(G)I-DLE((여자)아이들)「I Trust」


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 韓国の6人組グループ、(G)I-DLE(アイドゥル)の音楽はとても多彩だ。“Senorita”ではアストル・ピアソラ的な3拍子のラテン・ミュージックを取りいれ、“Uh-Oh”ではウータン・クランに通じるブーンバップをまんま鳴らすなど、彼女たちは作品ごとに異なるサウンドを打ちだしてきた。
 このおもしろさはメンバーたちが制作に関わることで作りあげられる。リーダーで作詞/作曲も手がけるソヨンを中心に、メンバー全員が積極的に意見を出していく。音楽だけでなく振りつけも自ら考えるスタイルは、メイン・ヴォーカルのミンニが言うように〈“セルフ・プロデュース”グループ〉だ。

 3rdミニ・アルバム「I Trust」でも、彼女たちは新たな表情を見せている。特筆すべきはリード曲に選ばれた“Oh My God”だ。サビにあたる《Oh my god...》の部分でテンポを下げるなど、トリッキーなアレンジが際立つ。終始漂うゴシックな雰囲気も印象的で、FKAツイッグス『Magdalene』の妖しげなサウンドスケープを連想させる瞬間もある。

 サビでテンポが下がるアレンジを聴いて、作曲に携わったソヨンの手グセを感じた者もいるだろう。同じくソヨンが作曲を手がけたCLCNo”も、サビでテンポを下げる曲だった。盛りあげどころで落ちつかせる構成は奇異かもしれないが、それを魅力に昇華できるセンスは素晴らしい。
 こうした型にとらわれない柔軟性があるからこそ、“Oh My God”の終わり際でテンポを次第に落としていくアレンジ、いわゆるリタルダンドをやる余裕も生まれる。

 作品全体としては、“Oh My God”のカラーに合わせたサウンドが多い。TR-808のヘヴィーなキックを多用し、重低音を強調したダークな音色が目立つ。ジャンルでいえばヒップホップの要素が濃厚な一方で、アンニュイな音像を描いた“Maybe”はザ・ウィークエンドが脳裏に浮かんだりと、モダンなR&Bの匂いも漂う。

 このように現在のポップ・ミュージックを意識した内容は、世界進出を狙う(G)I-DLEの積極性がうかがえる。今月9日には、アメリカのUniversal Music傘下にあるレーベルRepublic Recordsとの契約が発表されたりと、アメリカの市場を狙う動きも顕著だ。そうした戦略の影響もあって、「I Trust」には“Oh My God”の英語ヴァージョンが収録されたのかもしれない。

 「I Trust」は歌詞も興味深い。なかでも“Oh My God”は筆者の琴線に触れた。一見すると、情熱的な愛を描いているように読める。ただ、それは男女関係にとどまる内容ではない。そのことは以下の一節からも伝わってくる。

《いったいどうやって 彼女から抜け出すのですか あなたがくれた節制は 暗いブラックホールの中でずたずたに 破れて魂が抜けたままただぼうっと コントロールできない 砂糖をかけた麻薬のよう これが罪なら罰でも快く受けとめる(대체 어떻게 그녀를 빠져나갈까요 당신이 준 절제는 어두운 블랙홀 속 갈기갈기 찢겨져 혼이 나간 채로 그저 어리버리 통제가 불가능해 설탕 뿌린 마약같이 이게 죄라면 벌이라도 아주 달게 받지)》

 このような一節に加え、MVでは《誰が何と言っても 恋に落ちる(그 누가 뭐라 해도 Fall in love)》と歌われる場面で、いまにも口づけしそうな女性2人が映しだされる

 これらをふまえると、《いったいどうやって 彼女から抜け出すのですか》は、女性に恋した女性の視点から歌われているとも解釈できる。
 その解釈をさらに進めれば、《あなたがくれた節制》の《あなた》は未だ同性愛への偏見が蔓延る世界を指しているのかもしれない。あるいは宗教的モチーフも目立つ歌詞やMVに十字架が出てくることを考慮すれば、キリスト教といった同性愛に不寛容な宗教もあてはまるだろう。

 “Oh My God”は挑発的なだけでなく、世間では偏見に晒される感情を持ってしまい苦しむ者の心も歌っている。




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