恋愛至上主義ではない恋愛ドラマ『愛と、利と』


『愛と、利と』のポスター

 2023年2月9日、韓国ドラマ『愛と、利と』の最終回が放送された。KCU銀行ヨンポ店で働く4人の男女を中心としたメロドラマである本作は、恋愛至上主義ではない恋愛ドラマと言える作品だ。スヨン(ムン・ガヨン)、サンス(ユ・ヨンソク)、ミギョン(クム・セロク)、ジョンヒョン(チョン・ガラム)はそれぞれの恋愛模様を見せてくれるが、4人とも誰かと結ばれることなく物語は終わる。

 本作を観て特に興味深いと感じたのは、さまざまな解釈ができるエンディングだ。スヨンとサンスが互いに好意を持っているのは確かなのに、愛だけでは結ばれないと言わんばかりの幕引きは、恋愛ドラマとしてはほろ苦いものだろう。
 しかし、最終回の終盤で数多くの“たられば”を振りかえりながら共に歩くスヨンとサンスの姿は、愛や友情といった既存の言葉では計れない深い共鳴も見いだせる。そういう意味では愛や友情にとらわれない新たな心の繋がり方を示したとも評価できる。この点こそ、恋愛至上主義ではない恋愛ドラマと本作を形容したくなる理由のひとつだ。

 最終回の終盤に限らず、本作は恋愛において輝かしいとされる瞬間をそうではないと描くシーンが目立つ。スヨンとジョンヒョンが一夜を過ごした後の場面では、スヨンがどこか満足そうではない表情を浮かべる。ミギョンとサンスのデートシーンでも、楽しそうに振る舞うミギョンの傍で、サンスは引きつった笑顔や浮かない表情をたびたび見せる。これらの描写は、恋愛ドラマにオルタナティヴな見せ方をもたらしたという意味で高く評価できるところだ。酸いも甘いも噛みわけた者だけが辿りつける、従来の枠組みに収まらない情動や心の繋がりを描いた本作は、とても野心的な良作と言っていい。



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