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【北極圏に来た】オーロラなんて見えない、あれは嘘だ

午前1時00分。

深く澄んだ夜空に、星が煌々と燃えている。

北斗七星、オリオン座、あれは・・・白鳥座?
星が見えすぎて逆に星座が分からない。

ああ、たまらなく美しい。
たまらなく美しいんだけど、そろそろつま先の感覚が無くなってきた。激烈に寒い。外気は‐10℃を下回った。もう中に入ろうかなと思いつつ、あともう少し、と気を取り直して「はぁっ」と手に息を吐いた。

今、僕はオーロラを待っていた。

・・・

遡ること数週間前。
ヨーロッパ旅を計画していた僕は、自室でインスタグラムを見ていた。もしかして今北欧行けばオーロラが見れるかも?とひらめき、情報を全力サーチ。そして、オーロラが見えるという町の写真家(もちろん知らない人)を発見。思い切ってDMを飛ばした。

「あなたの街でオーロラはどれくらい見えますか?」

すると1分後に、

「わりと毎日見えるよ!」

と気前のいい返事が帰ってきた。インターネットは優しい世界だ。気持ちを込めてThank youのGIFを3つ送った。もう、ここに行くしかない。

荷物を急いで揃え、ヒートテックを体中に纏って(ユニクロ感謝!)ついに僕は遠く北極圏の街に降り立った。

・・・

1泊目の晩。当初は予定していなかったけれど、オーロラハントツアーに参加することに。どうせ来たのなら、プロに連れてってもらおう。なけなしの予算から参加費1000SEK(約13,000円!)を投じて僕は課金オーロラハンターとなった。もう怖いものはない。オレツエエである。

「今日は天気もいいしきっといいのが見えるよ!」とガイドの方も饒舌。

わくわくしながらグループのバンに乗り込み、雲の無い場所を探しながら観測地へ。いよいよ到着し、躍り出るように外へ出てみる。月は明るく、空は限りなく澄んでいる。少しかすんだ雲があるくらいか。だがしかしオーロラは見えないようだ。でも大丈夫。良く待つっていうもんな。


ガイドさん:「オーケーみんな、今からオーロラの写真を撮るよ!!」


ほ???

いや・・・オーロラまだ出てなくね・・・???(嫌な予感)


「三脚にカメラを取り付けて、感度を上げてっと・・・そして長時間露光で撮影すれば・・・


ほらね。出来上がり!」


な。。。に。。。???!!


急いでガイドのカメラの画面をのぞき込むと、なんとそこには確かに緑の光が夜空にかかっていた。薄い雲だと思っていたものが、カメラを通してでは緑色に光っている。紛れもなく、写真で何度も見たことのあるやつ。

そう、オーロラだった。

おお!と歓喜の声が出るも、ここで僕は精一杯のツッコミを入れざるを得なかった。


「オーロラ、肉眼で見えないんかーーーいッ・・・!!!」


そんな僕とは裏腹に、「It's Like Magic!!」とガイドさんはキャッキャ喜んでいる。

マジックねえ・・・

その日、僕は並々ならぬ残念な気持ちを胸に抱えて宿に帰った。すごかったけどさ。まったく新手の詐欺に遭った気分だ。僕の諭吉先生が、北の夜空に散っていった。

・・・

あくる日。

宿のキッチンでコーヒーを入れていると、昨日ツアーが一緒だったアルゼンチン人の女性がおはよう、と起きてきた。一緒にカメラでオーロラを見合った悲しい同志である。僕も挨拶を返す。

僕:「おはよう!昨日、どうだった?(半笑い)」

すると女性は目を輝かせて(南米距離でめっちゃ顔近い)言った。

女性:「It was spectacular!!」

純度100%な彼女の答えに、僕は虚を突かれた。

女性:「オーロラの写真ってよくあるじゃない?あれってすごく派手だけど、アンリアルに思うの。昨日のは、自然の神秘って感じだった・・・」

彼女は数日間滞在していたけれど天候に恵まれず、昨日やっと初めての観測ができたそうだ。人生初のオーロラ。瞳の輝きそのままに、彼女は南半球へと帰って行った。

ああそうか。そうだよな。

僕は自分の器の小ささと、心のISO感度の低さに、穴掘って入りたいほど恥ずかしくなった。

・・・

簡単には見えないけれど、私たちの目の前で起きていること。
ほんのさざ波。光。電気。細胞。素粒子の激突。社会の歪み。なんでもいい。

それがどんなに小さくとも、どんなに透明だとしても、僕たち人間には彼らに気付ける好奇心がある。目を向ける方法がある。心を寄せられる、豊かな感性がある。人はこうして、いつもいつも新しく地球に出会い直しながら、前に進んできた。

人間の進歩が止まる時、というか、そもそも自分自身の歩みさえも止まってしまうときは、きっとこの好奇心や感性を忘れてしまった時なのだろうなと思った。

その夜、僕はカメラを手にして外に飛び出した。

・・・

午前2時05分。

相変わらず星は美しい。寒さは一段と強くなった。カメラ(熱伝導神な鉄塊)は限界まで冷え、5秒も素手で操作はできない。

よく見ると、空にだんだんと霞のような、カーテン状のもやがかかってきた気がする。

そろそろだ。

虚空に向かってカメラを向ける。ISOを高め、シャッタースピードをぐんと遅くする。三脚が無いので、ぐっとカメラを支えてシャッターを押し込んだ。昨晩とは、気持ちがまるで違う。

ところで南米の空は、今頃何が見えているのだろうか?
まあ普通に逆の宇宙だよなと思いながら。

カシャッ。
シャッターが切り終わった。


今、僕にはオーロラが見えていた。



Masato


(*オーロラは強さレベルによって肉眼で見える/見えないがあります。レベルが強い場合はちゃんと肉眼で見えるそうです。)

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