パンク・ロックを発明したのは韓国の女の子たちだ Sailor Honeymoon「Sailor Honeymoon」


「Sailor Honeymoon」のジャケット

 Sailor Honeymoonは韓国のパンク・バンド。メンバーは、Abi Raymaker、Shin Zaeeun、Mio Siの3人。彼女たちの存在を知ったのは去年10月、YouTubeにアップされたある動画を観たときだった。このレヴューを執筆時点では再生回数200にも届いていないが、演奏を楽しむポジティヴさと社会の規範に収まらんとする気骨が共立していて、そこに惹かれた。
 それからは彼女たちのことを熱心に追っている。Meaningful StoneやHUNJIYAといった韓国のインディー・アーティストと交流があることなど、追うなかでさまざまな背景を知った。彼女たちについて知れば知るほど、鳴らしている音楽が秘める可能性とおもしろさにハマり、抜けだせなくなってしまった。

 そのハマり度合いは、デビューEP「Sailor Honeymoon」を聴いて、より深まった。8曲が収められた本作は、1〜4曲めが既発曲、5〜8曲めが新曲という構成になっている。ゆえに新鮮味や流れの妙が少々欠けているものの、それを補って余りあるメロディー・センスの良さと痛快な言葉選びが際立っている。
 ギター、ベース、ドラムをメインの音色にしつつ、アレンジは豊かなのも見逃せない。ソニック・ユースを想起させるラウドなギター・サウンドが印象的な“Cockroach”、ラモーンズなどクラシカルなパンク・バンドが脳裏に浮かぶ“F××k Urself”など、曲ごとに違った表情を見せてくれる。一本調子ではない曲群からは、豊富な引きだしを持つバンドであることがうかがえる。

 筆者は本作をライオット・ガールの文脈でも楽しんでいる。保守的な男装女卑が根強い韓国に対する反抗心を随所で覗かせる歌詞は、フェミニズムの視点があると言っていい。韓国人の彼氏を主人公に、PMSの女性を見てパニックになる様子が歌われる“PMS Police”などはわかりやすい例だ。
 彼女たちのグッズには、〈KOREAN GIRLS INVENTED PUNK ROCK NOT ENGLAND(パンク・ロックを発明したのはイングランドではなく韓国の女の子たちだ)〉と書かれたTシャツがある。このフレーズを見て、かつてのキム・ゴードンを連想した人も多いだろう。おそらく、あなたや筆者も含めた私たちの連想は正解だ。Sailor Honeymoonの音楽には、これまでさまざまな女性の表現者たちによる戦いと成果が受けつがれている。



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