(24)【実録】66歳と310日目の免許合宿(その7)

6月29日(第15日目)

今日は遂に「卒業検定」の日。                    合格を前提に、帰りの荷物が嵩張るので学校から迎えの車がこの寮に8時には来るという。                           そして退寮の挨拶も終え、車に乗り込み教習所へと向かう。

9時から「卒業検定」の説明を受ける。
 ・教官がブレーキやハンドルを補助したら一発アウト
 ・何らかの事故を起せば一発アウト
 ・停止線1センチオーバーでも一発アウト
 ・交通標識を見逃したり違反すれば一発アウト
さらに、一般道での検定のあとは教習所内で最後の技能検定があり、
 ・ポールに接触や脱輪も一発アウト

受験番号は「5」番。他の受験生2人と同乗し3人一緒に受験する。
10時スタート。
一般道の運転では、今までに散々練習してきた道路を中心に走り、途中で一度、停車の指示があり、幅寄せのチェックや停車しても問題がない場所なのかも試される。別にそれほどのプレッシャーもなかったのだが、全体を通して結果は、方向指示器出し忘れ2回と左折大回りが注意され、減点対象となったらしいが致命的ではなかったという。それ以外は順調だった。
次は教習所内に戻っての検定である。

今、思い出してもぞっとする。いや思い出したくもないし、詳しく書きたくもない。
なんと、最後の最後に「縦列駐車」が待っていた。
確かに縦列駐車はみんなが苦手にすることは知っていた。しかし今朝、寮のロビーで迎車を待っていたとき、どこからの情報かは知らないけれど、若者たちが「検定の最後に『方向転換』があるらしい。『縦列駐車』はない」と言っていたのだ。まあ、「ある」と聞いていても同じ結果だったろうが。

縦列駐車は練習時にはまったく偶然にも、1回でそれなりに出来てしまったので、繰り返しの練習もなく教官に褒めて貰ったくらいだ。ところがいざ本番となると、すっかりその要領も忘れ(もともと頭になかったのだが)、右往左往しパニック状態。見事に一発アウトのポールに接触。同乗していた教官が「あっ、もったいない!」のひとこと。すべてが終わった。その場で「技能補修50分」を宣言された。当然ながら、試験結果を示す電光ボードの「5」番は点灯しなかった。

混乱気味の頭で、予約していたホテルに電話をする。
「はい、承知しました。ただ、少し前に教習所様からご連絡を戴いておりまして、あなた様の個人予約はキャンセルしまして、教習所様予約に切り替えました。多分、本日はこちらにお泊まり戴くようになっていると思いますが、どうぞご確認してごゆっくりと・・・」
絶対的自信をもっていたので、不合格ショックが邪魔してしまって、こんな内容ですら、うわの空で聞き流し状態に。
「あ、そうですか・・・」

虚脱感を味わいながらも11時からの追加「技能補修」を受ける。内容はもちろん「縦列駐車」がメイン。教官いわく「本当にもったいなかったですね。一般道は少し減点があるけれど高得点ですよ。」と私のチェックシートを見ながら。
「しっかり頑張って明日の再試験、頑張りましょう!」
メモ用紙を取り出し丁寧に縦列駐車の要領を教えてくれる。3~4回繰り返し練習を行い、完全にその要領が身についたと自分ながら確信した。

事務室に行き補修受講の終わりを告げると、明日、再度の「卒業検定」を受けるように指示があり、今日は以前のホテルに泊まれとのことである。
「えっ、寮ではないの? 本当に!」
ここでようやくさっきのホテルの話を完全に理解した。
「あの寮ではなく、ホテル! 誰にも顔も会わせずに済むんだ」
一度に不安感や焦燥感も吹っ飛び、縦列駐車も問題なく出来ると確信できたので、今度は不思議と逆に余裕を持ち出した。不合格のお陰で、自腹払いをするつもりだったホテル一泊料金と明日の帰り新幹線費用がすべて不要になり、儲かった、儲かったと冷静に計算する。

教習場からホテルへ向かうバスに乗り込む。
まだ昼過ぎなのでバスには私1人しか乗っていない。
見知らぬ運転手が話しかけてくる。
「何かお仕事で教習所へ?」
「いや、いちおう、免許を取りに来たんですよ」
「えっ、失礼ですが・・・」
「もうすぐ67歳ですよ」
「えっ、えっ、本当に! そうは見えませんけど、本当、本当ですか?」
「ええ」
「67歳っていったら、私の知る限りこの教習場の新記録じゃないですかね。高齢者講習を除けば、聞いたことも見たこともありませんよ」
「へぇー、そうですか?」
「その年でチャレンジするなんて、本当に心の底から尊敬しますよ! 私はいま65歳ですけど、もうそんな情熱やパワーなんか、これっぽっちも残っていませんよ。でも、うれしいな! 同世代の人がこんなに頑張っているなんて! あっ、何でも申しつけて下さいよ! 私に出来ることがあれば何でもお手伝いしますよ。出来れば今夜一緒に一杯やりたいなぁ!」
とやや興奮した口調で一方的に話しかけてくる。
まさか楽しみにしていた最後の夜を、赤の他人と過ごす気は毛頭なかったので、「是非、どこかで機会があったら」と体よく断った。

お礼を言いながらバスを降りホテルに向かう。
「残念でしたね、ゆっくりして下さい」とロビーのカウウター越しにマネージャーが微笑んでくれる。その微笑みに隠された真意は? 考えすぎか?

久々のホテルのベッドに倒れ込み、不思議とやり遂げた感が心底から湧き出でてくる。
明日の「卒業検定」は100パーセント合格する自信があった。昨日の路上運転はほぼ問題なかったし、縦列駐車もあれだけ練習したのだから要領は身についた。
「今日の不合格は逆にラッキーだったのだ! お陰でもう一泊できて、ゆっくりと想い出に浸れるし、あのどうしても行きたい居酒屋にも行けるし、延泊宿泊費も帰りの新幹線代も個人負担がなくなったし」
「最短の14日間が16日間になっても、たかが2日間延びただけ」
「同期の連中もほとんど1~2日づれと言っていたし」
もう完全に合格を前提したポジティブ発想になっていた。

夕食はどうしても行きたかったあの居酒屋を訪れ、たらふく飲んで食した。
活き甘海老の躍り食い、活き鱧の湯引き、名産の枝豆、地鶏のつくね焼、地元野菜のごった煮、有名地元牛のミニミニステーキなど、本当に喰った。6944円なり。

<第15日目受講内容>
   9:00 「卒業検定」 → 不合格

<感想>
・私にとって、突然の大雨から晴天に!


6月30日(第16日目)くもり

今日は自分的には本当の最終日。
8時31分のバスに乗り二度目の「卒業検定」を受ける。
9時から始まり、昨日と同じ要領である。今日は受験番号「4」
一般道を走り、ウィンカーの出し忘れもなく、大回りもしなければショートカットもせず、完璧で教習所内へ。
そして遂に来た「縦列駐車」だ! 当然ながら完璧!                
結果発表を待つ。
10時45分、電光掲示板には「4」が大きく燦然と今日は輝いた。
涙こそ出さなかったが、本当に涙ものである。
よくやった自分を心の底から褒めたい。
このあと、卒業に当たり簡単な説明があり、合宿16日目でようやく解放となり自由の身になった。

12時の帰りのバスに乗り込む。今日は「ホテル近く」でなく、終点のターミナル駅までもちろん行く。この運転手さんが昨日の運転手。合格を報告すると我がことのように喜んでくれた。名残を惜しみながらバスから新幹線へと。
駅で買った缶ビールとおつまみで再び祝杯を挙げる。
家族にはメールで知らせ、妻には「夕食はステーキとポテトサラダ、大量のキャベツの千切りも」と頼み、東京を目指す。
夕方には無事に家に着き、風呂に入り、旨いビールと料理で腹一杯となり、充実した最終日となった。


<第16日目受講内容>
   9:00 「卒業検定」(2回目の) → 「合格」 

<感想>
 ・知っている人も知らない人も、本当にありがとうございました。


(次回完)

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