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田原イコール物語18 機械論と生命論のはざま

自己組織化を中心に据えて立ち上がった与贈工房は、「自己組織化コミュニティの作り方」で出会った仲間を巻き込んで数十名のコミュニティへと拡大していった。活動は完全オンラインだったので、国内外の様々なところから参加していた。僕自身もマレーシアのペナン島から参加していた。

自己組織化が起こるファシリテーションとは何か?という問いがあり、工房ー工場ー変容と三つ巴で巡る原理が、ぼんやりと中心に据えられていた。

まずは、自己組織化ファシリテーションの濃縮液を作り、それを、学習、組織開発、コミュニティ開発、ソーシャルなどへ展開していこうということになり、濃縮液を作る対話を繰り返した。同時に、自己組織化の原理や実践を企業に提案できるレベルのものにして、B2Bの仕事を作っていきたいという希望もあった。B2Bの仕事があることで、収益化が容易になり、コミュニティメンバーが経済的に持続可能になるからだ。

僕がなじみのあるフィールドが学習だということもあり、最初にリリースしたのが、自己組織化ラーニングファシリテーター(Self-organizing Learning Facilitator=SLF)講座だった。76ページのテキストを作り、自分が考えるラーニングファシリテーションを体系化した。その中でもこだわったのは、オープンスペースの質だった。これを、「何も構築されていない無駄」と捉えるのか、「力に満ちた可能性の場」と捉えるのかは、捉える人のパラダイムに依る。どちらが正しいのかではなく、フェーズによって捉え方が変わるのではないかと考えた。

試行錯誤を繰り返す工房フェーズでは、ある程度の余白があり、そこにアイディアが降りてきて構築が進んでくる。問題設定が固まり、品質向上の指標が定まれば、工場フェーズに移行し、無駄をなくして最適化、効率化していく。再現性のあるナレッジを蓄積してベストプラクティスを手掛かりに改善していく。しかし、それがいったん行き詰れば、フレームを手放し、オープンスペースを開いてカオスの中で出現する未来から導かれるプロセスをやる。これが、変容フェーズだ。

様々な受講者が集まりスタートしたSLF講座だったが、参加者はそれぞれ得意なフェーズがあり、専門家として身に着けてきた信念があり、一家言ある人たちだった。その人たちと対話することで、自分にはない視点を得ることができたが、信念対立に陥ることもあり、なかなかタフなプロセスだった。対立を対立で終わらせるのではなく、それを超えた向こう側の景色が見たかった。「そんないい加減なんじゃ、企業相手にお金を取る資格はない」という声や、「すべてを再現可能なプロセスで埋め尽くしたら、生命論的な世界を目指す活動にならない」という声が飛び交う中で、大きく揺れた。

企業や大学向けの仕事もさせてもらった。北九州市立大学を中心としたenPiT everiというリカレント教育プログラムの中で、オンラインフューチャーセッションのプログラム開発をし、社会人受講者と一緒にフューチャーセッションを企画した。これは、自己組織化ファシリテーションの工房フェーズの取り組みという位置づけだった。グロービス学び放題のオンライン学習コミュニティの立ち上げもやった。セブンイレブンの新規事業D-stadiumの中の学習コミュニティ、ゼロ磁場の開発も行った。これらは変容フェーズの取り組みという位置づけで、学びと気づきが起こるオープンスペースを作るための実践だった。

コロナ前であったが、オンライン化の波が少しづつ押し寄せてきていて、「Zoomオンライン革命!」の著者というポジションで、少しずつオンラインワークショップや、オンラインコミュニティ開発のB2Bの取り組みをすることができるようになっていた。

しかし、企業の論理と、自分たちが実現していきたい生命的なパラダイムとの間の差が大きく、企業向けに仕事をすることと、自分たちの想いを追求することとの間で、どのようにバランスを取っていったらいいのか、悩む日々が続いていた。理想論を掲げるだけでなく、実践をしていきたいと思っていたので、これらは、必要としていた悩みではあったが、なかなか統合できないでいた。もっと企業側の論理や事情を理解する必要があることを痛感した。

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