・3・2のリズムを取りいれた“Senorita”など、ソヨンが作曲で関わった歌には3拍子を活かしたものが多いからだ。そうしたソヨンの手グセを楽しめるという意味でも、“한(寒) (HANN (Alone In Winter))”は聴きごたえがある。

 メンバーのミンニが作曲に参加した“Moon”も素晴らしい。夢見心地な柔らかいメロディーと電子音が魅力のポップ・ソングで、1:20あたりから交わるエレキ・ギターなど、おもしろいアレンジが際立つ。
 “Moon”におけるミンニはヴォーカルでも光るものを提供している。リスナーを包みこむヴェルヴェットな歌声は、もともと優れていたヴォーカリゼーションがさらに進化したと雄弁に示す。
 譜割りの気持ちよさも見逃せない。ソヨンが手がけた韻を踏みまくる歌詞は、リズミカルで艶やかなグルーヴを生みだしている。そのグルーヴに初めて触れたとき、筆者は自然と体を揺らし、流麗な言葉に身を任せた。

 「I Burn」は、(G)I-DLEを唯一無二の存在へとさらに押しあげる傑作だ。




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