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小説を通して対話する!フィクション・センタード・ダイアログ(FCD)

人と人とが共に生きる社会になるためには、一人ひとりが自分を充実させると同時に、他者との関係性を充実させる必要がある。関係性の充実によって、自分の内面の構造が複雑化していき、それを咀嚼することによって構造が組み変わる。

その繰り返しによって、私たちの内面と関係性との両方が複雑さを増し、有機的にネットワーク化すると、「他者と共に生きる自分」が充実していくのだろう。

他者から分離して自分だけを充実させていくと、限られた資源を奪い合う椅子取りゲームのプレーヤーとして最適化される。いわゆる新自由主義の個人である。

ゲームの勝者になっても敗者になっても、虚しいだけだということを直観した人たちが、関係性の充実を通して他者を内包し、社会を自分ごととして生きる個人を目指しはじめている。それが、これから出現する参加型社会における個人だと私は思う。

自分の充実と関係性の充実を進めていくために必要なのが、対話(ダイアログ)だ。

人間は、自分の境界を維持し内部の秩序を維持したいという欲求と、境界を超えて他者と分かり合いたいという欲求の2つの異なるベクトルを持っており、それらの間で揺れ動いている。

危険を感じると、戦う、逃げる、死んだふり、というような防衛本能が立ち上がりやすくなる。前者の欲求が後者の欲求を凌駕し、境界を固めて自分の殻の中に閉じこもる。

一方、安全だと感じると、防衛本能は収まり、境界を超えて外部を探索しはじめる。安全だと感じたカタツムリはつのを伸ばすが、危険だと思うと殻の中に閉じこもる。それと同じ働きを人間も持っている。

対話とは、自己の境界を超えて相手の世界を探索し、異質な他者の要素を自分の中に持ち帰る行為である。だから、対話が成立するためには、いかにして防衛本能が立ち上がらない状態を維持するかが大事になる。状態の維持には、各自の受け止め耐性という内的側面と、環境という外的側面とが関係する。

対話の場づくりの工夫には、いろいろな方法があるが、共通するのは、「防衛本能が立ち上がらない状態を維持する」という仕掛け、いわゆる「安心安全の場づくり」である。

もう一つ、大事なポイントがある。それは、どうやって「自己の境界を超えて相手の世界を探索」するかということだ。私たちは、通常は、出来事を「自分の世界の中で」意味づけている。自分劇場の中に流れているナレーションで理解しているのである。

「自己の境界を超えて相手の世界を探索」というのは、相手劇場を訪問し、そこでは、同じ出来事について違うナレーションが流れていることを実感し、相手の文脈に沿って世界を体験することである。それは、エンパシーと呼ばれる共感である。

対話を通して、自分の世界が複雑化していくのは、エンパシーを通して他者の世界を体験するからだ。しかし、それをやるのを難しく感じる人は多いし、その聴き方を伝えるのも難しかったりする。でも、小説世界の中で、私たちは登場人物に感情移入し、小説の世界を体験する。それは、疑似的なエンパシー体験だと言える。

小説を通して対話すれば、エンパシーが得意じゃない人でも、対話ができるきっかけを作ることができるかもしれない!

そんなアイディアからこの企画が生まれた。

今回、小説を通して対話をすることで、次の2つが実現できるのではないかと仮説を立てた。

1)小説世界について話すことで安心安全の場を保ちやすくなる。

2)他者の世界の探索(エンパシー)が、効果的に行える。

Facebook、note、Twitterなどで、次のように参加者を呼びかけ、3回のオンライン対話会を実施した。

延べ約100名の方が参加して下さり、2つの仮説について理解を深めることができた。

今後も、対象や設定を変えながら、試行錯誤を継続していく予定だが、「小説を通して対話する」という方法に名前があった方がよいと思い「フィクション・センタード・ダイアログ(Fiction Centered Dialogue: FCD)と名づけた。

今回行った3回の対話会を第1フェーズとして位置づけて総括し、FCDの可能性探究の第2フェーズを見通したい。

課題図書に用いたコンテンツ

人や作品との出会いは、新しいアイディアを生み出す。「この人と一緒に何ができるだろうか?」「この作品を使って何ができるだろうか?」と考えるところから、これまでとは違う発想が生まれるからだ。

今回、FCDという構想を得るきっかけになったのは、小説『ジミー』と出会いだった。『ジミー』は、参加型出版の流れの中で出版が予定されている作品であり、コラボレーションできる状況にあった。そのため、著者と出版社とも話し合いながら、著作権などの現実的な制約をクリアして企画することができた。

非暴力アナキストとしての自分の活動と、『ジミー』とを掛け合わせたら何ができそうか?という発想から、「物語を通して考える!社会を非暴力化していくための連続対話会」という企画が生まれ、「疎外」「アイデンティティ」「多様性」という対話のテーマが設定された。

今回のFCDが成立し、一定の成功を収めた理由を、コンテンツ面から分析すると、次の2つにまとめられそうだ。

(1)誰にとってもイメージしやすい状況設定(学校)であり、文章が平易で理解しやすく、1-2時間で一気に読めるストーリーである。

(2)多層的な文脈が入っていて、いろいろな角度から読める。

(1)が、読書のハードルを下げるための条件であり、(2)が、対話が深まるための条件である。読むのに何日もかかったり、難解で読んでも分からないという本だとFCDには使いにくそうだ。

また、対話会の中で、物語が単層的だと「道徳の授業」のようになるという話が出た。(2)が満たされないときは、「道徳の授業」のように、課題図書から「教訓」を受け取るような感じになり、FCDで目指しているものとは大きくずれてしまう。

「読みやすく、長すぎず、読書のハードルが高くないが、多様な観点から捉えられる複雑さを内包している」という条件を満たしている小説が、課題図書として使いやすそうだ。

FCDが成立するための課題図書の条件は、様々なチャレンジの中で、今後、より明確になってくるだろう。

今回は、著者と出版社との繋がりがあったため、原稿PDFを参加者に無料で配布し、参加費無料にして、約100名と実験することができた。

より一般的にFCDを実施するためには、参加者に一般書籍を購入してもらい、その本を使ってFCDを実施するパターンが中心になるだろう。

その場合、書籍購入費、会場費、運営費などを上回る体験価値を事前に説明することが必要になることがある。

本記事を含め、FCDの価値を言語化することは、今後の展開のためにも重要になってくるだろう。

第1フェーズの場のデザイン


第1フェーズの目的は、最初から明確だったわけではない。直観的にスタートした後、動きながらゆっくりと以下の2つに固まってきた。

目的1:多様な属性の人がFCDをどのように経験するのかを検証し、効果的な対話が起こるようにプログラムを改善する。

目的2:参加者の中でFCDの場づくりの可能性を実感した人とコラボレーションし、第2フェーズへ繋げる。

多様な属性の人に参加してもらうために、Facebook、note、Twitterで広く呼び掛けた。その結果、約100名の方が参加してくれた。

3回の対話会のテーマを「疎外」「アイデンティティ」「多様性」と設定し、対話会の時間を60分と短めにすることで、参加のハードルを下げた。

ZoomとFacebookを組み合わせた60分間の対話会は、次のように実施した。

事前に課題図書『ジミー』のPDFファイルをダウンロードし読んでから参加する。

1)ファシリテーターが対話会の意図を説明する。(5分)

2)その日のテーマに関してファシリテーターがどのように読んだかを図解しながら話す。(10分)←語りを触発する意図

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3)3-4人のグループに分かれてテーマについて対話する。(20分)

4)全体に戻り、グループ対話での気づきをFacebookグループのコメント欄に書き込む。(10分)

5)全体対話(15分)

対話会後、対話会の感想をFacebookグループのコメント欄に書き込む。

各回の様子を録画し、参加者のFacebookグループ内限定で共有した。動画の共有は、初めて参加する人の不安感を解消し、「これなら参加できそう」と感じて2回目以降で参加してくださった方もいた。

一方、60分だと、一人ひとりの声を聴きあったり、内容を深めたりするには短すぎるため、Facebookグループへ書き込んでもらうことで、一人ひとりの声をお互いに受け取れる機会を作る工夫をした。

各回の参加人数が30-50名程度だったので、全体対話で深めるのは、ある程度あきらめて、いくつかの視点が出てくれば良しとした。その代わり、終わった後に、各自がコメントを読み合って深まった気付きを、感想欄にテキストで書いてくれるようにすることで、内容の深まりの要素を補うことにした。(この部分は、それほど機能しなかったので、要改善)

参加者がFCDをどのように体験したのか、対話会の中での書き込みからリアルタイムでの体験を、対話会後の感想の書き込みから、思考の深まりを読み取って、一人ひとりの体験がどのようなものであったのかを考察することができた。

また、FCDの場づくりの可能性を感じてくれた7-8名の方と、その方の関心と重ね合わせたFCDの場づくりの議論をスタートした。

また、FCDの対話会を、参加者の方のコミュニティ内で実施する企画も、いくつか立ち上がった。

参加してくださったみなさんのおかげで第1フェーズの2つの目的は達成することができた。本当にありがとうございました。

第2フェーズでやっていきたいこと

FCDをやってみて、発展の方向として2つあると感じた。

方向1:物語世界の中で対話するワークショップ

方向2:物語に触発されて出てくる感情を扱う対話

方向1は、演劇的な手法などを使って、直接、個人的な体験を扱わずに深い内容について対話するというものだ。個人的な体験を語らないことで安全性を確保しつつ、物事の捉え方を変えるヒントを得られるような体験ができるようなデザインを、可能性を感じてくれた人たちと一緒に検討している。

方向2は、やってみて気づいた可能性だ。当初、考えていたのは方向1だったが、実際にやってみると、物語世界の中で語るだけでなく、参加者から様々な感情体験の語りが生まれた。これは、自然なことだが、感情体験の語りは、否定的な感情も含まれるためリスクが発生する。

それを安全に扱うには、グランドルールの設定や、場のデザインが必要になる。ファシリテーションの世界には、そのための叡智も蓄積しているので、それらを活用して場をデザインする方向もある。

第2フェーズは、第1フェーズの参加者の中で可能性を見出してくださった方と2つのやり方でコラボレーションしていきたい。私の問題意識と『ジミー』の掛け合わせで今回の企画が生まれたように、あなたの問題意識と『ジミー』との掛け合わせで、新しい企画が生まれるはずだ。新しい出会いは、新しい可能性を生み出していく。

コラボ1 その方の関係性ネットワークで、今回やったFCDの改善版を試してみる。

コラボ2 方向1or 2のプログラム開発をコラボレーションによって進める。

最後に

ここまで書いてきたように、この企画は、作品との出会いから発想し、直観に従って始めたものだ。

しかし、約100名の方と一緒にやってみたことで、「ここには、何かある!」という感覚が生じ、新しい可能性がたくさん見つかってきた。そして、「何が起こっているのか?」「なぜうまくいっているのか?」を、やりながら考察することになった。

第2フェーズに入っても、試行錯誤は続き、新しい人との出会いも生まれ続ける。

まだ漠然としか見えていないが、直観的に捉えられているFCDの可能性を、探究していこうと思う。

FCDの可能性を感じた人は、声をかけてほしい。あなたの可能性とFCDを掛け合わせることで、お互いの可能性が拡大するのだから。

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