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マンホールからベンガルトラまで その17

戸惑い


はあはあ。さて、一息入れよう。
メインストリートの方に戻ってレストラン青空で昼食だ。
ポカラでも日本食が食べれることに感謝する。

お店は木造のオープンテラスになっていて開放感がある。
頼んだのは酢豚定食。
メインの酢豚の完成度も去ることながら、ご飯に味噌汁、豆腐なんかの小鉢が3つもついていて、いろんな意味で満足度がすごい。

このお店は現地の人が経営しているお店らしいんだけど、出てきた料理は日本人ならホッとする味だった。
これを日本人じゃない料理人が作ってるんだから嬉しくなっちゃう。
そこにもまた感謝。

そしてここで食事すると旅行中の日本人とも知り合えるのが嬉しい。
 
その時話しかけたまさし君は大学生で夏休みを利用してネパール各地を旅行しているそうだ。
食後の散歩を一緒にすることにした。

これがネパールで食べれる感動よ


二人で湖畔を歩いていると若い現地の女の子が日本語で「こんにちは」と話しかけてきた。

こざっぱりとしたかわいい子だった。
そのあとは英語だったが、日本に興味があって勉強しているという。

まさし君は英語が堪能みたいで、話しを引き出すのが上手い。
外人さんとちゃんとコミュニケーションがとれて羨ましい。

その女の子は最近ネパールで起こった地震の震源地に近い村の出身だったらしくて、家族を亡くしたそうだった。

大変だったね、ぐらいしか二人とも言うことが出来なかった。
みんな少し黙った。

「それで家族を養っていかなければならないのでこれを買ってもらえませんか?」
と彼女がバックから出したのはお土産品のアクセサリーだった。
ん?なんか見たことあるぞ、このパターン。この風呂敷を広げて装飾品を見せる感じ。

あ、ピンポイント路上販売だ。
何度かおばちゃんに土産物の装飾品を買わないかと声をかけられたのを思い出した。
あれとおんなじなんだ、この子は。

そうなるとさっきの話しもどこまで本当かわからなくなってきたぞ。
いや、相手の同情する気持ちを利用してアクセサリーを売るようなやり方はそもそも好きじゃない。
さっきの話が本当かどうかは置いといたとしても、なんだか嫌だった。
 
純粋なまさし君はいたくその子に同情して、そしたらこれとこれを買うよと3つくらいのアクセサリーを買っていた。
わざわざまさし君の気持ちを踏み躙るようなことを知らせる必要はあるまいと思って、私は何も言わなかった。
 
女の子に「あなたは買ってくれないの?」と言われたので、「ごめんね、私には必要ないものだ。」
と答えると女の子は去っていった。
 
まさし君は不思議そうな顔で私を見ていたが、理由を聞いたり私を非難したりはしなかった。いい青年だな、彼は。

それからお互いにまた会おうと言ってまさし君とも別れた。

ビールとギター


夜のレストラン青空は飲み屋に変身する。

ご飯は食べれるし、特にどこが変わるというわけではないが、昼の明るい雰囲気のテラスから夜にはしっとりと暗めの灯りで飲めるお店になる。
従業員らしい男性が手が空くとギターを弾いて歌い出した。

晩御飯を食べたあと、ビールを一杯だけちびちびやる。
歩き疲れた体に音楽と酒が染みて優しい夜だ。
普段はあんまり飲まないんだけど、旅先で一杯くらい良いだろう。

「ナイスミュージック。」とギターを弾く彼に話しかける。
「サンキュー。」と顔を崩して笑う。

彼の名前は「エマ」と言うらしい。
私もギターの弾き語りをやるんだよ、というとじゃあ弾いてみてよとギターを渡される。
普段なら恥ずかしくてやらないだろうが、異国の地で酒が入っているのもあって、自前の曲を歌つきで披露する。

なんと歌ってるかはわからないだろうけど、エマは良いねえと褒めてくれた。

「ネパールの曲を教えてくれないかい?」と言うと、レッサンフィーリーリーという曲を歌ってくれた。
哀愁があるようで、ユーモラスな歌い口。ネパール人なら誰でも知ってる曲でみんなに愛されている民謡らしい。

コードを教えてもらって、歌詞をメモる。そんなに難しくないのでさわりだけならすぐに弾き語りすることが出来た。

おー、これでネパールの人との交流がとりやすくなるかも。
二人で笑って親指を立てた。

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