Al Wootton『Witness』


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 イギリスのデッドボーイは、2000年代後半から良質なダンス・ミュージックを作ってきた。ダブステップ、ハウス、UKガラージなど、レパートリーは実に豊富。
 彼の作品で特にお気に入りなのは「Blaquewerk」だ。2013年にリリースされたEPで、スペーシーな音像が光るエレクトロ・ディスコ“On Your Mind‎”、ダークな電子音が全身を包みこむUKガラージ“Black Reign”など、多様な引きだしとそれを表現できる手腕が遺憾無く発揮されている。

 そんなデッドボーイがアル・ウートン名義でアルバム『Witness』をリリースした。まず耳を惹くのは、細かいところにまで手が行きとどいたサウンドスケープ。リヴァーブやディレイによるトリッピーな雰囲気はダブからの影響を感じる一方で、どこか近未来的なシンセの響きも飛びだすあたりはベーシック・チャンネルといったテクノが脳裏に浮かぶ。強いて言えば、2562が2008年に発表したダブステップ・クラシック『Aerial』に通じる折衷感覚だ。そういう意味では、往年のエレクトロニック・ミュージック・ファンは懐かしさを見いだせる作品だろう。
 筆者もそのひとりだ。本作に触れて、ヴェクスド『Degenerate』(2005)やマーティン『Great Lengths』(2009)など、2000年代のダブステップにおいて重要な作品群を久々に聴いてしまった。

 収録曲では“Over”が飛びぬけている。3拍目のスネアにアクセントを置いたUKガラージのビートで始まりながら、曲が進むごとにリズムが徐々に変化し、最終的には性急なジャングル・ビートに至る。それを巧みな音の抜き差しによっておこなうスキルは見事だ。


※ : 本稿執筆時点ではMVがないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。


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