2019年ベスト映画20


 2019年のポップ・カルチャーについてはベスト・アルバム50に書いたので、そちらをぜひ。ベスト映画の評価基準はそこで書かれているのとほとんど一緒です。ただ、映画の場合は今年日本で公開された作品を対象にしているので、本国では何年も前に公開済みの映画もあります。ご了承ください。

 今年観た映画を振りかえって感じたのは、立場や境遇の違いから生じる断絶に目を向けた作品が多かったことです。たとえば、バリー・ジェンキンス監督の『ビール・ストリートの恋人たち』では、性暴力被害者の女性に対する性暴力を受けていない女性の無理解が描かれていた。
 ただ、こうした描写はバリー・ジェンキンス作品の特徴でもあります。2016年の『ムーンライト』も、黒人コミュニティーのなかでも肌色の濃さによって扱いが異なることを示唆するシーンがあった。大雑把に“女性”や“黒人”で一括りにできない複雑さを描きつづけるバリー・ジェンキンスは、さまざまなステレオタイプを打破しようとする者が増えた現在と共振できるセンスの持ち主と言えます。

 とはいえ、その複雑さを描いた点では、1位に選んだ作品がダントツでした。筆者がブログやWebメディアで記事を執筆した作品は、作品名のところにリンクを貼っています。ご参考までにぜひ。



金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル)

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『金子文子と朴烈』

主体的でチャーミングな金子文子はもちろんのこと、“弱者”について考えさせられるのも魅力のひとつだろう。それなりに時代背景を把握している人ほど、そう感じるはずだ。



スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

今後は真実も嘘になってしまう現在におけるヒーローを描くのか? と思わせる内容だ。劇中での「覚悟」は、それと関係しているのかもしれない。



ベルベット・バズソー- 血塗られたギャラリー

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『ベルベット・バズソー : 血塗られたギャラリー』

芸術を食い物にする資本主義を風刺したホラー。ジェイク・ギレンホール演じる批評家は、業界あるあるな言動が見事でおもしろい。



キャプテン・マーベル

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『キャプテン・マーベル』

1995年を舞台にしているからか、1990年代の映画を引用した? と思えるシーンがいくつも。具体的には『マトリックス』や『メン・イン・ブラック』などだ。ナイン・インチ・ネイルズが大好きな人も必見。



『シンプル・フェイバー』

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『シンプル・フェイバー』

洗練されたテンポの良い展開に、B級映画的なジョーク・センス。『ゴーン・ガール』と比較されることも多いが、筆者は『デスパレードな妻たち』や『The O.C.』の匂いを嗅ぎとった。



『セレニティー:平穏の海』

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『セレニティー:平穏の海』

酷評の嵐だが、大切な存在を奪われたことから生じる連鎖的悲劇として見ればおもしろい点もある。マシュー・マコノヒーの狂気的演技も見どころ。



アベンジャーズ/エンドゲーム

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『アベンジャーズ/エンドゲーム』

神話。アイアンマンやキャプテン・アメリカなど、アメリカのパターナリズムを表象していたキャラが退場する展開は、未来志向で好感を持てるポイントだ。



映画『娑婆訶(サバハ)』

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『娑婆訶(サバハ)』

仏教やキリスト教などさまざま宗教要素を取りいれた力作。被害者の共通点に気づくくだりの粗は見過ごせないが、韓国が抱える新興宗教の問題を幅広い層に伝わるサスペンスに落とし込む上手さは拍手もの。



ブラッククランズマン

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ブラック・クランズマン

過去を通して、いまも蔓延る差別を皮肉っている。白人至上主義を肯定する『風と共に去りぬ』や『國民の創生』を引用し、差別と映画史の関係性を示すのもポイントだ。“作品に罪はない”といった言説に一石を投じている。



ユニコーン・ストア

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ユニコーン・ストア

子供時代の嗜好やフェミニティーを変える必要はなく、それを受け入れてくれる誰かと出逢うことで大人になれると示した物語。社会に馴れるよりも、自分の好きを大事にしようと囁くあたたかさが光る。



ジョン・ウィック - パラベラム

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『ジョン・ウィック : パラベラム』

シリーズ最高傑作。殺り方で笑わせるアクション映画という孤高の地位を確立している。馬の蹴りや執拗なナイフ投げなど、豊富な殺戮パターンに拍手。マイケル・マンを連想させる美しい夜の撮り方も光る。



シー・ユー・イエスタデイ

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シー・ユー・イエスタデイ

ベタなループものだが、そこに黒人史の要素を加えたのはおもしろいアイディアだ。警官に撃ち殺された兄を救うため、何度も立ち上がるCJの姿に、抑圧や差別を受けても繰りかえし戦ってきた先達を重ねた。



アイ・アイム・マザー

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アイ・アム・マザー

典型的なポスト・アポカリプスもの。脚本には粗も見られるが、巧みな心理描写で物語を転がしていく内容は見事だ。



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『ミスター・ガラス』

脚本は少々雑だ。とはいえ、“異常”とされる人たちが“普通”に合わせる必然性はないという見せ方は、少々ひねくれた形で多様性を尊ぶものであり、異色のヒーロー映画としての魅力を放っている。



ワイルドライフ

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ワイルドライフ

登場人物の状況を表すカメラワークや構図が秀逸だ。ラストの家族写真で真ん中に息子を置く意味がわかったときは、思わずホロリ。家族の在り方を問いかけてるのも良い。



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存在のない子供たち

法的には存在しない少年ゼインが突きつけるのは、私たちの罪だ。映画の本筋とは関係ないシーンも積極的に入れるなど、ドキュメンタリーの手法を活かす上手さが光る。



ザ・レセプショニスト

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ザ・レセプショニスト

イギリスの違法風俗マッサージ店を舞台にした作品。貧困、性暴力、移民、男尊女卑などさまざまな問題に切り込んでいる。随所で美しい風景もあるからこそ、お店で働く女性たちを取り巻く環境の悪辣さが際立つ。



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ビール・ストリートの恋人たち

何かしらの飛び抜けた能力を持たず、多くの人が気にも留めない平凡な人たちの物語。そういう人たちが不公平と戦い、そのために一線も越えて得たものは、現代が抱える歪な構造を示している。



アトランティックす

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『アトランティックス』

若い恋人たちのラヴストーリーを神秘的に描いた作品。映像作品だからこそ可能なぶっとんだ想像力は、ドラマ『The OA』を彷彿させる。ファティマ・アル・カディリが手がけた音楽も素晴らしい。



アス

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アス

人種問題にくわえ、アンダークラスといった階級の問題を盛りこんだ傑作。“1986年”も重要なキーワードだ。レーガン政権の税制によってアメリカの貧富格差が広がったのは、誰もが知るところだからだ。とても野心的で、映画に詳しいだけじゃ理解できない映画。




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