(23)【実録】66歳と310日目の免許合宿(その6)


6月27日(第13日目)雨→くもり

朝6時半に起きて暗記作業をする。今日は4回目(最終)の「効果測定」がある。(本当にハードだと思いませんか?)

久々に梅雨らしく本格的に雨が降っている。
8時には寮を出て学習室でさらに暗記作業を頑張り、10時からの「高速道路運転」講習を待つ。
それは10時からほぼ3時間をかけて、3人の受講生(私と見知らぬ教習生2人)が交互に高速道路上を運転するというものである。教習所から高速の入り口まで約20分かかり、サービスエリアでの休憩もあるので、実質1人あたりの高速での運転時間は20~30分間ほどとなる。

朝方の雨は教習所を出発する頃には小降りとなり、高速入り口に着いたときは晴れ間が覗いた。
教官からは高速道路に入る前に、
「必ずこのふたつだけは、どんなことがあってもやらないで下さい!」
「誓って守って下さい!」
と真剣な指示が出る。
「絶対に、急ブレーキは踏まないこと!」
「絶対に、急ハンドルは切らないこと!」
教官は真顔でおっしゃるが、教習生側にとっては、『遵守する気持ちは100パーセント以上あるけれど、自信がないよ・・・。本能的に反射しちゃうよ!』とみんな思っているに違いない。

最初はロングヘアー女性の運転である。入り口から本線に入るときは、後部座席でありながらも、私はそれなりに緊張し久々に手汗を感じた。この緊張は『まだ免許も持っていないヤツの運転で、高速に入るなんて信じられない!大丈夫かよ?』というものだが、教官は平然として「もっとスピードをあげて!」と指示を出す。『おい!おい! 死にたくないよ! こんなところで!』と突っ込みたいけれど。
幸いにも他に車がほとんど走っていないので、直ぐに緊張感はなくなっていったが・・・。
20分ほど走ると出口があり、そこから一般道へ。

運転が私の番となり逆方向の高速入り口へ。本線に入る瞬間は後部座席から見ていたのとはまったく違う恐怖感と緊張感を感じたが、この辺りも他に車がいないのでスムースに入ることができ、さっそく100キロ近くに。いざ走ってみると、緊張感がなにか快適感として感じてくる。『なるほど!いいものだ!スピード狂の気持ちも有りだな!』と。いい気分で走っていたら大型トラックに接近した。スピードを落とし車間距離を少し開けようとすると、教官が「追い抜きなさい!」との指示。やむを得ず100キロオーバーで追い抜き車線に移り、追い抜く。『よく素人の人間にこんなことさせるよ!』と内心呟く。治まっていた手汗がまた噴き出た。『教官は仕事とはいえ、こんな素人運転手の横に平気で座っていられるな!』と感心する。もちろん教官席にはブレーキなども付いているが、何かあったときの生徒の急ハンドルや急ブレーキなんて絶対避けられない筈だが・・・。

そうこうしているうちにサービスエリアがあり、20分間の休憩。
教官もタバコを吸うので喫煙場所で雑談する。
「素人の運転で平気で横に乗っていますね! 今までに事故なんてなかったんですか?」
「いや、平気とは言わないけど大丈夫ですよ! 危ないと思ったら事前に対処しますから」だって。凄い自信をお持ちでした。
帰りは3人目の女性が運転して、午後1時前に,全員無事に教習所へ帰還。


午後2時からは最後の「効果測定」を受ける。                 
4回目ともなれば慣れたもので、画面に向かい直ちにパスワードを入力して始める。
相当の努力をしたつもりなので自信は十分にある。全問解答し全問正解だと信じ満点期待で「採点」ボタンをクリックすると「90点」と表示。
『えっ、そんなバカな! 5,5,5点も足りないじゃないか!(合格ラインに)。また同じ作業をするのかヨ・・・』(ガクッと上半身が崩れる)
そのショックに耐えながらも、画面の左下隅を見ると「合格」と小さく表示されているのが目に飛び込んできた。
『えっ、どうして? どうして? 95点以上でしょ? 合格は? パソコン故障?』
それでも画面の下には「合格」と表示されている。こわごわ恐る恐る受付にそろりと行き、やや小さな声で「終了しました」と告げると「おめでとうございます!」と事務嬢がにっこり微笑んでくれた。
『本当に合格だったんだ! 万歳! 万歳!』と心の中で本気で叫ぶ。その事務の女性が天使のように見えた。
完全に勘違いをしていた。「90点以上」で合格なのに「95問出題」がいつの間にか「95点合格」と頭の中でチェンジ。本当に驚いたものの、何はともあれ、これで「学科」からは解放されたのだ。

恐怖や緊張感、それに一時の失望感と蘇る喜びと、大変複雑な1日であり、夕食は食堂を利用せず寮へと帰り、買っておいたおつまみや冷えたビールでひとり密かに「学科からの脱出」に「セル乾!」(セルフ乾杯)をした。

11時頃に酎ハイ片手に喫煙所に行くと、たまたま同期の茶髪タトゥと丸坊主ピアスが雑談している。以前の話から察すると未成年だと想像ができるが、タバコを旨そうに吸っている。ここまで来るともう同志であり、年齢や風貌も関係なく、話し合えるようになっていた。茶髪タトゥが「あっ、お酒だ!いいですね!」と羨ましそうにするので、部屋から冷えた缶ビールを2本もってきて二人にプレゼント。肉体的会社(建設関係)に勤めているせいなのか二人の飲みっぷりは見事。あっという間に飲み干し、全然足らないという表情。「貴重品だからもっと大事に飲めよ!」と言いたいが・・・。 仕方がないので今度はウィスキーポケット瓶をもってきて渡す。空いたビール缶に注ぎ一気飲みしようとするので、さすがに「待て!もっと味わって飲め!」っと。二人は素直にうなずき、私に向かってにっこり。その笑顔は今でも忘れない。


<第13日目受講内容>
   10:00~12:50 「高速技能」  14:00 「効果測定」  

<感想>
・もう完全に先が見えてきた。
残すは「卒業検定」に向けての「技能」だけとなった。
・最初に出会った頃は「こいつたち、何者?」と思うほど距離があった若                             者たちとも、今では平気で挨拶し、話し込むこともある。
・スマホばかりいじくっていた若者は、休憩時間を利用して自転車で気分転     換に港まで行ったのは良かったが、堤防からテトラに飛び移った瞬間、その  大事な大事なスマホが海の中にぽちゃりだとさ。その落ち込み具合は本当に気の毒だった。(きっと成績にも大きく影響しただろうなぁ?)

<追記>
・サービスエリアでは「非常電話」のボックスを開け、使用方法などの説明 があった。


6月28日(第14日目)雨→くもり

今日は明日の「卒業検定」への「技能みきわめ」がメインだ。
いつもと同じく8時には寮を出て、教習所で「法規」を忘れないために1時間弱学習する。
9時からは通常の「技能」、10時からが明日の「卒業検定」を受ける技能が身についているかの「みきわめ」があり、これも問題なく合格した。

午前中に終わってしまったので早い昼食を取り、昼頃には寮に帰った。
明日の試験に合格すれば、そのままこの教習場や寮ともおさらばとなるので、それを前提に荷物をバッグに詰めていく。可能な限り捨てられるものは捨てる。余ったインスタント食品やおつまみはお世話になった管理人夫妻に貰ってもらった。
しかし、もし不合格になったらまたここに戻ってこなくてはならない。その時は管理人夫婦にどのような挨拶をすればいいのだろうか? 貰ってもらった「おつまみ」は戻ってくるのだろうか?
ただひたすら合格を祈るだけである。

夕方5時過ぎには寮の共同風呂に入る。誰もいないのでゆっくりと久々の風呂を味わう。なんと、5日ぶりの入浴である。それだけ勉学に励んだということであり、決して風呂嫌いではない。
6時には再度、教習所を訪れ食堂で多分最後の夕食を取る。最初の頃はここの味にまったく慣れず困っていたが、もうすっかり慣れてしまい大変美味しく戴く。

食事をしながら考えた。
ホテル住まいのときに、フロントで教えて貰ったいくつかの中で一番に興味がある居酒屋が残っている。『このままパスして帰るのはあまりにももったいない!』
『家に帰るのが1日や2日延びようがまったく構わないし』
『そうだ! 明日は昼過ぎに終わる予定だから、もう一泊してゆっくりこの15日間のハードな想い出に浸りながら、美味しい地酒で祝杯を挙げ、地元の料理も腹いっぱい味わって明後日に帰ろう!』と決めた。

食事を済ませ事務室に行き、「(合格前提で)帰りの新幹線の切符を明後日のものにして欲しい」と頼むと、係の人が「この新幹線切符は、卒業検定の日しか使えなくなっています」と冷たい返事。少し粘ったものの「切符自体がそのように設定されているものなので事務所では一切変更はできない」という。いまだに何故変更できないのか不明だが、それならばと無料切符はあきらめ自腹で帰ることにした。
次はホテルの予約である。
「○○自動車教習所に通っている者で、先日までお世話になっていた△△ですが、明日一泊お願いできますか?」
「ああ△△さんですね。はい大丈夫です。生徒さんだから特別価格を適用しますので4650円でお受けします」
「あの、ちょっと申し訳ないのですが、明日卒業検定試験を受けるのですが、もし不合格なら寮に泊まるのでキャンセルになるのですが・・・」
「ああ、いいですよ。早めに連絡貰えれば大丈夫です。キャンセル料は戴きません」
準備万端である。あとはゆっくり眠り明日の「合格」を貰うだけだ。
寮に戻り11時にベッドイン。

<第14日目受講内容>
   9:00 技能  10:00 「技能みきわめ」  

<感想>
・本当に長いようで短い2週間だった。                  ・あんなに途中で帰ろうと度々思ったのが嘘のようであり、免許を手にし    た自分の姿が想像できる今は満足感しかない。
・それにしてもホテル一泊朝食付で4650円は安い。いわゆる普通のビジネスホテルである。狭さは感じるが立地条件や設備については大変気に入っていた。これなら貧素で不味い朝食も十分に納得できる。

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