(22)【実録】66歳と310日目の免許合宿(その5)

6月23日(第9日目)

女子学生団体が教習所寮から退寮したということで、今日から私も遂に「寮生活」となる。
最初から寮泊まりが条件だったので仕方がないが、今日まで滞在していたこのホテルは繁華街にあり、買物や飲み食いする店には困らない。それどころか、地の魚を中心に提供する旨そうな店がまだ多々あり、免許獲得にも必死ではあるけれど、飲み食いにも俄然興味が湧いてきていたのに本当に残念でならない。

寮には教習所入所初日に既に案内されており大体の雰囲気や状況は理解していた。
教習所からは徒歩5分もかからないけれど、なにしろ静閑な住宅街の真ん中にあり、周辺にはせいぜいジュース類の自販機がある程度である。寮の中にもカップ麺やジュースの自販機はあるが、タバコやアルコール類はもちろん販売していない。教習所サイドは、もっと入寮した人の気持ちやこの現実環境を察して、お酒やおつまみなどの自販機も取り揃えるべきだ。いろいろとリスクを考えすぎではないのだろうか? ここで不満ばかり言っていてもしょうがないので、実は昨夜、タバコや缶ビール、缶酎ハイ、ウイスキーポケット瓶、おつまみなどを大人買いした。大人買いは人生において最高に楽しい行為のひとつだ。

ホテルから、嵩んだ荷物を持って8時31分のバスに乗る。
10時から講習があるので余裕時間を「学習室」へ。私は真面目なのだ。
今日からは「学科」も1日に最大4時限となり「技能」も3時限となる。相当ハードなカリキュラムとなった。

疲れた! あーしんどい! もう駄目だ! くたくた! タイヤードゥ(tired)! など知っている限りの「疲労言葉」を並べても、並べきれないほどの疲れを頭脳にも肉体にも感じる。

すべての講習も終わりその重い体と頭脳とともに、夜8時に教習所から寮までゆっくりと帰る。荷物は事前に教習所の車で寮に運んでくれていた。
管理人から「101号室」の鍵と簡単な寮生活の説明や規則を聞く。部屋の掃除やシーツ交換はこちらからお願いをしないとやらないそうだ。しかも最大限3日に一度と決まっているらしい。

荷物をほどき、冷凍庫にアルコール類を急いで冷やした。ひたすら空きっ腹にビールを飲みたくて、教習所食堂での夕食は取らず、自室でゆっくりとアルコールとともに、おつまみとカップ麺の夕食にすることを選んだ。それらの準備をしながら、やむを得ず生暖かい缶ビールを一口飲む。生暖かさが邪魔をして旨くは感じないが、ようやくハードな1日が終わった実感とともに、少しの開放感を味わう。残りを一気飲みすると度数5度くらいのアルコールが心地よく体全体に行き渡る。
さすがに今日は疲れていたので、管理人に目覚まし時計を借りて風呂にも入らず早目にベッドに入った。


<第9日目受講内容>
10:00 学科  12:00 技能  13:00 学科  15:00 学科               17:00 技能  19:00 技能  

<感想>                                    ・一挙に「学科」と「技能」が3時限ずつになる。想定はしていたけれど            本当にハードな1日だった。
・寮はマンション造りの4階建てであり、共同だが風呂や洗濯の設備もあ       る。模擬問題ができるパソコンも2台がロビーに並んでいる。
・いちばんのお気に入りは、喫煙所が私の部屋から出ると直ぐそばにあったことだ。これなら深夜でも誰にも迷惑をかけずゆっくり吸える。
・管理人は中年夫婦が勤めており、人の良さそうな明るい二人で「静かな方がいいと思い、1階の端の部屋を取っておきました」と。ここでも老人扱いか。いとうれし。


6月24日(第10日目)

8時頃寮を出た。
9時からが最初の講習だったので、学習室でいつもどおりパソコンに向かう。法規学習も第二段階となり、また覚えることがどんどんと増えてくる。困ったことに新しいことを覚えようと頑張ると第一段階で一生懸命に覚えた事項を見事に忘れていくのだ。信じられないだろうけれど、これが老人脳の真実。老人脳は年々小さくなり更に硬くなり、何かを捨てなければ新しいものを吸収できないのだ。しかし、鍛えることにより、幾分かの柔軟性も得ることができるのだろう。真剣に取り組まないとこの記憶容量で合格を取るのはむつかしい。

本日最後の講習が5時に終わる。
寮の近辺にはまったく何もないので、いったん寮へ帰り、再度教習所に行き夕食をと思ったが、それも面倒なので早い夕食を食堂で済ませ寮へと戻る。
そして7時から12時まで、小さく硬くなった脳と闘いながら暗記作業をする。


<第10日目受講内容>
 9:00 技能  10:00 学科  11:00 学科  12:00 技能     14:00 技能  16:00 学科

<感想>
 ・アルコールが入ると勉強に集中できない。かといって、飲まないではいられない。(疲れをとるためにです)
「飲むのか、飲まないのか!それが問題だ!」と闘いながら結局、夕食前後に缶ビール1本を飲む。そして寝る前の体に熟睡を願ってアルコールを追加補充し1日が終わる・・・そんな繰り返しの日々となった。


6月25日(第11日目)

最短なら私はあと3日で卒業だったが、すでに1日の延長があったので、あと4日間の辛抱となる。
無事に終わり卒業して帰る日を夢見ながら、今日も重りのついた鎖を引きずりながら教習場へと足を運ぶ。
                                                                                                      
昨日と同じく8時に寮を出て、10時の第1時限まで学習室。
本当かどうか知らないけれど「受講生の学習室パソコンでの自主学習時間や内容を教習所側がチェックしている」という噂を聞いたことがある。「お願いだからそれは真実にして!」真実なら多分私はダントツの1位だろう。

今日も一日、ハードなスケジュールをこなし、教習所食堂で夕食を済ませ9時前に、ほぼ這いながらも寮に辿り着く。
下着の匂いも気になってきたので、余力を振り絞って洗濯をしてシャワーを浴びて、今日はこのまま寝る。おやすみなさい。


<第11日目受講内容>
10:00 技能  11:00 学科  14:00 学科  15:00 技能  16:00 学科  17:00 学科  19:00 技能

<感想>
 ・朝から晩まで教習所漬け。
 ・法規も第二段階となると覚えづらい項目が次々と出てくる。

<追記>
さすがにこの頃は、日記や記録の「量」が当初と比べて相当量減ってい      る。心身の疲れのせいだと思われる。


6月26日(第12日目)晴→くもり→雨→くもり

8時には寮を出る。9時から今日もハードな一日が待っている。
今日の第1~3時限は「特定教習」としての「応急救護」となっている。

畳敷きの10畳ほどの部屋に男女9人が3人ずつ3組に分かれ、チームとして講習を受ける。私は年配者ということなのか女性2人と組む。何故か老人の私は女性とばかり組まされる。教官の忖度なのか安全パイとして捉えているのか知らないけれど。残りは若い男たちばかりのチームであった。

講習のポイントは、事故などで倒れている人物に対しての処置の仕方ということになる。いわゆる「救急処置」である。救急処置用の上半身だけの模擬人形を使い、チームごとに模擬訓練をする。
教官はなんと私にあの2時限分の「技能追加命令」を下した、あの巨体汗かき女教官である。畳の上に座ると、あたかも「汗拭きダルマさん」のように見えるが、変な目つきで見るのは今回は控えよう。

教官から最初に「何故、免許を取ろうとしているのか?」という質問が全員にあり、一人ずつ答えていく。同期の茶髪のタトゥが「親と一緒に土建屋をやっているので免許が必要」、もう一人の同期の丸坊主ピアスも「工務店で働いているので会社命令で」、さらに同期のショートカットの女性は「二輪免許も同時に受けており、学生の間に車かバイクで日本一周するため」、ほかには「取れる年齢になったから」とか、「バイトして、お金も貯まったので」などなど適当である。最後に私の番になったが「免許持っていないコンプレックス」とはさすがに言えないので「女房の腰が悪く、病院への送り迎えが必要で・・・。年金生活でタクシーばかり使えなくて・・・」と、トーンを落として暗めに返事する。教官が「やっぱりね」と変に自分で納得していた。やはり私に対して『この年寄りが・・・』っと、不思議な目で今まで見ていたのが明白となった。それとも私の被害妄想的発想か?

救急処置内容を簡単に記すと以下のとおりであり、
1. まず、大きな声で「大丈夫ですか?」と被害者の耳元近くで叫び、仮に反応が薄いなら大声を出して可能な限り回りにいるであろう野次馬を呼び集める。
2. 集まった人々に協力を頼みさらに役割分担を決める。
110番や119番する人、安全な場所への移動手伝い、救急知識のある人を探す など
3. 出血していれば、何か適当なものを使い止血手当をする。
4. さらに気道の確保と人工呼吸を施す。
最後にはAEDを使って模擬上半身人形を相手に実地訓練をする。

ざっとこんな内容だったと思うが、これを各チームが役割分担を決め、やってみるだけである。狭い教習室で大声を出すのには抵抗感もあったが、別に女性とのチームだからといって何の役得もなかった。私が被害者役にでもなり、助けてくれるという設定ならば面白かったのに非常に残念である。

午後からは久々に教習所内での「技能」を二次限受講するカリキュラム。
最初は「方向転換」を主とした内容であり、狭い駐車場に車を入れてから逆方向に走らせる。ほぼ問題なくできたが、いろいろの意味での問題は次の「縦列駐車」である。休憩時間や寮のロビーの雑談で「一番やっかいだ!」と聞いていたので緊張感が走った。
しかしそれほど深く考えずに試してみたら、一発で上手く駐車できたではないか。やっかいというほどではなく、ハンドルを適当に回していれば、自然というか偶然に車が駐車範囲内に入り、回りのポールにも触れず、教官に「うまいですね!」と言われる始末であった。偶然にできたのと意識してできたのでは大いに違うのを、後々、しっかりと感じる羽目になるが。

まだ今日も終わらない。
3時からの3回目の「効果測定」を97点(100点満点)で合格し、夕方から「セット技能」と「セット学科」を受ける。
「セット技能・学科」とは、教官が助手席に乗り、後部座席に見知らぬ受講生2人が乗り、4人で路上を走る。運転は受講生がそれぞれ順番に行う。1人約10分間ほどである。後部座席の2人は運転している受験生の運転技術を教官のごとく観察し、良い点や悪い点をチェックして教習所に戻ったあと、お互いにその内容を発表するというような内容である。
同乗したのは早稲田大学の男性と社会人らしき女性だった。運転時術については突っ込むべきポイントは多々あるけれど、こっちが突っ込めば同様に突っ込まれると思い、ここでは大人対応で無言。結果的には3人とも意思が通じ合ったのか、それ程の意見もなく終了した。

<第12日目受講内容>
9:00~11:50 「応急救護」  12:00 技能  14:00 技能  
15:00 「効果測定」学科   18:00 「セット技能」                       19:00 「セット学科」


<感想>
・寮に移り、三食すべて教習所内食堂となってしまったが、不思議なもので  その味付けにも慣れて美味しく頂けるようになった。(食堂メシ!旨いぞ!)
・夕食時の「晩酌」なしにも慣れ、就寝前の「一杯」のみになった。
・皆さんこれは事実でもあり真理でもありますぞ。「悩む必要はない!人間 は苦しき環境にも、悪しき環境にも直ぐに慣れてしまう!」(この方が逆に怖いかも?)

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