Headie One x Fred Again..『GANG』に見るUKドリルの流れと発展


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 いまイギリスの音楽シーンを席巻しているUKドリルは、2014年のサウス・ロンドンから始まった。

 このジャンルはシカゴ発祥のドリル・ミュージックをルーツにしていることもあり、黎明期はドリルの重苦しいビートをほぼそのまま受け継いだサウンドが多かった。
 たとえばブリクストンの67が2016年に発表した“Lets Lurk”を聴くと、チーフ・キーフやリル・ダークといったドリルの代表的アーティストとの共通点が多いことに気づくはずだ。サウンドだけでなく、暴力的描写やスラングの多用にもドリルの特徴が深く刻まれていた。

 67以外では、ケニントンのハーレム・スパルタンズ、クロイドンのセクション・ボーイズ(現在はスモーク・ボーイズを名乗っている)もUKドリルの黎明期を盛りあげた。特にセクション・ボーイズは2015年のミックステープ『Don't Panic』が全英アルバムチャート36位に入るなど、大きなインパクトを残した。

 『Don't Panic』から3年後、UKドリルは飛躍的進化を遂げる。全英シングルチャート9位を記録したラス“Gun Lean”のMVにおけるダンスが話題になったのだ。そのダンスはマンチェスター・ユナイテッドのジェシー・リンガードがゴールセレブレーションで真似したりと、音楽シーンにとどまらない人気を得た。
 この頃から、UKドリルは幅広い層に親しまれるようになった。アンダーグラウンドにとどまらないジャンルに成長し、SLといった次世代のラッパーも次々と生まれ、ブームで終わらない確固たる地位を固めた。

 そして現在、UKドリルは音楽性の拡張を試みている。ドリルのヘヴィネスを保ちつつ、さまざまな要素を掛けあわせた曲が出始めたのだ。
 なかでも筆者が惹かれたのは、先月KOが発表した“Untitled”の曲だ。ジョイ・オービソンにプロデュースを託し、無骨な音色が際立つサウンドを鳴らしている。ブラワンやハッパあたりのインダストリアル・テクノが脳裏に浮かぶそれは、インダストリアル・ドリルと呼べる代物だ。

 ヘッディー・ワンとフレッド・アゲイン..のコラボミックステープ『GANG』も素晴らしい。UKドリルの顔であるヘッディー・ワンのラップに寄り添うサウンドは、多くの要素で彩られている。FKAツイッグスが参加した“Judge Me”は立体的音像を描くアンビエントで、サンファの甘美な歌声が際立つ“Soldiers”はソウルやR&Bの匂いを醸す。
 ジェイミーXXを迎えた“Smoke”も特筆したい。反復するビートから生じる高い中毒性が印象的なトラックは、UKドリルの残滓すらないストレートなダンス・ミュージックだ。ミラーボールがきらめくダンスフロアで流れても不自然じゃない。『GANG』は、UKドリルをいま以上の高みに導く重要作だ。




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