春|#2|小説「主役」

あの日から2回目の3月を迎えた。石巻の高校へ通うようになったのもあの震災の直後、この街で過ごしてもう2年が経とうとしている。東北の3月は真冬に比べれば寒さが緩んできたとはいえ、まだまだ冷たい風が吹いてくる。

真琴は陸上部で長距離を走っていたので、雨が降って学校のグラウンドが使えない日は山を下りて海の近くを走ることがあった。そこはもちろん、津波の跡で道路のアスファルトはなくなり、住宅地だったはずの家々は基礎を残して跡形もなくなっていた。そこらじゅう草が生い茂る。悲惨な痕跡が残る小学校の建物。しとしとと静かな雨音が自分たちの周りを包む一方で、走りながら視界に入ってくるものは全く穏やかではなかった。

自分たちが学校の中で見ている平和な日常と少しでも場所が変われば悲惨な現実を見せつけるこの街。一体、自分はこの街に通って何を知ることができたのだろう。知っている景色は、石巻駅から歩いて学校に行くまでの道のりと学校の景色、そしてぐるぐると走り続ける楕円のトラック。

その楕円のように、自分の高校生活は堂々巡りを繰り返すばかりで景色がさっぱり変わっているように見えない。一体この生活はあと何周すればゴールがやってきて、景色が変わる出口はあるのだろうか。この苦しみはどこかへ昇華される日がくるのだろうか。

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東日本大震災から2年後の2013年、高校3年生の斎藤真琴は高校生たちが石巻の実情を発信するネットラジオ番組を作り、“被災地を元気づける10…

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