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マンホールからベンガルトラまで その6

象の雄叫び


お昼ご飯はホテルに食べに帰った。
そして午後からはいよいよメインイベントのエレファントサファリだ!

しかしあいにくの急な雨の土砂降りで一気にテンションがダダ下がり。
でも雨が降っても中止になるものではないらしいし、やめるわけにもいかない。
ゴミ袋でカメラバッグを防水して、カメラは折り畳み傘で守ることにした。
 
乗り場までホテルの車で送ってもらって、これから象に乗ろうと言う時に雨が止んで太陽さえ出てきた。よかったー、ラッキー!
雨降ってたら写真撮るの大変だもんね。青空が広がってきて、一緒に待っていた人達の顔も晴れやかだ。
 
象に乗るためにはまず四メートル程もある台に上る。今まではジョンとクリスの二人と一緒だったが、今回は別々の象になってしまった。人数の関係だろう。

象には象使い以外に四人乗ることが出来る。
四角い木枠の隅の枠にそれぞれが股を挟むようにして座る。
全員が背中合わせになって外を向く形だ。
私が乗る象のメンバーはふくよかな老齢の白人が三人。
男性が一人、女性が二人でみんな大柄だった。
先に三人が乗り込むと、最後にはこの隙間に入れるのか?というくらいの空間しかない。
「ソーリー‼︎ 」と笑いながら満員電車の要領で体で体を押し退けて、めり込むように何とか木枠に収まった。ぎゅう。肋が締め付けられて痛いんですけど。足で空間を作りなんとか痛みを回避する。
象の左後ろ側の位置だ。

結構高いので乗り込むときは怖い


ジョンとクリスの乗った象のすぐ前を行く形になったので、彼らの様子はとてもよく見える。日本に帰ったら象に乗った写真を送ってあげよう。
その後、彼らの乗った象とはバラバラになってしまった。

楽しそうなジョンとクリス


象の背中で大きく揺れながら川に入ったり森の中を歩いたり。

うわー、楽しーい!

川にはいるときは角度が前のめりになってウオーっと木枠にしがみつく。でも乗ったメンバーが大柄で木枠にしっかりハマっているので私が落ちる心配は無さそうだ。

森では顔にバシバシと木の枝葉が当たりまくる。老婦人の一人はもう手で顔を隠してしまっている。
アウトドアに慣れないご婦人には辛いだろうね。
 
象が言うことをきかないと象使いが鉄のカギ棒でぶっ叩くのが衝撃的だった。
そのくらいしないと皮膚の厚い象には効かないのだろうが、ものすごく痛そうだ。
動物愛護団体に訴えられないのかしら。
象使いによってはそんなにヒステリックに叩かなくてもいいのにとこちらが止めたくなるくらいだ。
 
一度、森の中で空間の広がっているところに出た時に突然隣りの象が森中に伝わるようなけたたましい叫び声を出してこちらへ向かって暴走してきた。

やべえと思ったが、象の上では何も出来ない。出来ることは木枠に掴まることくらい。
ドスドスと足踏みをしながらこちらの象のギリギリで止まったが、興奮状態で体を震わせながら鼻を鳴らしている。

こ、こぇぇ…

まさにその暴走象の上に乗っている中国系の女の子などは髪を振り乱して半泣きで木枠にしがみついている。

その後、その象は大人しくなったみたいだったが。
どうしてそうなっちゃったんだろうか?

関係あるかわからないないけれど、私はカギ棒で叩かれる仕打ちに耐えかねて暴走したのかもなと思った。
その時森中にこだました象の叫び声が「もうこんなことやってらんねーんだよ!」と言っていたように思えてならなかったのだ。
 
おそらくは一時間以上象に揺られていただろう。この鮨詰め満員電車状態で一時間はちょっと長かった。脇腹の痛みも限界だ。

頼むから降ろしてくれと思った頃、最初に象に乗った台が見えてきた。一周してきたんだな。

結局鹿が数頭見れただけで動物撮影としての収穫は無かった。

後からジョンとクリスに聞いたらサイを近くで見ることができたと言う。

うーん、あっちの象のほうが当たりだったか。
しかし、それも時の運だ。

 
その夜、食堂でジョンとクリスが明日この地を去るという事を聞いてびっくりする。
なんだかいつまでも一緒にいれると勝手に思ってたけど旅行者のお別れって突然来るんだよな。

ちょっと待っててと言って部屋から五円玉を取ってきてプレゼントした。
海外では穴の空いたコインは珍しいらしく、喜ばれると聞いたから持ってきていたのだ。

五円玉にはご縁と言う別の意味もあって、良い出会いと良い旅行を願う気持ちが込められているんだよと言うと二人はいたく感激してくれた。

朝からバードウォッチング。前に散歩で通った道なので目新しさはない。
その後にジョンとクリスが帰る事になったので、バス乗り場まで送りの車に同乗させてもらってついて行った。
 
クリスがバスに乗る前にレバノンのお金と、キリスト教のお守りのカードをくれた。

「俺が結婚する時にはマサに写真を撮ってもらおうかな。その時はレバノンに来てくれよ!」

と、ジョークとも本気ともつかない言い方でクリスは言った。

「オーケー!」と軽いノリで返してお別れに二人とハグをした。

クリスのハグは力強くて痛めた脇腹に響いて「おふっ!」と私
が呻くと、それを見てジョンが笑った。

そしてお互いに「グッドラック!」と言って彼等はバスに乗り
込んだ。
バスの後ろ姿を見送りながら、もしも本当にクリスの結婚式に参加できたら面白いだろうなぁと思った。

今までレバノンと言えばニュースで名前だけチラッと聞いたことがあるくらいの国だった。
そのレバノンに友人の結婚式のカメラマンとして行けるとしたらなんとワクワクする事だろう。
 
ネパールに来た事で世界がまた一つ広がったのを感じた。

そして出来るだけ沢山の人に持ってきた五円玉を渡せたらいいなと思った。


またね ジョン、クリス


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